2023/07/12

世代交代:世代交代は、世代が入れ替わること。人や物を若い、あるいは新しい型に代えること(Wikipedia「世代交代」の項より)。

 

あの冰室も、この茶餐廳も、気が付けばどんどんお店が閉店していく最近の香港。特に50年、60年の長い歴史を持つ「昔ながらの茶餐廳」が少なくなっているように感じます。味のある店内や渋いメニュー、常連客の会話が聞こえてくる昔ながらの茶餐廳は、わたしが「茶餐廳愛好家」を勝手に名乗るほど茶餐廳を好きになった要因のひとつなのに、そういうお店が次々に消えてしまう昨今、本当に心が痛いです。

 

そんな「茶餐廳冬の時代」にありながら、その歴史を刻み続けながらも大きく路線を変更し、生き残っているお店もあります。今回ご紹介する、油麻地・広東道の「大安茶冰廳」も、店主やメニューを変えながら、屋号や建物を守り続けているお店です。

 

かつての大安茶冰廳外観、2019年夏

 

香港でも現存するケースはそれほど多くない「茶冰廳」を名乗る大安茶冰廳は1969年創業。ブランド店が連なりキラキラとした尖沙咀あたりの広東道と違って、ちょっと地味な下町通りといった趣の油麻地の広東道にあるこのお店は、ぱっと外観を見ただけでは「昔ながらの茶餐廳」そのものです。青い日よけには実直な字体で店名が踊り、少し狭い入口のドアも今風ではありません。

 

現在の大安茶冰廳外観、2023年夏

 

しかしいざお店の前に立ってみると、なんだか普通の茶餐廳とは様相が異なることに気が付きます。ショーケースに並ぶのは茶餐廳でおなじみのパンやエッグタルトではなく、趣向を凝らした「港式奶茶蛋撻(香港ミルクティーエッグタルト)」や「檸茶曲奇(レモンティークッキー)」など目を惹くアイテムが多くを占めていますし、ドリンクメニューもアメリカーノからエスプレッソ、カプチーノにラテとコーヒー類が充実。そう、ここはかつての老舗茶餐廳から、現代的だけと香港要素もあるカフェに生まれ変わっていたのです。

 

大安茶冰廳のクッキーたち

 

長い年月を経た建物や、店とともに年を重ねていった店主がうまく世代交代できずに消えていってしまうケースが多くみられる中で、大安茶冰廳は店主が変わることをきっかけに、「香港らしさ」を随所に保ったまま世代交代を果たした稀有なカフェです。店内には香港の歴史を感じされる写真が飾られ、ボックス席ひとつひとつに置かれた本にも、この数年の間に様々な経験をしてきた今の香港の若者たちが大切に思う「香港」のストーリーが詰まっています。

 

大安茶冰廳のラテ

 

このお店の良いところは、通り一遍のおしゃれさだけではなく、過去の店内をうまく残していること。かつてのこのお店の特徴だったメニューは記載内容が変わっても忠実に再現されていることや、壁に貼られた切り文字のフォントが素敵な「意粉(スパゲッティ)」のメニューが今も大切に残されていることなどに、今の店主がこの茶餐廳のかつての姿を愛していたんだなあ、と思わされます。

 

特徴的な意粉のメニュー

 

レトロさや雰囲気の良さだけではなく、食べ物にも気になるポイントがあります。クッキーやタルトもさることながら、甘いもの好きのわたしの心をしっかりつかんで離さないのが週末と祝日限定のメニュー、「奶醬格仔餅配雪糕(Condensed Milk & Peanut Butter Waffle with Ice cream)」です。運ばれてくるなり、わたしの乙女心が喉から「かわいい~」という野太い声になって出てきてしまうフォトジェニックなこの一皿は、今風の映えを狙いつつも、器やレインボーのチョコスプレーにちょっと懐かしさを感じてしまいます。コンデンスミルクの甘さだけでなく、ピーナッツバターの塩気がうまくバランスを取っているのがいいですね。

 

コンデンスミルク&ピーナッツバターワッフル。アイスクリーム付き!

 

地元のおじさん、おばさんで賑わうかつての大安茶冰廳を多少なりとも知っている人からすると、カフェとなった今の姿に面食らう部分も、すこしさびしいと思う部分もあるかもしれません。でも何もしなければ閉店して跡形もなく消えてしまう古い茶餐廳が、その特徴をうまく残しながらカフェとして今も営業してくれていることに、わたしは少しのさびしさだけでなく、形を変えながらもここに在り続けてくれてありがとう、ごちそうさま、という気持ちを感じずにはいられませんでした。

 

現在の大安茶冰廳の店内

 

「昔ながらの茶餐廳」の良さを今風にアレンジして、移り変わりの激しい香港でがんばっている大安茶冰廳。ゆっくりコーヒーを飲みに、あるいはスイーツをほおばりに、そして食べるだけでなく、昔からあるお店ならではの痕跡を探しに。変わり続ける香港で、前向きな変化を続ける茶餐廳へ、あなたも行ってみませんか?


akiramujina

九龍を拠点に「茶餐廳愛好家」を勝手に名乗り、ほぼ毎日茶餐廳や冰室に足を運んでいる在港日本人。
趣味は旅行と茶餐廳めぐり。コロナ禍で旅行ができない今は年100店以上の茶餐廳訪問と、年300杯以上の港式奶茶を目標にしています。
どこへでも行くフットワークの軽さが自慢ですが、どこででも食べてばかりいるせいで自身の重さが悩み。
TwitterとInstagramでも食べ物の話ばかりしています。

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