2026/06/27
Installation view of Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design, M+ 2026 Photo: Lok Cheng Image courtesy of M+, Hong Kong
前回の予告記事に加えて、実際展示会を観覧して、日本人目線でこれを知ったら もっと楽しめる! ということを発見したので、今回は香港開催のためにローカラ イズした文化のクロスオーバー目線で展示内容をご紹介します。日本で展示会 に行ったことがある人も、その違いを楽しんでいただけることでしょう。
入り口には漢字の「啊」(あ!)が天井からつるさげられている。Installation view of Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design, M+ 2026 Photo: Wilson Lam Image courtesy of M+, Hong Kong
展示会の広東語のタイトルは『設計啊!感受日常設計之奇妙』 。「デザイン あ!」 の「あ!」 は言葉というよりも「ひらめき」 や「驚き」 を表す感動詞。実は広東語で「あ」は「阿(aa3)」 という漢字もありますが、横に口が 付く「啊(aa1 / aa3)」 という漢字が採用されています。実はこの2つの漢字の使い 分けには、「感嘆(感情の表れ)」 か「固有名詞・呼びかけ」 かという、はっき りとした役割の違いがあります。そこで今回は「あ!」という感嘆音を意味する「啊」 が使われているんです。
展示の中に、さりげなく混じる香港のお馴染みのものたち。麻雀牌もそのひとつ。Installation view of Garden of Behaviours (2025) by nomena in Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design, M+ 2026 Photo: Wilson Lam Image courtesy of M+, Hong Kong
『ふるまいの庭』 で見つけたのは、デスクの上に無造作に置かれた麻雀牌。この展示の目的は、私たちが長年親しんできた伝統的なデザインや記号 を見つめ直し、それらが持つ「ふるまい」 への影響に気がつくことにあります。ここに置かれているのは日本の麻雀牌ではなく、香港の麻雀牌。伝統的な繁体字の「萬」の文字が美しく彫られています。また「伍萬」の「伍」も、日本の「五」ではなく、香港の麻雀で伝統的に使われる「人べん」の付いた漢字が採用されています。一番右にあるのは牌を引く意味の「摸牌(Draw)」という牌。日本の麻雀には存在しません。麻雀の「ふるまい(動作)」そのものをデザインの記号として牌に落とし込んだ、香港ならではの麻雀牌なのです。そのユニークさに愛しさが出てきませんか?
どれが香港の横断歩道でしょう?Installation view of Pick the Crossing (2026) by Perfektron in Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design, M+ 2026 Photo: Wilson Lam Image courtesy of M+, Hong Kong
日常のデザインには、深い意味や計算が隠されています。ただ、馴染みすぎていて見過ごされがち。M+のリードキューレーターの横山いくこさんは「展示品にちょっと目を止めて気づくことで、日常に戻っても、同じように何気に使っている物に気を留めてほしい」と言います。
たとえば、写真の「香港の横断歩道の幅を当てるクイズ」。3つの異なる幅のラインを眺めたり歩いたりして体験する展示ですが、そもそも「そういえば香港の横断歩道って黄色だったんだ!」 という発見も(笑)。 実際の街中のラインのサイズを当てるこのクイズでは、編集部の2人は見事に大外れ。普段見ているはずなのに全く当たらず、愕然としました(笑)。まさに馴染みすぎていて見過ごしていました。正解はぜひ会場で発見してみてください!
