2025/08/09
四川料理と聞くと、「オイリー」「辛そうな真っ赤な鍋」「唐辛子に埋まったチキン」などを想像する人も多いのではないでしょうか? 何を隠そう、わたしが正にそうでした。ショッピングの中心地、銅鑼湾のミッドタウンに7月7日にオープンした「紅粧蜀語(Sichuan Rouge)」で、「四川料理を全くわかっていなかったー!」と言う体験をしましたのでお届けしたいと思います。四川料理初心者のわたしですが、お付き合いいただければと思います。

傳統口水雞Chilled Chicken in Chilli Peppercorn Sauce
四川料理とは
「百の料理と百の風味(百菜百味)」と言われるほどの複雑さと多様性で敬われている四川料理は、地域によってスパイスの合わせ加減が異なります。これは四川で3,000年以上にわたって磨かれた香辛料の調合技術で生み出された芸術的食文化とも言えるでしょう。四川省は盆地のため湿気が高く、唐辛子や香辛料を多用して体を温め、発汗を促す食文化が発達したそうです。
香港では一般的に、四川料理と言えば単に花椒(花山椒)の痺れと、赤唐辛子の辛味を合わせた「麻辣」だと思われている部分があります。確かに「麻辣」は香港でも馴染みが深く、香港人の間でも愛される味付けです。ただ、実は香港人は辛いのが苦手な人が多く、四川料理は香港人の口に合うようにアレンジされているところが少なくないそうです。また、四川料理イコール辛くて(麻辣で)オイリーという固定観念があり、そのイメージだけで敬遠されたりもするので、本当の四川料理を食べられる店は案外少ないそうです。
四川料理が素晴らしいのは、
1、計算し尽くされた唐辛子と花椒のコンビネーションがある
2、40種類以上の香辛料や生薬も合わせている。
3、辛さの深さや伝わり方の違う唐辛子を数種類組み合わせている
4、基本砂糖は使わない
5、スープ(ソース)のベースは地域やシェフにより秘伝のスパイス調合がある
今回学んだ触りだけでもこんなに!
馬家蒜泥白肉 Sliced Pork with Garlic and Dark Soy Sauce
さて、つい熱くなり、前置きが長くなりました。この続きはまた後でするとして、「紅粧蜀語(Sichuan Rouge)」に入ってみましょう。
「紅粧蜀語(Sichuan Rouge)」へ
お店は銅鑼湾ミッドタウンの27階。ビルに入って真正面にあるエレベーターに乗り込みます。オープンしたばかりとあって、本当に綺麗で、四川料理のテーマカラーとも言える真紅と焦茶を基調とした中国の宮廷のような内装。ゆっくり食べたい女子会や、仕事での会食などにも十分利用できそうです。
ブース席もありますが、数は少ないので予約をおすすめします。各テーブルで鍋がセットできるようになっています。
ここではコース料理、アラカルト、鍋もあり、ランチ時にはセットメニューがあります。HK $100前後で食べられるので、とてもお得感がありますが、こちらは香港人ビジネスマンに向けたメニューとして出しているそうで、辛さや香り、ニンニクの量や香辛料も全て抑え気味にしているそうです。もし本格派の四川料理を食べたいならアラカルトから選んでみましょう。
お店からおすすめしてもらった料理は
馬家蒜泥白肉 Sliced Pork with Garlic and Dark Soy Sauce
傳統口水雞Chilled Chicken in Chilli Peppercorn Sauce
藤椒老壇海鮮泡菜Cured Slow-Cooked Shrimps, Abalone, Squid and Assorted Vegetables
岩鹽燈影牛肉Deep-Fried Sliced Beef with Sichuan Peppercorn with Rock Salt
現磨貢布胡椒酸辣湯Hot and Sour Soup with Freshly Ground Pepper
宮保脆茄蝦球Sautéed Prawn with Eggplant in Sweet and Chilli Kungpao Sauce
碗豆豉回鍋肉 Twice-Cooked Pork with Black Bean and Soybean Paste
