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2026/10/02

Photo: Courtesy of HKLGFF2026

2026年9月20日まで開催された『第37回香港レズビアン&ゲイ映画祭(HKLGFF2026)』。このアジアで最も長い歴史を誇る性的マイノリティーの映画の祭典で、クロージングを飾ったのは日本の映画『TIGER(男優の虎)』でした。本作品は釜山国際映画祭で優れた独立系映画に贈られる「ハイライフ・ビジョン大賞(Hylife Vision Award)」を受賞したことで、すでに国際的な注目を集めています。今回、HKLGFF2026での上映に合わせて、主演の川口高志さんが来港、お話をお伺いしました。

 

『TIGER』あらすじ

主人公の大河(川口高志)は東京、新宿で孤独を抱えながらGV(ゲイビデオ)男優を目指す中年のマッサージ師。仕事も人間関係も、思うようにいかぬ虚しさを抱え毎日を送っていた彼は、ある日故郷の父の容体が悪いことを知らされる。自分の性的嗜好を隠すため距離をとってきた故郷に久しぶりに戻ると、老いゆく父、遺産相続など、これまで目を背けてきた現実と対峙せざるを得ない状況に……。LGBTQ+の世界を描きつつも、現代人が抱える「孤独」や「他者との繋がり」という普遍的なテーマをあぶり出す。

ⒸLinda Hung-Hom

川口高志(かわぐち たかし)プロフィール

大阪大学文学部演劇学専修を卒業後、新国立劇場演劇研修所で演技を学ぶ。舞台『サロメ』でデビュー後、舞台、映画、TVドラマなど幅広く活動。10年ほど前より映画作品への情熱を深め、『東京不穏詩』『Make-Believers』『赦し』などに出演。2025年釜山国際映画祭で「ハイライフ・ビジョン大賞」を受賞した『TIGER』で主演・大河役を務める。

 


『TIGER』の大河はどこかアウトローで破天荒な気質が印象的でしたが、インタビュールームに現れた川口高志さん(以下、敬称略)は、物静かな中に知的なオーラが感じられる方でした。香港初となる本作品の上映の前、西九龍文化地区にほど近い映画館にてお話を伺いました。

 

『TIGER』HKLGFF2026映画祭でのクロージング上映、おめでとうございます。早速ですが、本作のオファーを受けた時の思いからお聞かせください。

-本当に嬉しかったです。アンシュル・チョウハン監督とは10年ほどの付き合いがあり、MVや短編、長編とご一緒してきました。その中で初めて主演に抜擢いただきました。彼の作品で主役を演じることは俳優としての目標であり、夢が叶ったような気持ちでした。

 

『TIGER』はLGBTQ+を題材にしつつも、誰の身にも起こり得る、非常に普遍的な人間ドラマですね。

-はい。孤独や人との繋がりを描いているので、あらゆる人に共感していただける要素があります。すでに試写などでも好意的な反応をいただいていますし、性別や立場を超えてすべての人に届いてほしいと願っています。

 

Photo: Courtesy of HKLGFF2026

大河という役を演じるにあたっては、彼の、性的サービスに従事する職業などを含めて難しい部分があったかと想像します。オファーを受けた時、戸惑いを感じましたか?

-戸惑いは全くありませんでした。脚本を開いた瞬間、大河の持つ言葉や「人と繋がりたい」という痛切な思いがすぐに理解できたんです。読んでいる最中から涙が止まらなくて。怒り、そして人と繋がれた瞬間の温かさを同時に感じました。実際に撮影を終えて周りから「ハードな役を頑張りましたね」と言われて初めて、「そうか、ハードな役だったんだ」と気づいたくらい(笑)。とにかく「この魅力的なキャラクターを絶対に演じたい」という情熱の方が勝っていました。

 

ご自身を役に投影された部分もあったのでしょうか。

-大河は「何者かになろうとして」自分の居場所を探している人物です。僕自身も俳優として「何者かになろうともがく」気持ちは痛いほど分かります。ただ、自分に引き寄せすぎると役が小さくなってしまうので、安易に共感して終わらせるのではなく、脚本に書かれた本質を熟考して、見極めてから表現するということを意識しました。

 

Photo: Courtesy of HKLGFF2026

役作りで工夫されたことはありましたか?

-僕は本来、内面から役を作るタイプなのですが、今回は身体づくりに加え、プライベートでも大河が着そうな服を着たり、普段はしないメイクをしたり、アクセサリーを身につけて外出してみたりしました。形から入るアプローチを通して湧き出る感情を抽出して、それを演技に反映させていく作業は、非常にチャレンジングで新鮮でしたね。

 

共演された野波麻帆さん、遠藤雄弥さんとの撮影はいかがでしたか?

-勉強になることばかりでした。野波さんは非常に堂々としていながらオープンで柔軟な、まさにプロフェッショナル。演じる時の視線であったり、仕草であったり、そういうところから生まれる説得力に圧倒されました。遠藤さんに関しては、共演が決まる2ヶ月ほど前に彼の映画を拝見して「いつかこんな素晴らしい俳優さんとご一緒したい」と心から思っていたんです。だから共演が決まった時は飛び上がるほど嬉しかったですね。お二人とも現場にいてくださるだけで元気をいただける存在でした。

 

ⒸLinda Hung-Hom

今回、香港ではどう過ごされますか?

-僕はもともと、休日には1人で美術館へ出かけるのが好きなんです。美術館に行って、作品を見ることで、想像力が自分の外側に向いて、自分を外に連れ出してくれる感じがします。なので、明日、現代美術館のM+を訪れるのがとても楽しみです。昨日は映画祭スタッフに重慶マンションへ連れていってもらいました。まるで自分が映画のセットの中に迷い込んだような感覚になり、夢中で写真を撮ってしまいました。ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の映画が大好きなんです。『ブエノスアイレス』(原題:春光乍洩)や『花様年華』、トニー・レオン(梁朝偉)にも強い憧れがあります。香港は街の色味が独特で、他の世界のどこにもない魅力に溢れていますね。

本日はありがとうございました。香港を楽しまれますように!

 


知的で洗練された佇まいの奥に、映画への純粋な愛と演技に対する熱い情熱を感じさせる言葉がとても強く心に残りました。『TIGER』という作品が、性的マイノリティの方々はもちろん、思い通りにいかない人生に心を痛めるすべての人に温かく寄り添うのは、彼の静かで力強い情熱が作品に注ぎ込まれているからかもしれません。『TIGER』、そして川口高志さんの圧倒的な演技が、より多くの方の元へ届くよう、応援しています!

 

取材・文:紅磡リンダ(編集部)

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