2026/01/19

©︎wamono art
「日本人アーティストの作品を紹介する」がコンセプトの、香港・黄竹坑にあるwamono art Gallery。ここで現在開催中の香港人アーティストのRyan Cheng氏と香港在住の日本人アーティストYuko Fukuba Johnsson氏の二人展「Moments」をご紹介しましょう。
©︎Hong Kong LEI
香港にある美術学校「Hong Kong Art School (香港藝術學院)」の陶藝学部を年度は違えど卒業した二人。作品を見比べると静と動、陰と陽のようで、その違いゆえに絶妙なバランスの展示会です。特に日本人の福場さんにとっては、卒業制作の作品が見初められて今回Wamono Artでの初の展示会となりました。(アーティスト、福場さんについては2月のカバーストーリーで詳しくご紹介しますのでお楽しみに!)
Ryan Cheng氏の作品 ©︎Hong Kong LEI
お二人とも陶芸という手法を用いての作品作りをしています。陶芸はどちらかというと生活用品として機能するクラフトとして捉えられることが多い中、今回は現代アートとしての展示です。
さて、現代アートはわかりづらくて苦手、敷居が高く感じる、という方に向けて、本記事では福場さんの作品を通して、その魅力をお伝えしようと思います。この記事を読み終わる頃には、「生で本物を見てみたい!」という読者が増えると良いなと思います。
©︎Hong Kong LEI
wamamo artに一歩足を踏み入れると、展示室中央に天井から吊られた数々の石のような物体に目が奪われます。よく見ると全て形状や、サイズ、色が違い、しかも全部割れています。割れ目からは地層のように何層もの色違いの陶器の断片が見えています。
©︎Hong Kong LEI
作品を見てまず、皆さんは何を感じますか?
福場さんは「これはわたしにとっては立派なVessel(器)です」と言います。でも皆さんの中には「何だこれ?」なんて思っちゃった人はいませんか?
これが何を意味しているのか?何を言わんとしてるのか?そんな難しいことは考えなくても、まずは、最初は体で素直に感じていただきたいと思います。好きですか?嫌いですか?どんな気分になりましたか?どんな反応もアートピースが生み出した立派な体験なのです。そんなご自身の気持ちを素直に受け止めてください。
©︎Hong Kong LEI
皆さんはコンセプチュアルアート(概念芸術)という言葉をご存知でしょうか?作品の視覚的な美しさや技術よりも、作品の根底にあるアイデアや思想(コンセプト)を最も重視する1960年代から70年代で広がった芸術運動で、現代アートの根幹になっています。つまりコンセプト自体がアートであるというわけです。
現代アートが難解と感じ、また、それが面白いと感じる理由は、見ただけでは理解し難くてもコンセプトがわかると、作品自体の見え方が変わってくる点です。もちろん視覚的側面も素晴らしく、両輪で成立している作品もたくさんあります。
©︎Hong Kong LEI
福場さんの作品に話を戻しましょう。彼女がこの作品を作るきっかけとなったのは、ご家族にアルツハイマーという病気を患った人がいることで、失われていく「記憶(メモリー)」を考えるようになったことだそうです。その思いがこの作品に投影されています。全作品の芯(コア)の部分は、家族と共に過ごしたり、ご自身が立ち寄ったことがある場所で拾った「石」が使われています。「たとえ、一緒に行った人はもういないかもしれないけれど、あの時にあった石は今もここにあるかもしれない」と思ったそうです。
周りに粘土や釉薬を塗り重ねていくことで、それが時間の経過を示す年輪のように重なり、焼成過程で割れ目が入るようにすることで、記憶の歴史を視覚で感じさせます。「陶芸は自分の思い通りにならないところが醍醐味」という彼女。コントロールが難しい割れ方さえも、大切な思い出を包み込む器のように、そして、やさしくも儚く、まるで運命に抗えない記憶の一片を表現しているようです。
©︎Hong Kong LEI
もう一度じっくり作品を見てみてください。見え方が違ってきませんか?
©︎Hong Kong LEI
彼女の作品がパワフルなのは、そんなコンセプトだけでなく、それが陶芸だからこそ表現できる作品となって現れ、説得力を持ち、美しいからだと筆者は思います。天井から吊るされた作品からは、記憶にはさまざまな道があり、角があり、温度があり、色があり、心のあちこちに点在して、でも俯瞰して見てみると美しい星空のように人生という天の川に繋がっている「Moment(瞬間)」を教えてくれている気がします。
©︎Hong Kong LEI
展示には、大きな作品もあります。
©︎Hong Kong LEI
インスタレーションとしての見せ方も素晴らしいので、ぜひ、読者の皆さんも会期中に足を運んで、生きた作品に囲まれて没入感も感じてみてください。また作品の購入も可能です。2026年1月31日まで
住所:
WerkRaum, Unit A, 10/F, Derrick Industrial Building,
49 Wong Chuk Hang Rd, Hong Kong
黃竹坑道 49 號得力工業大廈 10 樓 A 室
営業:
土曜日 12:00 – 18:00
月〜金 | 予約のみ (WhatsApp + 852 6822 2962にて事前予約が必要です)
休館:日曜祝日
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