2025/03/09
今年も香港電影金像奨(香港アカデミー賞)の季節がやってきました。48回目となる今回は、話題作がいっぱい! 中でも注目は日本でもブームを起こしている『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』(原題:九龍城寨之圍城)と公開から1カ月足らずで香港映画の最高入場者数を更新した『ラスト・ダンス』(原題:破・地獄)(2024)の2本。とても異なる映画でありながら、香港らしい香港の姿を描いた作品です。LEIではこれまで両作品を紹介してきましたが、この度、『ラスト・ダンス』アンセルム・チャン(陳茂賢)監督とのインタビューが実現! この話題作のメッセージ、豪華キャスティングなどについて伺いました。
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『ラスト・ダンス』(原題:破・地獄)(2024)あらすじ
主人公のドミニク(ダヨ・ウォン/黄子華)は、コロナの影響でウェディングプランナーの職を失う。葬儀プランナーとして働くことになるが、そこで儀式を執り行う文哥(マイケル・ホイ/許冠文)とパートナーを組むことに。香港の伝統を重んじ、頑なに守る頑固オヤジの文哥と、葬儀に新しいアイデアを持ち込もうとするドミニクが衝突しながら、さまざまな死や家族のドラマに直面する。
アンセルム・チャン(陳茂賢)監督プロフィール
香港生まれ。脚本家としてテレビ番組などを手掛けた後、2021年にラブコメ『Ready o/r Knot』(原題:不日成婚)で映画監督デビュー。好評のため作られた続編『Ready o/r Rot2』(原題:不日成婚2)(2023)も話題を呼んだ。『ラスト・ダンス』(原題:破・地獄)(2024)は彼の3作目にあたる。Ⓒhunghom_linda_food
まずは香港電影金像奨(香港アカデミー賞)18部門ノミネート、おめでとうございます。過去最多のノミネート数ですね。
ノミネート発表前は、1つか2つの部門だけだろうと想像していました。18部門だなんて、想定をはるかに超えていて、聞いたときは体が動かなくなりました。スタッフはオフィスで、わたしはスタジオ。別々な場所で発表を聞いたんですが、発表後、急いでオフィスに行って、スタッフと抱き合って泣きました。実際に何個の賞を受賞できるかは分かりませんが、すでに十分な成果です。過去最多のノミネート数を記録した『孫文の義勇軍(2009年)』(原題:十月圍城)と並んだことは、大変光栄です。
作品を通じて一番伝えたかったメッセージは何ですか?
男性と女性の格差、伝統と革新など、対比的なメッセージを伝えたかったんです。中でも一番伝えたかったことは、「生きることの意味を、死を通して見る」ということです。(是非、作品でご鑑賞ください。)
映画では日本の習慣と異なるものが多くみられます。
香港の伝統や習慣は独特です。例えば(香港でもっとも一般的な宗教である)道教は、中国本土の他の地域とは異なります。オリジナルの道教に、香港にもともと存在した土着の習慣や信仰が融合した「香港スタイル」とも言うべき独特のものなんです。
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この作品に出てくる「地獄を破る」ダンスだったり、紙紮という紙を燃やすという行為は正式な道教のものでなく、香港独自の慣習です。それから、作品の一部にはショッキングと取られるかもしれないシーンも含まれています。香港の文化をありのままの形で見せたいので、作品内では説明を加えたり、美化したりはしていません。観客の方たちには、香港独特の慣習を知らなくても、これらの場面をありのままに鑑賞していただきたいと思います。なんだろうと興味を持って、調べてみようと思っていただけたら嬉しいです。
実力派ぞろいのキャスティングについて教えてください。
主演のふたり、ダヨ・ウォン(黄子華)とマイケル・ホイ(許冠文)はともにコメディー畑出身です。コメディー俳優は、観客を笑わせるという目的を達成するために、演技に様々な工夫を凝らします。高いスキルが必要なんです。この作品ではコメディー俳優は優れた俳優であることを示したいと思いました。
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マイケル・ホイ(許冠文)
マイケルは尊敬するスターの1人です。彼自身がメガホンをとることもあるので、スタジオに現れるとごく自然にスタッフに「今何を撮影しているの」「このシーンは何」などと話しかけるんですが、その様子を傍から見ると、まるで彼が監督なんです(笑)。僕は「この現場では自分が監督なんだ。このマイケルに指示を出せるんだって(笑)」。そう思うと嬉しかったですね。
