2025/08/12
香港の老舗の歴史にまつわるお話を香港老舖記錄冊 Hong Kong Historical Shopsさんとのコラボでご紹介したいと思います。香港老舖記錄冊さんは、Facebookなどで香港の歴史的なお店を独自で取材して発信しています。香港文化の象徴として老舗の存在は欠かせない、老舗が存続していくことが香港の文化を盛り立てることだと言います。香港を愛するHong Kong LEI編集部のわたしたちもまた、昔から愛され続けている香港で誕生した商品が、どんな会社によって作られ、どんな背景で誕生したのか、また、どんなところで、どんなふうに作られていたのかなどを垣間見たくなりました。題して「香港オタクのための愛すべき香港老舗の歴史をたどる」です。でも長いのではしょりまして(笑)「香港老舗の歴史をたどる」と命名いたしました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
今回ご紹介するのは、利昌塩干雑貨店です。梅菜や榨菜、豆豉や腐乳など伝統食材と雑貨を取り扱っています。日本を含む海外とも取引しているそう。仕入れ先や顧客とは長年の付き合いで信頼関係が強く、従業員とも家族のような関係を築いているといいます。一度訪れて、老舗ならではの人情を感じてみたいですね。
利昌塩干雑貨店 – 西営盤
創業:1937年
業種:塩干食品・雑貨販売
住所:西営盤 東辺街30号
執筆:Mia
撮影:Easy @chilllifehk
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利昌塩干雑貨店(以下「利昌」)は1937年に創業し、当初は夫婦が経営していました。主な取り扱いは塩漬け魚の卸売で、塩干食品は一部に過ぎませんでした。1960年代に入り、政府が屋上での塩漬け魚の天日干しを禁止する法律を制定したことを機に、利昌は塩干食品と雑貨の卸売に専念するようになりました。
「塩干食品」とは、梅菜や榨菜などの漬け野菜、副菜、豆豉や腐乳などの調味料を指します。
創業者夫婦はその後、店を娘夫婦(潘氏)に引き継ぎました。1999年、周日新氏が中国本土から香港に移り、最初の仕事として利昌で店員を務め、潘夫妻から経営を学びました。潘夫妻は周日新氏を高く評価し、自分たちの子どもが跡を継ぐ意思がないと分かると、彼を次世代の後継者として育てました。2016年、周日新氏が店を引き継ぎ、新しい店主となりました。利昌は創業から88年を経て、露店から始まり、徳輔道中158号、164号へと移転し、2011年に現在の場所に落ち着きました。
利昌の商品は、長年取引を続けている仕入れ先からのものが多く、中には二世代、三世代にわたって付き合いのある相手もいます。その中で特に代表的なのが「惠州梅菜」で、恵州市の工場から利昌が独占的に卸しています。恵州梅菜は「恵州貢菜」とも呼ばれ、秋の稲刈り後の田んぼで栽培され、稲の養分を吸収して育ちます。秋に種をまき、春に収穫し、天然の塩漬けと天日干しで仕上げるため、年に一度しか作られません。一般的な梅菜に使うカラシ菜やカイシン菜とは異なり、色はより黄金色で香りが濃く、体を冷やしにくい穏やかな性質を持ち、より健康的です。
周日新氏は店の商品一つひとつを熟知しています。例えば、羅定産の豆豉は柔らかく、軽く握ると豆油がにじみ出て香りが広がります。順徳産の牛乳はミルクの香りが豊かで、塩気とうま味があり、お粥にぴったりです。そのほか、新会産の陳皮、増城産の欖角、広西産の枝竹、台湾産の竹の子など、小さな倉庫はまるで宝庫のようで、どれも歴代の経営者と周日新氏が厳選した品々です。近年、利昌は隣の店舗も借りて倉庫を拡張し、2000種類以上の商品を保管しています。梅菜だけでも20種類以上あり、周日新氏は必ず自ら試して品質を確認してから販売しています。この厳しい姿勢が、香港全域はもちろん、アメリカ、カナダ、日本など海外にも顧客を広げています。
今回の訪問は端午節直後で、倉庫にはまだ2~3束の粽葉(チマキの葉)が残っていました。息子のKelvinさんによると、端午節前にはコンテナ1台分の粽葉を仕入れ、香港各地のレストランや食品工場に卸しているそうです。端午節だけでなく、旧正月も繁忙期で、年末には店内いっぱいに瓜子や糖冬瓜などの伝統的な年賀食品が積まれます。周日新氏は「年末は客足が絶えず、かつては店をぐるっと4重も囲むほど行列ができた」と振り返ります。
長年の営業で、利昌は多くの顧客と深い信頼関係を築いてきました。店主や店員は客に真心で接し、周日新氏の妻は手作りのおやつを客に振る舞います。客もまた西洋菓子や果物を持って訪れ、まるで長年の友人のような付き合いです。取材中の2時間にも、客がひっきりなしに訪れました。狭い店内には全商品を並べられないため、常連客は欲しい商品があるか尋ね、店主が倉庫からまるで魔法のように取り出し、丁寧に説明していました。
西環は老舗が多い地域で、店同士の関係は良好です。互いに商品を融通し合い、共同でトラックを借りて配達することでコストを抑えます。時には、他地区や海外からの客が特定の商品を探していると、他の店主が道案内をしてくれることもあります。前日も、山東省からの旅行客が塩漬け金柑を探して街を歩き回り、ある老舗の店員に案内されて利昌を訪れ、90個を購入して家族や友人への土産にしたそうです。
また、利昌では従業員と店主の絆も深く、現在6名の従業員の多くは潘氏時代から勤めており、離職率は非常に低いです。今でも周日新氏の妻は毎日手作りの昼食を用意し、単なる雇用関係を超えて家族のように助け合っています。
創業から88年、利昌は伝統的な経営スタイルを守り続けています。竹籠での現金受け渡しや手書き帳簿での記帳など、昔ながらのやり方を今も続けています。壁に掛けられた少し色あせた看板は、西営盤の移り変わりを静かに見守ってきました。そして店内に流れる人情味あふれる温かさは、年月を経てもなお変わらず、訪れる人々を包み込んでいます。
取材日:2025年6月21日
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