2023/12/05

香港の工業地域の黄竹坑(Wong Chuk Hang)は、昔、倉庫街にギャラリーが集まり超オシャレなエリアとなったニューヨークのSOHOの初期の頃を彷彿させます。ここに、日本人とフランス人の両親を持つWilliam Kayne Mukaiさんが、自分の名前のイニシャルを掲げたアートギャラリーWKM GALLERYをオープンしました。まだ40歳にも満たない彼が、敷地面積が2600sqもあるギャラリーを自身のこだわりと独自の美的感覚で、日本の建築家、二俣公一氏率いるCASE-REALと実現。白い壁にホワイトオークの床張りの展示室は、能の舞台を意識して床上にしてみたそう。ギャラリー内にはちょっと不思議な空間があったり、部屋の向こうを見渡せる隙間があったりと、創造することは、ユニークな遊び心と自由で柔らかい発想でやっていいんだというメッセージを投げかけてくれるようです。スタッフは、ギャラリーのスペースは、今後、絵画だけでなく、インスタレーションや彫刻やセラミックなどを展示したり、ファッションショーやイベントなどにも使用してみたいと熱く語ってくれました。

4つの間(スペース)で成り立っているWKM GALLERY。
今回のグループ展についてWilliam Kayne Mukaiさん自ら説明

Gallary初の展示会の今回は、日本人の現代アーティスト12人によるグループ展“Metamorphosis:Japan’s Evolving Society”(2024年1月5日まで)。Metamorphosisを辞書でひくと「(物理的な構造や状態が)変質、変態、変容、変化、一変する」とあります。今回のこれらの作品が皆、何らかしらのMetamorphosisで繋がっているそう

と、いうわけで、今回展示されている作品の中から5人のアーティストの作品をご紹介しましょう。

 

12人のアーティスト

Yuichi Hirako (平子雄一) 

Tatsuhito Horikoshi (堀越達人) 

Ei Kaneko (金子英) 

Takumi Kokubo (小久保拓海) 

Akitsuna Komori (小森紀綱) 

Hiroya Kurata (倉田 裕也)

Tomona Matsukawa (松川朋奈) 

Ryo Matsuoka (松岡亮)

Minori Oga (相賀美規)

Hiro Sugiyama (ヒロ杉山)

Ichi Tashiro (田城一)

TIDE

 

ギャラリーのメインスペースに入ると真っ先に目に飛び込んでくるのは平子雄一氏の「tree man」と呼ばれている彫刻と「Lost in Thought」という名の絵画。一度観たら忘れないユニークなこのキャラクター。頭部が鹿の角とモミの木になっている人? いや、人の体が生えてきたシーズンオフのクリスマスツリー? 植物や自然、人間の関係性をテーマに生み出された作品は、観た人が持っている自然と人間についての思想を反映し形作られるものかもしれません。

積み上げられたパルプ(本)の上に立っている、木で作られた「tree man」。日本の民間伝承である木霊や木の精霊から発展したものだそう。

2作品目は、とにかく多彩なことで知られる松岡亮氏のミシンと布を使った刺繍絵画作品。ファッションブランドとのコラボレーションや展示、本の表紙画提供など、これまで国内外の多様なシーンで活躍してきました。絵の具を糸に変えて制作した大変興味深い抽象画は、「色が素敵」「構図が独特」 「タッチが面白い」など、素直に感じたままを楽しんでみましょう。今回12枚の作品が飾られていますが、1枚から購入が可能なのだそうです。

3作品目は、ヒロ杉山氏のブラックペインティングシリーズ。既存の作品の抽象度を上げるために⿊くシルエット化して、既存のもっと先の新たなイメージの世界を探る試みです。黒いアクリルで描くだけなのに、その立体的に置かれた絵の具と筆のタッチやストロークでだけで、あたかも色鮮やかなオリジナルの作品が力強く目前に迫ってくるようでもあります。

以下2枚はゴッホの作品をモチーフに制作したものです。実は右の「ひまわり」は日本人の山本顧彌太(こやた)という実業家が購入したもので、しばらく個人宅に飾られていましたが、1945年の空襲で焼失してしまった幻のゴッホの作品(7点のひまわりを参照)です。

