2025/06/20
「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港で輝いている人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。
宙を舞う、世界で舞う!
Web : https://www.mizuki-shinagawa.com
聞き手:小林杏
編集:野津山美久
〈目次〉
〈頭の中はサーカスでいっぱい〉
〈自分にしかできないオリジナル演技〉
〈そして次の夢へ〉
〈瑞木さんに3つの質問〉
〈頭の中はサーカスでいっぱい〉
天井から降りてくる長く幅広い真っ赤な布。それを両腕に絡ませた品川瑞木さんが、ふわりと宙に浮く。空中で繰り広げられる彼女のダイナミックなパフォーマンスと、布がリボンのように舞う美しさに、観客から歓声が上がる。
©Bernard Letendre シルク・ドゥ・ソレイユ『KOOZA』での瑞木さんの演目『Silks(シルク)』
サーカスで空中演技をするパフォーマーたちを、エアリアル・アーティストと呼ぶ。その中で、瑞木さんが行う、長い布を使う演目が「エアリアル・シルク(Aerial Silk)」だ。エアリアル・ティシューと呼ばれることもある。
シルク・ドゥ・ソレイユ『KOOZA』ツアー2年目の彼女は、「毎日公演をする度に自信がついていくから、今日という日が一番自信のある日」という。その彼女の堂々たる演技に、「人間は布があれば宙を自由に舞える」と錯覚を起こしてしまいそうだが、常人には垂れている布につかまっていることさえ難しいだろう。
「シャイで、机の下に潜り込む幼稚園児」だった瑞木さんがこの世界に入ったきっかけは、6歳の時に見た、サーカスを題材にしたアニメ『カレイドスター』。主人公が空中ブランコをする姿に魅了されたのだ。
一人で開脚や側転を練習し始め、その後、新体操を経て、14歳でエアリアル・シルクに転向。「高いところにいる自分はかっこいい!」と、憧れていた空中ブランコではなかったけれど「ここで突き抜けて、海外に出よう」と思った。シルク・ドゥ・ソレイユの日本公演やラスベガスでのショーを見る中で、サーカスの本場は海の外にある、とこの時すでに見定めていたのだ。
左:幼い頃の瑞木さん。公園の遊具のてっぺんまで登ってピース。右:新体操の大会に出場する瑞木さん。
「学校の成績が悪かったらレッスンはなし」と親に言われ、試験には丸暗記で臨むも、授業中は常に、エアリアル・シルクで次に何を訓練すべきかで頭がいっぱい。当時、布を持った状態で体をコントロールすることに苦労していたのだ。1分でも無駄にしないで練習したい! そんな10代だったという彼女は「それくらいクレイジーじゃないと、道は極められない。でも、やばい人だったかも」と明るく笑う。
〈自分オリジナルの演技を作り上げる〉
振り返ると「自分、すごかった」と思えるほどの練習量をこなし、演技やバレエにも励み、瑞木さんは、600人の入学希望者から25人しか入れない難関、モントリオール・国立サーカス学校へ合格。高校卒業を待たず、大検を取得してからの入学だった。
突き進むことに迷いはなかったのかと問うと「情報が少ない時代で、トップで活躍するアーティストの姿しか知らなかった。だから、一流になれなかったら……なんていう迷いはなかったですよ」。
学校は朝8時半から。アクロバット、柔軟、演技、それから自分の専門技等の授業があり、夕方6時に学校が終わった後も、トレーニングを続けたという。
モントリオール・国立サーカス学校時代の公演。中央に立つ赤いコスチュームの女性が瑞木さん。
「素晴らしい仲間に囲まれ、トレーニングができ、自分の演技を作り上げていく。毎日、楽しくてしょうがない!」と思った瑞木さん。疲労も、自炊も、雪の中を登校することも厭わなかった前向きな彼女だが、唯一、授業がフランス語で、うまく意思疎通ができないことは辛かったという。