水煮安格斯牛Sichuan Style Boiled Angus Beef
辣子通心燻鰻 Chilli Fried Smoked Eels wrapped with Pork Intestines
非遺臨江鱔絲Grilled Lin Jiang Fresh River Eels with Sichuan Peppercorn
成都擔擔麵Chengdu Dandan Noodles
今回この中から3品をご紹介します。
藤椒老壇海鮮泡菜Cured Slow-Cooked Shrimps, Abalone, Squid and Assorted Vegetables
まずは前菜。藤椒老壇海鮮泡菜(Cured Slow-Cooked Shrimps, Abalone, Squid and Assorted Vegetables)。最初から驚かされました。こちらは、読者全ての方に選んでいただきたい前菜です。唐辛子の四川風漬け物の汁と緑の花椒(花山椒)が合わさったソースに具材をマリネしたものです。眠気が吹っ飛ぶような爽快なスパイシー感に、瞳孔が開くようなシャープでフローラルな花椒の香り。高揚感が増します。辛いのですが、それ以上にスパイスの華やかさを感じて、とても楽しく新鮮でした。
マネージャーが、四川のスパイスについて教えてれました。この箱以外にもたくさんの香辛料や唐辛子の種類があるそうですが、四川料理の基本は唐辛子と花椒(花山椒)です。実はこれだけでも大変奥が深いのです。日本人には馴染みのない方も多いかもしれませんが、花椒は、火を加えると華やかで爽やかな、胡椒と山椒を混ぜたような香りが立ちます。言葉で形容しがたく、個人的には高貴な香りです(笑)。この花椒の大きな特徴は、口に入れて少しすると、だんだん舌がジンジン痺れて口の中が酸っぱい感覚にしばらく襲われます。ゆるい山形の曲線を描くように時間をかけて辛さと痺れを味わうことになります。ローカル料理でも人気の米線(お米でできたヌードル)の麻辣スープなどは、この花椒が入っています。
赤い花椒(左上)、緑の花椒(中央上)、カンボジアの白胡椒(右上)花椒と赤唐辛子と胡椒は四川のトリオと言われる香辛料です。
この花椒には赤と緑があり、本来の四川料理では赤は熱する料理、緑は冷菜と使い分け、ミックスすることはないそうです。(お店の方曰く、ミックスするのは使い方を知らないからだとおっしゃってました。笑)
そして中央の3種と、下の段の中央は全て唐辛子で、それぞれが口に入れた時に辛さを感じるもの、旨みがありじわっと辛さと痺れを感じるもの、後を引く辛さを感じるもの、辛くて酸っぱさを感じるものとそれぞれの特性があり、二荊条辣椒(中央段左)などは香港では手に入らないのでわざわざ四川から輸入しているそうです。そのほか、消化を助けるナツメグ(下段左)や体の鎮痛を和らげる白芷(パァイジィ)(下段右)と言う生薬なども使うそう。料理によっては花椒は使わずに唐辛子だけを使う場合もあるそうで、海鮮や肉などの食材によっても、使う唐辛子も変わるそう。そのほか、にんにく、生姜、ネギのマストアイテム以外に、陳皮(みかんの皮)やシナモン、カルダモン、甘草など40種類以上の香辛料をさまざまな塩梅でミックスして作られるので、そこが単に「麻辣」とは一線を画すると言われる所以です。まるでマジックポーションでも作るような何百という方程式が存在しそうですね。
碗豆豉回鍋肉 Twice-Cooked Pork with Black Bean and Soybean Paste
日本人には馴染みがあり、まろやかな郷土料理、碗豆豉回鍋肉。辛さは全くなく、ちょうどよい箸休めとなり、最後のトリになる料理、遺臨江鱔絲のために準備万端にリセットできました。マネージャー曰く、基本は1品ずつ味の薄いものや、辛さの弱いものから順々にサーブしていくそうで、料理の組み合わせによっては辛いものが続く場合は辛くないものを選択するなどのアドバイスもしてくれます。四川は辛いと思われる人も多いかもしれませんが、辛くないお料理もたくさんあります。
トッピングの丸く黒いものは香港でもよく見る豆豉のようですが、ここに入っている豆豉は、四川豆豉でグリーンピースを1年醗酵させたもの。これも四川からわざわざ運んできているそうです。香港の豆豉に比べると味も塩っぱくも酸っぱくもなく、優しい素朴なホクホクしたお豆という感じ。