ダヨ・ウォン(黄子華)
作品のストーリーを考えている段階から彼の起用を考えていました。香港人はダヨ・ウォンのことを「子華神」(才能溢れる人材)と呼びますが、彼のその才能で観客に既存と真逆を考えるよう促す能力があると思ったんです。この作品では、既存の考え方を「逆から考えろ」「別の考え方もある」と提示できる力を持った役者が必要でした。不正や権力に立ち向かうという一面も持っていますし、カリスマも備えています。適役だと思ったんです。
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マイケルとダヨは二人ともプロフェッショナルで、俳優であるだけでなく、監督やプロデューサーとしても活躍しています。 そんな彼らが最初に「監督は君だ。全ての判断を君に委ねる」って言ってくれたんです。自分が尊敬する人たちと仕事をするというプレッシャーを取り除いてくれました。遠慮なく指示を出せたし、映画製作のプロセス全体を楽しめました。とても良い関係を築けたんです。
ミシェル・ワイ(衛詩雅)
(以下、ネタバレになるのでぼかしあり)
脚本を書いている段階で、この役はミシェルに演じてもらいたいと思っていました。ただ、特定のシーンについて相当の練習が必要だということがあらかじめ分かっていたので、彼女が時間の犠牲を払ってくれるかが疑問でした。でも、実際に話してみると、即承諾してくれただけでなく、練習に時間を割くために1年、他の仕事をすべて断ってくれたんです。監督の立場で、俳優に「他の仕事をしないで、この映画に集中して」とお願いするのは難しいので、彼女が自ら配慮してくれたことに心から感謝しています。
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記録破りの作品の脚本を書き、制作したということで、俳優だけでなく監督自身への注目も高まっています。どんな経緯で映画監督になられたんでしょうか。
もともとは競馬関係の仕事をしていたんですよ。16、7歳の頃、競馬新聞の記者だった親戚のために、競馬場でタイムを測るバイトをしていたのが始まりです。割のいい仕事でしたよ(笑)。学校卒業後、競馬新聞やラジオの競馬番組の編集者として働き始めたところでコメディー映画監督のウォン・ジン(王晶)と知り合いました。彼はわたしを「文章が上手い」と褒めてくれ、映画の脚本を書くよう勧めてくれたんです。 それが今につながるわけです。
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監督のお気に入りの映画を教えて下さい。
外国映画ではスピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』。クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』。香港映画ではピーター・チャン(陳可辛)の作品が好きです。また、『風塵三俠』(英題:Tom, Dick & Hairy)も大好きで、この作品がわたしの前作『不日成婚』(英題:Ready o/r Knot)のインスピレーションの源となりました。
最後にこの作品に対する日本での反応はいかがでしたか?
これまで(2025年2月下旬現在)東京国際映画祭で2回、香港映画祭Making Wavesで1回、計3回上映されていますが、良い評価をいただいています。日本の方々は作品の内容、メッセージを理解してくださり、香港の風習や文化にも興味を示してくれました。観客のひとりは、父親が子どもに対しての愛情を表現しないという点は日本も同じだと語ってくれたんです。(慣習の違いはありますが)共通点は多いと思います。
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ありがとうございました。
インタビューを受けてくださるとの承諾を得た直後に、香港アカデミー賞18部門ノミネーションというビッグニュースが発表となり、一躍時の人となったチャン監督。インタビューでは、葬儀の慣わしから中国の姓、催眠術まで、さまざまな話題が飛び出し、監督の好奇心の対象の広さ、知識の深さに驚かされました。ラブコメの次にお葬式の話、意外なストーリーの選択も彼の豊富な知識と懐の深さの賜物なのだなと納得のインタビューとなりました。
取材・文 紅磡リンダ(編集部)
通訳 Janet SY Wong
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