2022/11/20

Tasting Table Japan Premium

「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港でがんばる人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。


 

柔道も人生も七転八起、挑む気持ちを持ち続けたい

 

 


(目次)

〈柔道の師に出会って、夢が決まった〉

〈強さだけでなく相手をリスペクトする柔道を〉

〈坪洲島で「茶屋達磨」をオープン〉

〈セドリックさんに3つの質問〉


 

〈柔道の師に出会って、夢が決まった〉

セドリック・サム(沈超華)さんは、坪洲島に住む柔道コーチだ。「柔道形」(柔道の動作を決められた順序でゆっくり行う競技)では、香港代表選手として活躍している。

インタビューの日、坪洲島のフェリー到着口で出迎えてくれたセドリックさん。柔和な印象ながら、「DARUMA JUDO COACH」とプリントされたTシャツの後ろ姿は、鍛錬を物語る柔道家のそれだった。

セドリックさんの柔道人生が始まったのは中学生の時。小さい頃から武道に興味があり、中学で柔道部を選んだ。在学中、中学創立150周年記念の一環で柔道部の演武披露があり、指導に来たのが柔道家の林耀忠(リン ヨウチュン)先生だった。「当時、先生はもう60歳をすぎていましたが、わたしのことを手だけでポンッと投げました。体格も良くて、スーパーマンみたいでした」

林先生は、30歳でボディビルチャンピオンになった後、柔道家として50年以上、無償で後進の指導をし、柔道発展のために尽力した人物。林先生に師事したセドリックさんは、学生時代にさまざまな道場に同行しながら稽古を積んだ。試験勉強よりも稽古が大事だった。

「空手、ムエタイ、ブルースリーのジークンドーなど、他の武道もやりましたが、技だけでなく礼儀を重んじる柔道が好きです。そして、林先生のような、地位や名声に見向きもせず、柔道発展のために自分の技や経験を惜しみなく後進に伝える素晴らしい指導者になりたいと思いました」

 

左からセドリックさん、豊田先生、林先生、達磨塾コーチのロバートさん、妻のエミリーさん。

 

師との出会いで夢が決まった。林先生に近づくため、柔道指導者のA級ライセンスを取得した。師から柔道の基本である柔道形をやり続けるよう言われ研鑽を積むうち、先人が作り上げた体系の奥深さに魅力を感じるようになった。

柔道形は「受(うけ/技を受ける)」と「取(とり/技を掛ける)」のペアでする競技。セドリックさんのパートナーは妻のエミリーさんだ。「付き合っていた時、彼女はわたしのことを変だと思っていたようです。毎週金曜はデートができない。なぜなら稽古があるから(笑)。それで彼女は道場に稽古を見に来て、『自分も柔道をやる』と言いました」。それからは公私ともに同じ道を歩んでいる。

また、セドリックさんには日本人の師もいる。林先生の朋友である柔術の豊田正人先生だ。豊田先生の言葉を直接理解するため、そして日本語で書かれた柔道の本を読むために、大学では日本語を学んだ。柔道をより深く理解するため、努力は惜しまなかった。

 

〈強さだけでなく相手をリスペクトする柔道を 〉

2013年にセドリックさんが始めた柔道クラブの名前は「達磨塾」。オープンするまで平坦な道のりではなかったが、転んだら起き上がればいいという想いで乗り越えてきた。その七転八起の精神と、柔道の動きにちなんで「達磨」と名付けた。

稽古は愉景湾の道場をメインに、坪洲島、梅窩で行っている。塾生は幼児から大人まで、多い時で120人在籍した。場所柄もあり、フランス人を中心に外国人の入塾が多く、香港人は全体の5%ほど。コロナ禍で香港を離れた塾生もおり、今は半数になった。

 

3〜4歳児の塾生を教える坪洲島の道場にて。

 

