2024/07/20
「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港で輝いている人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。
ピアノを極めた先にあるもののために
オフィシャルサイト:https://kyoheisorita.com/
聞き手:大西望
編集:深川美保
撮影協力:Steinway & Sons Gallery K11 Musea (@steinwayhongkong, @tomleemusic.hk),
目次
〈日本が誇る世界的ピアニスト、香港デビュー〉
〈ピアノを極めて指揮者を目指す〉
〈30年後の日本を見据えて〉
〈反田恭平さんに3つの質問〉
〈日本が誇る世界的ピアニスト、香港デビュー〉
2021年にショパン国際ピアノコンクール第2位という快挙を成し遂げたピアニストの反田恭平さんは、この夏、初めて香港を訪れた。7月上旬に好評裡に終了した「反田恭平(ピアノ)× A. オッテンザマー(指揮) バーゼル室内管弦楽団 日本ツアー2024」の皮切りとして、香港のみ海外公演があったためだ。これが反田さんの香港デビューとなった。
「僕は香港に来たことがなかったのですが、『ソリタ来ていいよー』と言ってくれて嬉しいです。香港からは公演にかける熱意をすごく感じました」
反田さんは、ピアニストとして世界で活躍しながら、自身が立ち上げた株式会社「NEXUS」で、オーケストラを招聘しツアーの企画制作なども行っている。今回のツアーも同社とテレビ朝日で日本開催を決定したが、その後に香港側から公演の打診があったのだという。
ツアーで反田さんが弾いたのは、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第4番」。この曲を選んだ理由をこう説明した。
「ベートーヴェンの作品の中で一番好きなんです。第4番が書かれたのは、ベートーヴェンが仕事も恋愛も充実していた時期で、それが音に反映されていて素敵だなと思います。ピアノから始まる珍しい曲でもあるので、僕がリードして音楽を作れるのも良いと思いました」
6月25日の香港大会堂で、反田さんは指揮者のオッテンザマーさんやオーケストラの奏者たちと息を合わせ、時に対話するかのようにピアノを演奏した。鍵盤を叩くタッチは滑らかで軽快。クリアな和音が重なり、心地よく壮麗な音楽となっていく。それとは裏腹に、演奏の只中には、汗を滴らせながらひたむきにピアノと向き合い、一音一音積み上げていく反田さんの姿があった。
香港での初の舞台で演奏をする反田さん。ベートーヴェンのほかに、ショパンのピアノ曲も披露した。 Photo : The Leisure and Cultural Services Department
指揮者のオッテンザマーさん、バーゼル室内管弦楽団と共に挨拶をする反田さん(写真中央)。Photo : The Leisure and Cultural Services Department
〈ピアノを極めて指揮者を目指す〉
ピアノを弾くと自分の感情を音で表現できて楽しいと感じ、「ずっとピアノに携わって生きていくんだろうな」と子ども心に思っていたという反田さん。20歳でCDデビューして以来、聴く者の心を揺さぶる演奏が評判となり、コンサートのチケットは軒並み完売。「日本で最もチケットが取れないピアニスト」と称されるようになった。
反田さんが広く知られるようになったのは、2021年のショパン国際ピアノコンクールの時だろう。「サムライヘア」の反田さんが、日本人としては半世紀ぶりの第2位を受賞したということでニュースに大きく取り上げられた。
すでに人気ピアニストであった反田さんにとって、実力を順位で評価するコンクールへの出場は、実はリスクがあったという。しかし反田さんは、ピアニストの名声を得るためではなく、ピアノを極めた先にある目標や実現したいことのために挑戦した。
「人生のどこかで本気で頑張る時間というのは絶対に必要で、自分にとってはそれがあのコンクールだった」と振り返る。
