2024/07/14

近いのに遠かった本土 

以前は日本人には、中国本土への15日以内の観光等での渡航にビザは免除されていたので、香港から陸続きの深圳（広東省）へは、地下鉄やバスで気軽に行くことができました。２０１９年に政治的緊張状態になり、その後コロナ禍へ、２０２０年にはビザ免除が停止されてしまいました。 

その後２０２３年、深圳へは入国時に申請する「特区旅遊（E）ビザ」（市内のみ５日間滞在可）の発給が開始されました。そのうちビザ免除が再開されるかなと待っていたのですが、一向にその気配がなく、Eビザで５月に深圳へ行くことにしました。 

※ 2024.７.９現在、非中国籍の香港永久居民は「港澳居民来往内地通行証（回郷証）」を取得すれば、ビザなしで中国に渡航可能となっています。

回郷証（本土での身分証明書）で本土へ入国できる香港の友達とは深圳で待ち合わせ。受付開始の９時前に入境検査場に到着。すでに10人ほどの人が、少し開いた窓口から出てきた整理券と申請証、パスポートを用意して受付を待っています。事前ビザ不要の香港、マカオ、深圳を旅先にしたという日本人ご夫婦、韓国からのご家族、バックパッカー、手ぶらで来ている方、雑談をしていると待つのも苦にならず、10時過ぎ頃に最寄駅で友人たちと無事合流できました。 

深圳、そこは本土 

香港と違って、そこはgoogleもWhatsApp、Lineもない世界。VPNや香港のSIMカードを使えばこれらも使えますが、本土の人とはWeChat（微信）がないと不便です。 

現金だけだと何かと不便な本土。以前は中国の銀行口座が必要だった微信支付（WeChatPay）なども、段階的に外国人も使えるようになってきました。とはいえ香港生活では特に必要ないので、香港人でも本土に口座を持っていない、WeChatもダウンロードしない、という人はいます。 

経済特区指定の深圳は、中心地は高層ビル群で賑やかですが、静かなEV車が多く、意外と街路樹も青々としていて、開放的な感じもあります。ただ歩道をミニバイクが縦横無尽に走ってくるので油断できません。各地から人が集まっているので、主に聞こえてくるのは広東語ではなく、普通語です。 

以前は圧倒的に本土の人が香港へ品質の信頼できる日用雑貨などを買いに来ていた感じですが、今はたくさんの香港人が物価の安い食事や買い物に深圳へ行くようです。ショッピングモールのレストランなどは早めに番号札を取らないと、週末の夜などは長蛇の列で夕飯を食べ損ねかねません。 

５年ぶりですね、老師 

まず向かったのは、鳳凰単叢（ホウオウタンソウ）のお茶屋さん「无觉（無覚）」。前回訪れたのは、ソーダ割りや水出し、いろんな鳳凰単叢の楽しみ方をしながら、香木やお酒も出て、いろんな人が集まるイベントがあった５年前でした。 

こぢんまりとした店内は、趣のあるヴィンテージやアンティークの茶器でいっぱい、変わらずシュッとしている詹（せん）老師。「やあいらっしゃい」と早速「柚花香」鳳凰単叢で迎えてくれました。 

鳳凰単叢とは 

広東省潮州市にある標高の高い烏崠山など鳳凰連山を産地とする烏龍茶です。条件が厳しく、よりおいしいとされる標高の高いところで採れたものほど希少で高価です。また「単叢茶」の意味は、単独の茶樹から採取した茶葉を意味します。 

このお茶の特徴は、華やかで芳醇な、花や果実の香りや味わいです。蜜蘭、芝蘭、杏仁、姜花、桂花、肉桂、梔子、鴨屎（決してこの香りではありませんが！）、宋種、柚花・・・と香りや味の違いによってたくさんの種類があるお茶です。初めて飲んだとき、その茶葉そのものが持つトロピカルな香りと甘い味わいに驚きました。

前回でお話しした潮州工夫茶ですが、潮州では、このお茶を工夫茶として淹れることが多いようです。始まりは明時代と言われる潮州工夫茶は、今の中国茶芸の原点だそうです。 

1957年に翁輝東はその著書「潮州茶経・工夫茶」で、「忙しい時も暇な時も、茶壺で茶を淹れ、小さな茶杯でお茶を楽しむ」「潮州工夫茶の優れたところは、茶そのものではなく、美しい茶器と手間をかけ優雅に淹れる作法にある」「友人たちと一緒にお茶を淹れながら、ゆっくりと話をし、友情を深めることができる」といったことを書いています。 

次回はこの詹老師との交流の続きを書きたいと思います。 

Chikako

トロント、NY、シンガポール、今は香港に在住。
各地のライフスタイルや食文化にインスパイアされた器を製作してきた。
香港では中国茶器を楽しくコツコツ製作。
お茶のワークショップも不定期に活動中。

IG : cnycstudio
お茶のワークショップIG : sound_and_tea_room