左はオルセー美術館所蔵の浮世絵の影響が色濃い日本の花瓶に生けた「薔薇とアネモネ」を題材とした作品。

そしてゴッホの恋人でもあったと言われるゴーギャンの作品、ハンガリーのブタペスト美術館所蔵「The Black Pig」も近くに飾られていました。

そして4作品目は、大変興味深い田代一氏の作品。現在彼は香港の離島に住んで、制作活動を行なっています。彼は展示会のために制作活動を行う時は、その会場のある場所に住んで、その場所にある材料を使って創作活動をするのだそう。中央の作品は「梅窩(ムイウォー)から見た夕日」。彼が離島で見て感じた夕日や海や自然の力強い生命力が飛び出してきそうな作品です。この作品はよく見ると木板を彫って色とりどりの折り紙を貼り付け、エッジングして制作されています。

田代一氏の作品は、「彫刻とコラージュ」という木材を「彫る」と色紙や新聞などを「貼る」という2つの行為が不可欠なのだそう。一見単純で、「彫刻」や「コラージュ」のように有形的で限られた要素に頼らざるを得ない領域だからこそ、彼は事前の綿密な計画をあえて避け、無形的な概念の本質を捉えるべく、目の前にあるものを使って表現するそう。創作過程には、即興性を取り入れ、作品との対話からインスピレーションを得た瞬発力や創造性に頼ることが多いんだそうです。だからこそのこの大胆さと、パワーなのかもしれません。

最後は、女性の立場から見てとても力をもらった相賀美規氏の作品。よく見るとキャンバスの上に砂が霧のように舞っているようです。これはアクリルに石粉を混ぜて描いているそう。前に立つと不思議と落ち着く作品です。東京芸術大学大学院漆芸研究室を修了し、漆の作品を多く制作してきた彼女は、子どもが漆に触ると危険だからという理由で、出産を機に漆の制作活動から遠ざかっていきます。このままで良いのかと考えた時に、漆を絵の具に持ち替えて、創作活動をする発想に至ったそう。人間、特に女性は人生の転換期というものを何度か経験しますが、それを柔軟に構えてうまくシフトチェンジしていく彼女の軽快さと、懐の広さはまるで作品にでも出ているようです。静かに時が流れるように、ゆったりとした黒インクで書かれた線やキャンバスに残された筆使いが、漆の刷毛捌きにも見えて、にわか感動すら覚えます。

画廊を回るときは、現代アートはよくわからないと思われる人にはぜひとも、臆せずスタッフに作家のバックグラウンドや、作品の制作の秘話などを聞いてみましょう。すると自分で見て回るより数倍も楽しく、そして見方も変わり、その奥深さに心が震えることもあるかもしれません。WKM GALLERYには日本人のスタッフもいますので、日本語で説明をしてもらいたいときは、事前にギャラリーに連絡をして予約を取ってください。

info@wkm.gallery, T +852-2866-3199

黄竹坑の無骨で飾り気のない工場ビルにありながら、香港という喧騒を忘れさせてくれる、落ち着いた雰囲気のギャラリーです。これからのラインナップが楽しみですね。


WKM Gallery
住所:20/F, Coda Designer Centre 62 Wong Chuk Hang Road Hong Kong
https://www.wkm.gallery

MTR黄竹坑駅から徒歩7分

ギャラリーのあるビルへの入り方は2通りあります。

 

1)Coda Designer Centre(科達設計中心)ビルの正面から入る方法。
こちらは地図矢印のように行かれるとWong Chuk Hang RoadにCoda Designer Centreビル入口があります。

ビルのロビーにはギャラリーのサインが立てかけてあります。
エレベーターで20階へ

 

 

2)Coda Designer Centre Car Park(科達設計中心停車場)駐車場から入る方法。
MTRからA1出口を出た左斜め前のYip Fat Streetを歩いていくと、Ovolo Southsideというホテルが突き当たりに見えます。その手前のビルになります。駐車場(写真下)の入り口を入っていくと右手にスロープがあり、そこを上がっていくと目の前にエレベーターがあります。

このエレベーターの前にもWKMのサインが出ていますので、20階へ。

工業ビルによくありがちな、表から入るか、駐車場から入るか選択できるわけですが、迷ったら直接電話して聞いてみてくださいね。
info@wkm.gallery, T +852-2866-3199

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