Installation view of In the Mood for Being Food (2026) by plaplax at Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design, M+ 2026 Photo: Dan Leung Image courtesy of M+, Hong Kong
日本の展覧会でお箸で掴んでいたのはお餅でしたが、今回は香港らしくシューマイに変更。
plaplax Eat-en-ing 『いたただきます』 「デザインあ展neo」(TOKYO NODE、2025年)展示風景 Photo: Keisuke Kitamura
続いてご紹介するのは、思わず誰もが笑顔になってしまう体験型の展示。大きなお皿の上にぽつんと置かれた、ひと際目を引く黄色いシュウマイ。そして背後から迫る巨大なお箸! 実はこれ、日本で開催された際には「白いお餅(または梅干し)」だった展示なのですが、今回の香港開催に合わせて、地元のソウルフードである点心の「シュウマイ」へとローカライズされています。
この展示は、「食べ物の視点(きもち)」になってみようというもの。自分が小さくなってシュウマイの一部になったような感覚でお皿の上に立ったり、巨大なお箸に挟まれそうになる体験を通して、普段何気なく使っているお箸の機能的なカタチや、身近な食べ物の造形の面白さに「あ! 」と気づく仕掛けになっています。大人も子どもも一緒になって、お箸に捕まりそうになるスリルを味わいながら、日常に隠されたデザインの不思議を五感で楽しめる、とってもインスタ映えするスポットですよ。
Installation view of The Camera Eats First! (2026) by plaplax and Shunichi Miki at Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design, M+ 2026 Image courtesy of M+, Hong Kong
デジタルスクリーンがずらりと並ぶこちらのエリアは、現代の私たちの行動をユーモラスに捉えた展示「The Camera Eats First!(カメラが先にご飯を食べる!)」 。スマートフォンで食事の写真を撮ってSNSに投稿することが日常茶飯事となった現代の「ふるまい」にスポットを当てた、非常に興味深い体験型インスタレーションです。
画面に映し出されるのは、ご飯、香港ヌードルや香港名物のフレンチトースト(西多士)、そしてプリンといったおいしそうなメニューの数々。来場者は手元のコントロールパネルを使って、写真の「明るさ」「色味」「角度」などを調整し、どれだけおいしく魅せられるかという写真の「視覚効果」に挑戦します。
「同じ料理でも、デザイン(見せ方)ひとつでこんなに印象が変わるんだ! 」と実感できるこの展示。現代の私たちが無意識に行っている「料理を美しく切り取る」という行為そのものが、実は日常に隠された立派なデザインの1つであることに気づかせてくれます。家族で一緒に「どの調整が一番おいしそうに見える?」とワイワイ競い合いながら、現代のメディアカルチャーと食のデザインの繋がりを楽しめる人気のスポットです。
Installation view of Handle the Challenge (2026) by Tomohiro Okazaki and nomena at Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design, M+ 2026 Image courtesy of M+, Hong Kong
続いて目に飛び込んでくるのは、波打つ長い金属のパイプに、ギターの形をした木の板が通されたユニークな展示。子どもたちが真剣な表情でギターを動かしているこちらは、テレビ番組でもお馴染みの「イライラ棒」のような体験型のアトラクションです。 この展示の目的は、身の回りにある様々な「カタチ(輪郭)」を、身体を動かしながらなぞることでデザインを体感すること。パイプにギターを接触させないように、親子で一緒になって慎重に、ときに大胆にギターをコントロールしていきます。
ただのゲームのように見えますが、実はこれ、ギターの美しい曲線をパイプの波で表現しており、手元の感覚を通じて楽器のデザインの滑らかさや複雑さに気づく仕組みになっています。パイプに当たると音が鳴るスリリングな仕掛けもあり、会場のあちこちから歓声が上がります。1つのカタチにじっくり向き合うことで、普段は見過ごしがちな造形の美しさや計算された曲線に「あ! 」と気づく、大人も思わず夢中になってしまうかなり高い集中力を要求される挑戦型の展示です。
ちなみに頭上のランプは日本展では傘が白いものでしたが、本展では香港の市場でよく見る赤い「街市燈(ガイシダンスン)」を採用。香港を訪れたことがある人なら、一度は街中の市場などで目にしたことがあるのではないでしょうか。古くから香港の日常に深く根ざしている伝統的なプラスチック製のペンダントライトです。現在では香港のノスタルジーとローカルカルチャーを象徴する、重要なデザインアイコンの1つとして愛されています。日常に溶け込みすぎて見過ごされがちな、市場でお肉をおいしく見せるために計算された「光のデザイン」の好例と言えるでしょう。
