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2026/03/20

* Itra.run 参照(滋賀一周トレイルは公式HPより)

聞き手:小林杏
編集:野津山美久


〈目次〉

〈HK4TUC、2年連続「生還者」〉
〈自分のことが嫌いだった過去〉
〈夢中になれることに出会えた幸運〉
〈武市さんに3つの質問〉


〈HK4TUC、2年連続「生還者」〉

2026年旧正月。香港の街には、賀詞の書かれた紅紙「揮春」や、桃の花、蜜柑の木が溢れ、ライオンダンスの太鼓とシンバルが鳴り響く。そんな街の賑わいをよそに、香港フォー・トレイルズ・ウルトラ・チャレンジ(以下、HK4TUC)のランナー達は、ひっそりとした山道を、三日三晩かけて走り抜く。

総走行距離298km、累積標高14,500m 。超過酷なこのレースに、今年、64時間21分、女性1位でゴールした日本人がいる。武市香里さんだ。彼女は、昨年に続き2年連続で、「生還者(Survivor)」という、72時間以内に走り切ったランナーに与えられる称号を掴み取った。

ウィルソントレイルにあるブラックヒル(五桂山)。香港のトレイルには階段が多く、苦戦すると武市さんはいう。HK4TUC ©violanalan.photos

「無事に終わってホッとしている気持ちと……でも60時間を切りたかったので、ちょっと悔しい気持ちがあります」と武市さん。

昨年に引き続き、再度挑戦した理由は、60時間の壁を超えるためだった。レースの間は、ずっと「間に合うか」を考えていたと言う。最終日の3日目、ランタオトレイルの途中で、60時間を切るのはほぼ無理だと自覚した。その時、1日目に転んだ足の切り傷が、ひどく痛むことにも気がついた。ここまで無我夢中で走って来たのに、目標に届かない。でも武市さんの心は折れなかった。

「60時間というのは誰かが決めた時間。実際は1秒でも早く帰ることが大事」そう気持ちを立て直した。それに「多くの人が、わたしを助けてくれているおかげで、このレースに出ることができている。無事にゴールして、大好きな彼らと喜びあいたい」。その気持ちを糧に、武市さんは、歩を緩めることなく、前へ、前へと進み続けた。

ゴール前、多くの観衆に迎えられる武市さん。HK4TUC ©314degreeskelvin

2月17日の早朝5時にレースをスタートした武市さんがゴールに着いたのは、2月19日の午後9時20分近く。主催者のアンドレさん、サポートの山本さんを始め、多くの観衆が、武市さんのゴールを、歓声と満面の笑顔で迎えた。

 

〈自分のことが嫌いだった過去〉

子どもの頃は「体育は苦手でした。家で、本ばかり読んでいて『ハウルの動く城』の原作者、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの本は、ほとんど全部読みました」という武市さん。

何百kmという距離のレースを何度も完走した人だ。インドア派だったとしても、一度決めたらやり通すという頑固な面はあったのではないだろうか。そう訊ねると「うーん……。そもそも、そんなに夢中になれることもなかった」、のだそうだ。

そして、トレイルランニングを始める前は、自分のことが嫌いだったという。

セントラルの埠頭で。ここからフェリーに乗り、最後のランタオトレイルを走る。 HK4TUC ©314degreeskelvin

「周りの目が気になって、自分の嫌な部分ばかりが目について、自信もなくて。全部嫌いでした。……体型もすごく嫌だった」

実は高校生の時、摂食障害になり心を病んだことがある。「生きてきた中で、最低の状態。経験した人にしか理解できない苦しみだと思う」。当時、この逆境が「大抵のことは乗り切れる」という力に変わるとは、想像すらできなかった。