2年生の時、「体はこんなに動くのに、何故あと1年も学校に通うの? 早くお客さんの前に立ちたい」と不満を抱き始めた。でも、「あれは自分というブランドを確立する貴重な時間だった」と振り返る。「スキルがあるだけじゃ、ただのマシーンになっちゃうから」。
モントリオール・国立サーカス学校の卒業式にて。卒業証書を手に。
高い技術の上に積まれた、スピードと力強さのある瑞木さんのオリジナルの演技は、他では見ることができない。そんな彼女に、卒業後はオファーが殺到。世界を転々とし数々のショーをこなし、ついに「人生が輝き始めた」という。でも、その矢先、コロナ禍で舞台に立てなくなる。
鬱々としていた時、イベントプロデューサーの松本一晃氏から声をかけられ、一緒にショーを作った。「彼に救われました」という瑞木さんは、この時から舞台制作側の仕事を学び始めている。現在、この二人が関わるサーカス団体「シルクワーク(Cirque Work)」は、海外で注目を浴び、世界ツアーをするほどの実力を持つ。
〈そして次の夢へ〉
瑞木さんは、コロナ禍が明けた、2022年から巡回公演『KOOZA』に参加、現在はツアーの合間に他のカンパニーとの仕事もしている。
リハーサル中。舞台左下に立つアクロバティックコーチや、ステージマネージャーと最終確認を行う。
実はシルク・ドゥ・ソレイユの仕事一本だったツアー1年目、人間関係や自分の演技に悩み、スタッフの前で何度となく泣いたことがあったという。その時にスタッフから受けたアドバイスは「瑞木は色々なショーに出るほうが輝いている」だった。
世界的に有名なシルク・ドゥ・ソレイユでは、立派な舞台装置があり、衣装、道具も支給される。そこで完璧に作り上げられたショーを披露し、観客が喜んでくれた時、瑞木さんは「やっていてよかった」と心から思う。でも、フリーランスとして「全て自分でやる勢いも必要」とも感じる。それに、小さめの舞台で、子ども達の笑顔を間近に見ながら演技をするのもワクワクする。だから苦労はあっても、自分達で自由に創作ができるカンパニーとの仕事へ情熱を注ぐ時間は大切なのだ。
シルクワークの仲間たちと。左から3番目が松本一晃氏。その右隣が瑞木さん。
「箱に入れられると(外に出たくて)うずうずしちゃう」という瑞木さんは、次の目標が視界に入っている時、心身共に充実し、最高の演技をすることができるのだろう。パフォーマーとしての絶頂期にある彼女を支えているのは、「ショーを作って、才能ある若いアーティストを世界に送っていく」という新たな挑戦への意欲に違いない。
そして、若い子達にはこう指導している。「“こうなりたいけど、でも……”って、“でも”という言葉が出た時点でダメ!! なりたいのなら、筋力をつける、柔軟をする。目標を作って練習するべき。そうやって自分のやりたいことに視点を定めて突き抜けて」。
その言葉に、彼女が舞台上で見せる、自信に満ち溢れて輝く姿の原点を見たような気がした。
〈瑞木さんに3つの質問〉
Q1 過去のお話を伺っている時、両親への感謝の気持ちを何度も口にされました。家族と遠く離れての生活は寂しくないですか?
全く平気です。現地の人々と知りあうから寂しくないし、公演中は、ショーの後、団員達とビールで乾杯するひとときが楽しい。一人旅も好きで、頭の中を整理するのに一人の時間は大切。
Q2 日本に帰ると必ず食べたいものはありますか?
なんだか、呑兵衛みたいに聞こえるかもしれませんけど……ハイボールが飲みたい(笑)。久々に帰国すると、コンビニでおにぎり買って、鳥貴族とか吉野家とかで普通のもの食べて、すごくおいしいな、って思う。日本では何食べてもおいしい!
Q3 ご自身が思う、「かっこいい人間」とは?
強い女性が好きだから、レディ・ガガ。自信に満ち溢れて戦っているっていう感じがかっこいい。いつかレディ・ガガとコラボしたいな。
趣味で仕事仲間と写真撮影をするという瑞木さんの美しいショット。舞台とはまた一味違う趣きだ
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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