ピアノを極めた先にある目標、それは指揮者になることだ。ピアニストとして独自の音楽性を追求する一方で、「指揮者になりたい」という想いをずっと温めてきたという。きっかけは、12歳の夏に参加したワークショップ。フルオーケストラを前にタクトを振る体験をした。その時に全身で感じた音楽の豊穣さが、反田さんを指揮者に目覚めさせた。そして、指揮者は何か1つの楽器に精通していた方が良いという考えから、好きなピアノをさらに極めようと思ったという。
現在は、拠点としているウィーンで指揮の勉強をしており、今年5月にはザルツブルクでモーツァルテウム管弦楽団の指揮を務め、海外での指揮者デビューも果たした。
また、自身がプロデュースするオーケストラ「JNO(Japan National Orchestra)」では、反田さんはピアノを弾きながら指揮者も兼ねる「弾き振り」に挑戦している。「団員の弓の動かし方、息の使い方など全員にアンテナを張りつつピアノも演奏するので、一秒たりとも気が緩められない」と難しさを語るが、ピアノを極めたからこそ成せる技だ。
〈30年後の日本を見据えて〉
着実にキャリアアップする中、プライベートでも新たな生活が始まった。昨年、小学生からの幼馴染みでありピアニストの小林愛実さんと結婚、一児の父になった。「自分で言うのもなんですが子煩悩だと思います。家に居る時はフルケアです」と父の顔も見せつつ、心境の変化を語った。
「子どもが生まれてから、家計を支えるとか家族への責任とか、そういう意識が出てきました。音楽家の目線で言うと、モーツァルトやシューマンなど、子のために書いた曲があるので、そういう作品への親近感というか距離感が近くなりました」
公私ともに充実期を迎えているように見える反田さんだが、ご本人の中では音楽人生において種蒔き期と受け止めているかも知れない。なぜなら、反田さんには30年後のビジョンがあるからだ。将来、世界の音楽家がクラシックを学ぶためにこぞって日本へ留学に来る、そんな音楽学校の設立を計画している。日本発の音楽祭や国際コンクールも作りたいそうだ。
思いもよらない構想だが、反田さんは実現すべく着々と行動している。その一環として、先述のJNOは、日本で初めてオーケストラの株式会社化がされ、反田さんが社長に就任。安定した経済基盤のもと団員が切磋琢磨できる環境を作り、世界的に活躍するオーケストラを目指している。
クラシック音楽の普及、発展のために音楽家として出来ること、事業家として出来ること。どちらでも自分が出来ることはやる、という反田さんの実直な姿勢を感じる。
「本業は演奏することだし、演奏するからこそ皆さんが応援してくれると思っています。会社に100%目を向けたら今のような環境は作れないので、そこはブレないようにしています。演奏も事業も両方やっているから学校を作るには時間がかかる。どう考えても5年や10年じゃ作れない。それくらい大きなことだと思っています」
日本のクラシック界の30年、いや100年後をも見据えた活動が動き出している。
〈反田恭平さんに3つの質問〉
Q1 (香港に来てまだ数時間しか経ってませんが)初めての香港の印象は?
暑いですね、湿度も高いし。リハーサルもあるしあまり時間が割けないのですが、おいしいものが食べたいです。香港のスタッフがみんな素晴らしくて、また来られたらいいなと思います。小さい頃の家族旅行はタイやマレーシアなどでしたが、最近またアジアに行く機会が増えています。
Q2 座右の銘はありますか?
強いて言えば、ピカソの「優秀な芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗む」です。教えられて吸収するのはもちろんですが、一番光る才能やセンスは言葉では教えられないと思うので、そういう部分は見て盗むしかない。ピカソはそれをうまく言葉で表したと思います。
Q3 拠点としているウィーンでの生活はいかがですか?
ウィーンは最高です。建造物が一つずつ宮殿みたいなので建築を見るだけでも面白いです。もともとインドア派ですが、散歩しようかなという気分になりますし、街の人が「自分が主人公」って感じで生きているからこちらも生きやすいです。
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
コメントをありがとうございます。コメントは承認審査後に閲覧可能になります。少々お待ちください