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2026/03/24

©︎Hong Kong LEI

香港・西九龍文化区にある現代美術館 M+ では、韓国を代表する現代アーティスト、イ・ブル(Lee Bul)の大規模回顧展「Lee Bul: From 1998 to Now」が開催されています。

1990年代後半から現在に至るまでの作品を中心に、彫刻、インスタレーション、絵画、ドローイングなど200点以上を展示する本展は、イ・ブルの約30年間の創作を総合的に紹介するものです。今回の大規模展は、韓国のリウム美術館(Leeum Museum of Art)とM+の共催で、9月以降は2027年秋まで各地を巡回する予定です。

Lee Bul: Image courtesy of M+, Hong Kong photo by Dan Leung

彼女は、1980年代後半のデビューから約40年にわたり、ジェンダーや、テクノロジーや、社会的な変化をアートで表現し続け、多くの次世代アーティストに影響を与えた存在です。イ・ブルの作品は、潜在的に誰もが持つ普遍的なテーマであり、その深いメッセージが高く評価されています。また、アジアだけでなく、アメリカやヨーロッパの重要な美術館やギャラリーでも広く展示されています。

 

展示会場の3つのセクション

さて、今回の会場は、M+で最大の展示室です。初期作品から2024年の新作までを3つのセクションに分けて、展示作品数は200点以上です。セクションは以下の通り。

1)ユートピアの夢の風景

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イ・ブルの大規模な彫刻作品「Mon grand récit」や2次元作品が展示され、失敗したユートピアの美学に焦点を当てています。この美しも、儚くも、恐ろしくもある展示に違和感を覚える人もいるかもしれません。それこそが彼女の狙いなのです。

M+で開催中のInstallation view of Lee Bul: From 1998 to Now, 2026  Photo: Lok Cheng Image courtesy of M+, Hong Kong

会場に入って最初に現れるのは、建築の骨組みのような巨大なインスタレーションです。アルミニウムの構造体にクリスタルや光が組み合わされ、まるで未来都市の模型の中を歩いているかのような感覚になります。

©︎Hong Kong LEI  Mon grand récit: Weep into stones… 2005
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イ・ブルはこれらの作品で、近代が夢見た「ユートピア」をテーマにしています。20世紀には、科学や建築、技術の進歩によって理想的な社会が実現できるという大きな希望がありました。しかし同時に、その理想は多くの場合、歴史の中で挫折してきました。希望と失敗が同時に存在するこの景色は、人間の歴史そのものを象徴しているようです。

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2)身体と技術:サイボーグとアナグラム

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展覧会のもう一つの見どころは、イ・ブルの代表作で初期の作品として知られる「Cyborg(サイボーグ)」シリーズです。宙に浮かぶ人体の彫刻は、一見すると古典彫刻のような美しさを持っていますが、よく見ると頭や腕、脚が欠けています。未来的な装甲のようなパーツが付いているものもあり、人間と機械の境界が曖昧になった存在として表現されています。

これらの作品は、テクノロジーによって人間が進化する未来への期待と不安を同時に見せています。完璧な身体を追い求める人類の願望と、その理想が常に未完成であるという現実。イ・ブルは、その矛盾を彫刻という形で可視化しています。

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このシリーズが制作された1990年代末は、インターネットやデジタル技術が急速に広がり始めた時代でした。現在のAIやバイオテクノロジーの発展を思うと、彼女の視点がいかに先見的だったかを感じます。


3)アーティストの思考内部

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最後のセクションでは、イ・ブルの創造的プロセスを探ります。約100枚のドローイングと、彫刻、インスタレーション、壁面作品のための精密にスケール化されたオブジェが展示され、自立したアート作品としても、彼女の作品の研究としても機能します。

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巨大なインスタレーションの背後には、非常に緻密な構想と計画があることがよくわかります。彼女のスタジオを垣間見るような貴重な機会を観客に提供し、彼女の哲学的な思考や、想像力豊かな概念がどのようにアートに変換されるのかを紹介しています。

未来都市の設計図のようなスケッチや、幻想的な構造体のアイデアが描かれた紙片を見ていると、作家の思考の流れを直接覗き込んでいるような気持ちになります。完成した作品だけでなく、そのプロセスまで見せることで、観客はイ・ブルの世界観をより深く理解することができます。

©︎Hong Kong LEI

彼女のアートは、イ・ブルが幼い頃に北朝鮮とのボーダーに近いエリアに住んでおり、自身の抑圧された中で成長した背景や経験が起源となり、作品に影響を与えていることが重要な鍵となっているそうです。

作品を見ると観客は感情や思考を揺さぶられます。それは社会の権力や抑圧、恐怖による複雑な感情を呼び起こされ、自己の存在意義やアイデンティティを問われるからです。

こうした要素が組み合わさることで、イ・ブルは作品を通じて深いメッセージを発信し、観客に考えさせる機会を与えています。

Image courtesy of M+, Hong Kong photo by Dan Leung

展示会を後にして

超高層ビルが並び、常に変化し続ける都市である香港は、近代が夢見た側面を持つ「未来都市」の成功イメージのようにも見えます。しかしわたしたちの都市にも確実に「夢と不安」はあり、人間の欲望の脆さも存在します。誰もがユートピアを夢見ているはずなのに、今日も世界では戦争が止みません。「夢を見ることの本当の意味」を改めて問いかけられた気がしました。

M+ 「Lee Bul: From 1998 to Now」

会期: 2026年3月14日〜8月9日
特別展チケット:HK$190~
場所:West Gallery, L2,M+, West Kowloon Cultural District, 38 Museum Drive, Kowloon
詳細:M+ Webサイト

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