2026/07/26
共同監督のひとり、クォック・ガーヘイ(郭家禧)監督。作品のマスコットである宇宙人と一緒に。ⒸLinda Hung-Hom
この夏、大々的な宣伝とは無縁の1本のコメディー映画が話題を呼んでいます。ひっそりと封切りされた後、SNSでじりじりと火がつき、上映を重ねています。イタリア、アメリカ、スペインを始めとする世界各地の映画祭でも高く評価され、なかでも伊ウディネ極東映画祭では、他の香港映画を差し置いて、唯一受賞を果たした作品となりました。しかもこの映画、内容が奇想天外なだけでなく、製作の経緯も驚きに満ちています。こんな一風変わった映画『UFO離奇命案』(英題:Unidentified Murder)は、ジャック・リー(李振傑)とクォック・ガーヘイ(郭家禧)の共同監督の手によるもの。今回はクォック・ガーヘイ監督に話を伺いました。
Courtesy of Edko Films Ltd.
『UFO離奇命案』あらすじ
今から25年前、3人の小学生が森で遊んでいたところ、1人が不可解な失踪を遂げてしまう。残された2人は「UFOが飛んで来て、友だちは宇宙人に誘拐された」と証言。このニュースは大きく報じられ、その後も謎の都市伝説として語り継がれた。25年が経った今、ネットで人気のインフルエンサーのカップルが、この伝説をネタに動画を作って再生回数を増やそうと、事件の現場へと向かった。カメラを設置し撮影を始めるやいなや、殺人事件が起き、脅迫メッセージが届き、宇宙人が出現し、さらには爆発が……! 立て続けに起こったこれらの不可解な出来事は25年前の失踪事件へと繋がり、事態は想定外の展開に――。
クォック・ガーヘイ(郭家禧)監督紹介
香港出身。高校時代に映画の道に入ることを決意し、テレビ、映画の映像制作を学ぶ。テレビ局『TVB』、映画会社『太陽娛樂文化』でキャリアを積んだ後フリーに転身。監督を務めた香港版『おっさんずラブ』こと『大叔的愛』は放映されるや否や、香港で社会現象と言われるほどの爆発的人気に。本作『UFO離奇命案』では監督、プロデューサー、脚本も兼任し、第32回香港映画批評家協会賞で最優秀脚本賞および推薦映画賞を受賞。第44回香港映画金像奨では新人監督賞と最優秀脚本賞にノミネートされた。
製作のきっかけから、作品そのものまで驚きにあふれる『UFO離奇命案』。手がけた監督もエキセントリックなかたかもしれないとの想像を裏切るように、「こんにちは」と目の前に現れたクォック・ガーヘイ監督は控えめな印象の好青年。自ら映画の販促物を「これもどうぞ」「こちらも是非」と積極的に勧めてくれたり、こちらの写真撮影を手伝ってくれたりと細やかな気遣いを受けながら、インタビューを開始しました。
驚きポイント1:奇想天外、捧腹絶倒コメディーの元は犯罪サスペンス!
Hong Kong LEI:早速ですが、この映画、本当に抱腹絶倒しました。奇想天外な展開と、大笑いできるストーリーが作品の大きな魅力ですが、この斬新なアイデアはどこから着想を得たのですか? ネタバレしない範囲でお願いします。
クォック監督: 実は最初に作ろうとしていたのは、10話のTVドラマだったんです。ハリウッド映画の『ミスティック・リバー』(原題:Mystic River)から着想を得た、サスペンス作品です。その後、映画にすることになったんですが、そうなると制作費が少ないので、限られた予算で最も良い効果が出せるコメディーに変えました(笑)。
Courtesy of Edko Films Ltd.
Hong Kong LEI: 監督はコメディー作品を多く製作してきたので、本当はシリアスなサスペンスものを作りたかったなんて意外です!
クォック監督: 友人は、僕のことを日本の漫画『デトロイト・メタル・シティ』の主人公みたいだって笑うんです。この漫画の主人公は、おしゃれな渋谷系ポップ歌手を目指していたのに、ひょんなことからヘビメタのスターになって、意外にもヘビメタの才能が開花しちゃいますよね。僕も同じで、犯罪サスペンスを作りたかったのにっていう感じです(笑)。
ⒸLinda Hung-Hom
驚きポイント2:衝撃の低予算、その出所も想定外!