非遺臨江鱔絲Grilled Lin Jiang Fresh River Eels with Sichuan Peppercorn
さて、今回の1番の楽しみが、非遺臨江鱔絲、川うなぎと花椒の煮物がいよいよやってきました。お店の方曰く、5段階のうち4ぐらいの辛さとのことでしたが、辛いものが好きなわたしには(譚仔三哥の小3辛常食)、そこまで辛いとは感じませんでした。それよりも花椒の痺れの始まりから終焉までをしっかり味わえる濃厚なソースで、旨味と辛味と痺れと香りが絶妙に混じり合い、むしろソースの方が主役と感じるほど素晴らしく、しっかり最後まで食べたいと思う逸品でした。「麺を絡めて食べるとおいしいですよ」というマネージャーのおすすめ通りにしてみると、箸が止まらなくなってしまいました(麺はサイドメニューからオーダーしてください)。この濃厚さは四川で使われているスパイスだけの組み合わせでできているそうで、雑味のない辛くて酸っぱくて後をひく、食べるたびに目から青い花火が飛び散るような感覚(笑)で癖になりました。また次回来るときは絶対オーダーする一品です。また「紅粧蜀語(Sichuan Rouge)」で使うオイルは、沸点が90度の新鮮なミックスベジタブルシード・オイルだそうです。
個人的な感想ですが、不思議なことに、お昼にこの四川料理を食べたにもかかわらずお腹のあたりが夜までほくほくして、胃もたれもなく、いつもより幸せ感が増したような高揚感に包まれて過ごすことができた気がします。これも何種類ものスパイスの効果かも? 辛いから怖いと思っている読者の方には、「紅粧蜀語(Sichuan Rouge)」で奥深い四川料理の魅力をぜひ感じていただきたい。そう思った体験でした。
四川料理のトップシェフのコラボ
「紅粧蜀語(Sichuan Rouge)」では、二人のシェフが腕を振るっています。1人は四川から著名な四川料理人の胡太清シェフ。彼は30年以上にわたるキャリアの中で、数々の受賞経験を持ち、四川地区の第7回中国ホテル業界プロフェッショナル技能競技会での「金賞」や、他での「料理王」賞などがあり、中国本土のテレビ料理番組にも出演するなど、腕も確かな有名シェフです。
また現代四川料理の「歩く辞書」として知られる陳啟德シェフは、香港で四川豆板醤工場を経営していた料理人の家系に生まれました。シェフとしての60年近いキャリアの中で、彼はミシュラン星付きの四川レストランのコンサルタントを務め、多くのトップレストランのキッチンを指揮してきました。ミシュラン推奨の「雲宴」や「ルミエール」、「四川ラボ」、「慈春楼(湾仔)」、そして「ワールドトレード・センタークラブ」などが含まれます。
「四川のキッチンでほぼ60年を過ごしてきた中で、「紅粧蜀語(Sichuan Rouge)」のメニューのすべてが、四川料理の豊かな歴史を反映していると信じています。伝統的な技術を披露しつつ創造性を加えることはわたしたちの名誉であり、ゲストに四川料理の宝物を体験してもらいたい」と陳啟德シェフは述べています。
紅粧蜀語(Sichuan Rouge)
住所:27/F, Soundwill Plaza II, Midtown, 1-29 Tang Lung Street, Causeway Bay, Hong Kong, 営業:12:00 noon to 3:00 p.m. | 5:30 p.m. to 2:00 a.m. (月〜土)
12:00 noon to 3:00 p.m. | 5:30 p.m. to 1:00 a.m. (土、日祝日)
予約 (852) 9370-6345, WhatsApp (852) 7045-4963,
email reservations@sichuanrouge.com
www.instagram.com/sichuan.rouge
辣子通心燻鰻 Chilli Fried Smoked Eels wrapped with Pork Intestines
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