筆者はまさに「イライラ棒」でお約束の展開(集中力が続かずイライラ)を体験して、何度もパイプにぶつかり赤ランプを14回も発動させてしまいました(笑)。ぜひ家族やお友だちと競ってみてください。
Installation view of DO IT! (2026) by Yugo Nakamura in Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design, M+ 2026 Image courtesy of M+, Hong Kong
その他、部屋の4面の壁に映像が映し出されて、それに合わせて、みんなで身振り手振りでデザインを体感するスペースもあり。親子で楽しめるし、大きな掛け声をかけながらできるの来場者と一体感も味わえます。
Installation view of Dessin Ah! (2026) by Yosuke Abe, Yoshiaki Fujimori, and Takanobu Inafuku in Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design, M+ 2026 Courtesy of The Kowloon Motor Bus Company (1933) Limited Image courtesy of M+, Hong Kong
またM+のロビーエリアでは、無料で楽しめる展示もあります。こちらは中央にある物体を360度、様々な角度から描いた作品がずらりと展示されているコーナー。同じものでも、見る角度によっていろいろな見方や解釈があることを視覚的に理解できる、とても面白い展示です。このデッサンのモチーフとなるオブジェは全て香港をテーマにしたものだそうで、現在は親しみ深い2階建てバス(ダブルデッカー)が選ばれています。約2ヶ月に1回のペースで作品(モチーフ)が変わるそうで、ライオンダンスなども今後出てくるそうです。お楽しみに!
ファミリー向けの体験型プログラム(関連イベント)

展覧会をさらに深く楽しむための、ファミリー向けの体験型プログラム(関連イベント)も用意されています。
まず注目なのが、気軽に参加できるドロップイン形式のワークショップ「Family Drop-in: Unusual Drawing(家族でふらっと:いつもと違うお絵描き)」です。中央にある身近なオブジェを様々な角度からデッサンする展示エリアとも連動しており、普段の「お絵描き」の枠を超えたユニークな手法で、視点を変えて物事を観察する楽しさを体験できます。さらに、物語を通じて日常のなかに隠されたデザインの不思議を紐解いていく「Family Drop-in: Story Time with Everyday Wonders(家族でふらっと:日常の不思議ストーリータイム)」も開催。子どもたちの五感を刺激し、何気ない「日常」に溢れる「あ! 」というひらめきをより豊かに育んでくれる内容となっています。
いずれも子どもから大人まで一緒になって、遊びながらデザインの思考を学べる絶好の機会です。展示を観覧した後は、ぜひこれらのプログラムにも足を運んでみてください。
Team Ah! Screening of M+ Ah! on the M+ Facade, 2026 Commissioned by M+, 2026 Courtesy of NED Image courtesy of M+, Hong Kong
会期中の毎晩、ビクトリアハーバーを望むM+の巨大な外壁LEDスクリーン(ファサード)にて、新作の委託映像作品『M+ Ah!(M+あ!)』 が上映されます。香港の街並みをモチーフにしたクリエイティブなショートビデオが、夜のスカイラインを美しくデザイン空間へと変貌させます。ファサード(外壁映像)上映期間:2026年6月26日(金)~10月上旬(毎晩上映)
『設計啊!感受日常設計之奇妙』
『Design Ah! Experience the Wonder of Everyday Design
(デザインあ! 日常のデザインの不思議を体験しよう)』
Webサイト: https://mplus.org.hk/
会期:2026年6月27日(土)~ 2027年1月10日(日)
会場:M+博物館(M+ Museum) 地下大堂展廳(Main Hall Gallery)
住所:West Kowloon Cultural District, 38 Museum Drive, Kowloon, Hong Kong
開館時間:火曜~木曜・土日 10:00~18:00、金曜 10:00~22:00(月曜休館)
入場料:大人 HK100(※6歳以下の子どもは入場無料)
★大人1名・子ども1名(7~ 11歳)の親子ペアチケット:HK$250
★大人2名・子ども1名(7~ 11歳)のファミリーチケット:HK$400
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