Hong Kong LEI: 本作品の制作費はHK$HK$1=20円換算) 500万~800万。HK$300万はそれをかなり下回りますね。
クォック監督: そうですね。商業映画としては超低予算と言えます。ただ、この製作費はエディー(黃德進) という高校時代の僕の友人、つまり一個人が捻出してくれたものなんです。
左から:クォック・ガーヘイ監督、エディー・ウォン氏、ジャック・リー監督 Courtesy of Edko Films Ltd.
高校卒業後、僕は映像の勉強をしてテレビ局(TVB) に就職して、エディーは自分のビジネスを立ち上げました。で、他の友人たちも合わせて4人で部屋を借りて、ルームシェアしていたんですけど、あるとき、僕が映画の話をしていたら、エディーが「面白そうだな。将来映画に投資する機会があればなあ」 と言ったんです。そのときは冗談だろうと聞き流していました。そしたら、10年後にそれが本当になったというわけです。
Hong Kong LEI: どうしてエディーさんは監督の作品に投資する気になったんでしょう?
クォック監督: 彼は昔から、みんなで一緒に楽しむことが大好きな人間なんです。で、僕や僕の周囲の、才能が発揮できないフリーのクリエイターが「香港の映像業界のシステムじゃ、なかなか入り込むチャンスがない」なんていう話を聞いているうちに「彼らに思うまま作品を撮らせてあげたいな」 と思ったのだと思います。
エディーもコツコツ努力を積み重ねてきて、今やっと業績が形になってきたところ。この映画に投資してくれたHK$300万は、彼にとって微々たる額ではありませんから、彼に損をさせないようにがんばります!
Courtesy of Edko Films Ltd.
驚きポイント3:コメディータッチのケニー再び! 台本見ずに出演決定。
Hong Kong LEI: この映画ではベテラン俳優のケニー・ウォン(黃德斌) がコメディーに再度チャレンジしていることでも注目されています。そもそも、シリアスで硬派な役柄を多く演じてきた彼に、初めてコミカルな役をオファーしたのも監督でしたね!
クォック監督: 香港版『おっさんずラブ』(大叔的愛、以下『おっさん』) の部長役ですね。ケニーとはTVB時代から何度も一緒に仕事をして、プライベートでは結構おもしろい人だなとわかっていたので『おっさん』ではハジけてもらいました。
Courtesy of Edko Films Ltd.
Hong Kong LEI: あの役で、彼の新しい魅力が開花したと言われていますね。
クォック監督: 当時の彼はコミカルな役は初めてだったので、心配もあったみたいです。撮影開始の数週間前に、「やっぱり他の人に変わってほしい」 と電話をくれたこともあるんですよ(笑) でも、今回、『UFO離奇命案』 の出演依頼を出したら、脚本も見ずに出演をオッケーしてくれました。
Hong Kong LEI: 結果、『おっさん』 は社会現象となるほどの大ヒット作品となったわけですから。固い信頼関係ができていたんですね。監督は役者のポテンシャルを引き出すのがお得意だとお見受けしますが、何かコツはありますか?
クォック監督: 僕は役者が元々もっている「何か」を引き出して、それを拡大するのが好きなんだと思います。例えば『おっさん』のときのイーダン・ルイ(呂爵安) 、アンソン・ロー(盧瀚霆) はまだ新人でしたから、細かい指示ではなく演技の範囲を示して、その中だったら大丈夫、という風にして、居心地のいい空間を与えるように心掛けました。そうすることで、彼らの輝きを失わないようにしたんです。それがコツ、でしょうか。
Hong Kong LEI: 今後の計画はありますか?
クォック監督: まず、『UFO離奇命案』 の続編を作る計画があります。 長期的な目標もありますよ。この職業に興味をもった高校生のころから、20年ほど僕はインスピレーションをノートに書き込んできたんです。もうストーリーがかなり溜まっているので、その中から自分のオリジナルの作品をどんどん撮っていけたらいいなと思ってます。
おとなしそうな印象のクォック監督でしたが、高校時代からの夢を持ち続けている熱い点、そして周囲への気遣いを忘れない、居心地のいい対応が印象的でした。そんな彼の作品、『UFO離奇命案』 が日本でも上映されることを祈って止みません!
(人名のカタカナ表記は、基本、既存の作品で使用されている表記に従いました。表記に揺れがある場合や既存の表記が確認できない場合は、便宜上仮のフリガナを付しています。また、本文では敬称を省略しています。)
取材・文:紅磡リンダ(編集部)
通訳・翻訳:大澤真木子
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