2024/12/15

蟹黄醤

(ハーイ ウオン ジォン:廣東語発音)

上海蟹の蟹味噌

家庭環境が味覚形成に与える影響は非常に大きいと言われています。このテーマについての研究論文も数多く存在し、結論として「子どもの味覚や食べ物の好みは、主に幼少期に形成される」とされています。

最近、香港出身の友人と上海蟹を食べた際に、とても衝撃的な話を聞きました。

友人曰く、「うちは漁師(蜑家)の家庭なので、海で獲れる以外のシーフードは食べないの。母からもずっと『上海蟹は湖の蟹だから食べるものじゃない』と言われていて、初めて食べたのは社会人になってから」だったそうです。

同じく香港で生まれ育ちながら、家庭内の食事習慣が異なるだけで、ここまで意識や経験に違いが出るとは驚きでした。

わたしにとって上海蟹は幼少期から「おいしい季節のごちそう」として馴染みのあるものでしたが、友人にとっては「全く知らない未知の存在」だったのです。

例えば「蟹黃麵(蟹味噌混ぜ麺)」を初めて食べたのがいつだったのか、わたし自身はっきり覚えていません。それは、初めて味噌汁を飲んだ日を覚えていないのと同じ感覚です。

「国民性」という言葉がありますが、同じ国民であっても家庭環境や食事習慣がその人の人格形成や味覚に大きく関わるのではないでしょうか?

記憶がある頃には、上海蟹の味そのものがすでに自分の中に刻み込まれており、上海蟹味噌入りの小籠包や蟹黃麺の味が、いまでも脳裏に残っています。

最近、インターネットで上海の「李百蟹」という蟹専門店を知りました。そこでは、蟹の各部位を使ったソースを食べ比べできるセットが販売されているようです。

このソースは「蟹黄醤(ハーイ ウォン ジォン)」と呼ばれ、上海蟹の甲羅や殻をラードで揚げて香ばしい風味を引き出し、濃厚な蟹味噌(蟹黄)と丁寧にほぐした蟹の身を主原料として作られています。蟹の旨味を余すことなく凝縮した濃厚でクリーミーな味わいが特徴の贅沢な「醤」です。ラードを使っているため保存性が高く、瓶詰の市販品も流通しています。

蟹黄醤を麺やごはんにかけると、蟹味噌の濃厚な風味が全体に絡み、一口ごとにしっかりとした旨味を楽しむことができます。李百蟹の食べ比べセットでは、部位ごとに異なる蟹の特徴的な風味を楽しむことができるそうです。

そのセットに触発され、わたしも真似して作ってみました。蟹の身から作られたソースは繊細で甘みが際立ち、蟹の足を使ったソースは力強い旨味と軽やかな塩気が特徴です。そして、蟹味噌のみを使ったソースは濃厚でクリーミーな味わいが魅力で、一口ごとに蟹の深いコクを堪能できます。部位ごとの異なる風味を比較することで、上海蟹の奥深い味わいをさらに実感することができました。

 

Tips: 今回のレシピはずわい蟹を使用しています。蟹の味噌のソースにきび砂糖を少々入れます。

 

材料

ズワイガニ 1杯

人参  ほぐした蟹の身の重さの3倍

ラード ほぐした蟹の身の重さの4倍

ネギ  青い部分 1本

生姜  各部位の重さの10%

紹興酒    適量

塩      適量

ナンプラー  適量

チキンスープ 適量

 

下準備

蟹の処理

・蟹の身、足、味噌をそれぞれほぐしておく。
・甲羅と殻を取っておく。

野菜の準備

・人参は粗みじん切りにする。
・生姜はみじん切りにする。

 

作り方

蟹油の準備

・フライパンにラードを中火で熱する。
・ほぐした蟹の殻を加え、弱火にして香ばしい香りが出るまでじっくり揚げる。
・殻を取り出し、油を濾して「蟹油」を作る。

ベースソースの作り方

・フライパンに「蟹油」を熱し、すりおろした人参とネギを加える。
・人参がオレンジ色になるまで炒めたら、ネギを取り除き捨てる。

 

各ソースの作り方

A. 蟹の身ソース

・フライパンに蟹の身の量の3倍のベースソースを加え、生姜も入れ、香りが立つまで炒める。
・ほぐした蟹の身を加え、紹興酒を入れて中火で軽く炒める。
・チキンスープを加え、かき混ぜながら鍋を振って乳化させる。
・味見をして、塩とナンプラーで味を整える。
・清潔な容器に移し、冷まして保存する。

B. 蟹の足ソース

・フライパンに蟹の身の量の3倍のベースソースを加え、生姜も入れ、香りが立つまで炒める。
・ほぐした蟹の足を加え、紹興酒を入れて中火で軽く炒める。
・チキンスープを加え、かき混ぜながら鍋を振って乳化させる。
・味見をして、塩とナンプラーで味を整える。
・清潔な容器に移し、冷まして保存する。

C. 蟹の味噌ソース

・フライパンに蟹の身の量の3倍のベースソースを加え、生姜も入れ、香りが立つまで炒める。
・ほぐした蟹の足を加え、紹興酒を入れて中火で軽く炒める
・チキンスープを加え、かき混ぜながら鍋を振って乳化させる。
・味見をして、きび砂糖、塩とナンプラーで味を整える。
・清潔な容器に移し、冷まして保存する。


雲姐(ワンジェ)

料理研究家。香港に生まれる。幼少期、平日は祖母、週末は料理が趣味だった父の手料理を食べて過ごす。オーストラリアへ移住を経て、結婚を機に日本へ移り20年以上。中国国際薬膳師、発酵食品ソムリエ、発酵ライフアドバイザーの資格を持ち、中華圏および日本の食文化への造詣も深い。現在は、日本の人々に香港料理を伝えるべく東京で活動中。

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