走り出したきっかけは、ダイエットのためだった。その後、大学を卒業し、地元愛媛で社会人になった頃からは、レースにも参加するようになった。

愛媛にて、新卒時代に同僚と出た10kmマラソンの会場にて。

体力に自信がついてきた頃、転職で広島市内へ引っ越した。新しい土地で、暇な週末と、車がなくても気軽に山に行ける環境に背を押され、登山サークルへ入り、またトレイルランニング体験会にも参加。そこで、自然のある山道の方が、舗装された道より断然好きだと思った。また「フルマラソンくらいの短い距離のレースだと早く走らないといけないから、足が遅いランナーのわたしにはしんどい。長い距離の方が楽に走れると気づいたんです」という。

こうして、武市さんのトレラン人生が幕を開けた。20代後半に入った頃だった。

 

〈夢中になれることに出会えた幸運〉

「自分が夢中になれることを見つけられて、本当にラッキー」と笑顔を見せる武市さん。2020年に会社員を辞め、地域おこし協力隊員になったことをきっかけに、現在は山と自然に囲まれた安芸太田町で暮らしている。起きている時間の半分以上を、トレーニングや目標設定など、トレイルランニングのために使い、寝ていても夢に出てくるほどだそうだ。

これまでの大会実績にも、目を見張るものがある。2022年の滋賀一周トレイルでは、総走行距離438kmを6日間かけて完走し、女性では1位。2023年からは、毎年LAKE BIWA 100という、総走行距離161kmの琵琶湖周辺の山々を走るレースにも参加、上位入賞の常連だ。

「走っている時に、様々な感情が溢れ出すことはありますけど、ゴールで感極まることって、あまりないですね。もう全て出し尽くしちゃっていて」と言う武市さん。「でも多くの方に喜んでもらえるのは嬉しいし、今回なんて『カオリサーン』って観衆から名前を呼ばれて、グッときちゃいました」とはにかむ。

主催者のアンドレ・ブランバーグさん(中央)、日本からサポートに来てくれた山本かおりさん(右)。最後のトレイルを走る前、武市さんは、2人の笑顔に元気づけられた。。HK4TUC ©violanalan.photos

100km超の距離を走り切る。小柄な彼女の体力もだが、気力を保ち続けられることも、驚異的だ。走り続けるためのアドバイスを聞いてみた。

「絶対どこかしら痛くなるけど、これだけ走っているから痛くなってもそりゃ仕方ないよね、って思えるように心の準備をしておく。それから、走れることも、サポートの人が来てくれていることも、幸運なことなんです。だからそんな痛みで立ち止まってる場合じゃないよ、って」

HK4TUC ©violanalan.photos

きっと、これからのレースも、人生も、辛いことはやってくる。武市さんは、苦しさを知っているから、スタート地点では「怖い」とも思う。でも、やっぱり目標を立てて挑戦し続ける。それはきっと、見守ってくれる人達がいること、そして、多くの経験から、痛みはあっても、計画通りに進まなくても、辞めないで歩を前に進め続ければ、ゴールには必ず辿り着くことを知っているからだろう。

山の中を走るとワクワクする。夢中になってゴールを目指す。武市さんはトレイルランニングが大好きだ。そして、そんな自分も、好きになった。


〈武市さんに3つの質問〉

Q1 次のレースで、十二支の中からお供に連れていく動物1匹と、絶対連れて行きたくない動物1匹を選んでください。

羊を連れて行きます。温かくていいなぁ、と思って。わたしも未年ですし。連れて行かないのは虎。みんなに応援してもらいたいのに、虎といたら、みんな逃げちゃいますから。

 

Q2 トレーニングの時に聴く音楽は何ですか?

基本的にJ-pop、たまに洋楽。スローテンポの曲が好きです。都識、くるり、ハンバートハンバート、クリープハイプとか。たくさん好きな曲はありますが、今はNeo Retros のBattles and Wastelandが一番好きです。

 

Q3 レース前、レース中、レース後に食べたいものは何ですか?

レース前は食欲があまりないでので、食べられるものを食べます。レース中とかレース後は冷たいもの。アイス食べたいな、と思って走ってます。

 

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