香港では、柔道は危ないというイメージを持つ人が多いという。しかし、指導者の教え通りに受け身をすればケガもなく、健康に良い生涯スポーツだとセドリックさんは言う。

クラブでは受け身の稽古に重きを置く。「投げる人の方がかっこよく見えますよね。でも実は、受け身がうまくないとかっこいい投げはできないんです。柔道は二人でするもの。ただ勝ちたいという一方的な気持ちでは稽古できません。二人で組んで、投げと受けの両方経験することで新しい技を身につけることができます。また、投げられた時の痛みを知ることで、投げ方も変わってくる。柔道を通して相手をリスペクトする心が育つんです」。そしてセドリックさんはこう付け加えた。「投げる側、投げられる側、両方の気持ちが分かれば、世界はもっと良くなると思います」

 

2019年、Asian Judo Open Hong Kongに柔の形で出場。

セドリックさんが「受(うけ)」、エミリーさんが「取(とり)」で演技。

 

2019年には、名古屋の六郷道場とともに、「達磨塾六郷道場国際交流柔道大会」を創設。子どもたちが、大会を通して国際的な柔道を知り、仲間を作ることで、少しでも長く柔道を続けてほしいという想いがあった。第1回大会は愛知県武道館で開催し、ベトナム、チェコ、フィリピン、中国からも小中学生が参加した。しかし、コロナの影響で、次期大会の見通しが立てられなくなった。

 

「達磨塾六郷道場国際交流柔道大会」に参加した子どもたちのために立派なメダルもデザインした。

 

〈坪洲島で「茶屋達磨」をオープン〉

コロナ禍のこの3年は、達磨塾での指導や大会出場はおろか、柔道自体ができなくなった。林先生(享年93)との別れという試練も重なった。厳しい状況だったが、セドリックさんは冷静だった。柔道に終わりはないのだから、いまは小休止のとき。ここでも、転んだら起き上がればいいと思ったという。

そこで、新しいことに挑戦することにした。10年前に移り住んだ坪洲島で飲食店「茶屋達磨」を始めたのだ。

坪洲島「茶屋達磨」は、週末は屋外スペースも満席になる人気カフェだ。

 

もともと料理好きで、飲食店で長くバイトをし、店長も経験した。日本はもちろん、マルタ、イタリア、メキシコなど、柔道の海外遠征では、その国の料理を食べることが楽しみだった。

提供する料理は、身体が資本の柔道家ならではの本物志向。

「みんなの健康のために『No MSG』で食材と味にこだわっています。例えば、カルボナーラはイタリア産の豚ほほ肉のベーコンを使っているので脂の香りが全然違いますよ。和食は自然の旨味を大切にしています」

裏千家の茶道も香港で5年ほど習った経験があり、日本のお茶のおいしさを知ってもらいたいと、京都美好園から調達している。ここでも「道」の精神で、本当においしいものを追求。

2020年にスイーツ販売から始め、今年6月には座敷席のある新店舗でリニューアルオープン。材料からレシピまでこだわっているから、お客さんが「おいしい」と言ってくれるのが何より嬉しい。

最近は達磨塾の稽古も再開できるようになった。コーチとシェフと、忙しい日々を送っているが、柔道を中心に据えた生活は変わらない。来年には、東涌でも稽古ができる予定だ。これからも、柔道発展のためにやれることをやっていきたいと思っている。

 


〈セドリックさんに3つの質問〉

Q1 趣味は何ですか?

釣りです。早朝に海に出て、アオリイカを釣ります。いつか免許を取ったら自分のボートを持って釣りに出かけたいと思っています。

 

Q2 茶屋達磨のおすすめメニューは?

フィレ肉の牛丼は脂が少なめでおすすめです。お酒にもこだわっています。この間、ペアリングをいろいろ試したら、ほうじ茶チーズケーキと焼酎が合いました。焼酎でほうじ茶の味が引き立つんですよ。

イタリアのマスカルポーネをたっぷりと使ったティラミスも人気。

 

Q3 なぜ坪洲島に住もうと思ったのですか?

愉景湾の道場に近いからです。坪洲島の人は優しいし、暮らしやすいです。家の目の前には海が広がっていて、景色も最高です。


茶屋達磨

FB 茶屋・達磨 Chaya・Daruma | Peng Chau | Facebook
IG 茶屋.達磨 Chaya.Daruma

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