2023/04/17

你呢排點啊?子どもたちの学校がイースター休暇に入り、わたしは長男と一緒に、日本に先駆け劇場公開された映画版スーパーマリオブラザーズを観に行きました。任天堂とイルミネーションの共同出資で製作された全世界公開映画。中央列の4人席の真ん中2席を陣取った3D眼鏡越しの90分間は、テーマパークのアトラクションに乗っているかのような息もつかせぬ展開で、大人のわたしも興奮してしまいました。

そして、もっと驚かされたのはキャラクター設定。ネタバレしないようここで詳細は語りませんが、“クッパ大王にさらわれたピーチ姫を救出するマリオ”というお馴染みのパターン…ではなく、2023年版のマリオ映画。そこには、強いピーチ姫の姿があったのです。

公開から5日間で世界興行収入500億円を突破。アニメ映画史上最高となる好発進(MTR尖沙咀駅構内にて撮影)

1985年に任天堂が一作目を発売したコンピュータゲームソフト、スーパーマリオブラザーズ。奇しくも今の長男と同じ8歳。小学2年生のわたしは、家ではファミコンが禁じられていて、学校帰りに寄り道した友人の家で初めてマリオに出会いました。

建築士としてハウジングメーカーでフルタイムで働く母。帰宅後、自宅に置かれた製図板に弟がしたいたずら書きを鬼の形相で怒る母の剣幕に「わたしがしたんじゃないんだけど」って最後まで言い出せなかったこととか、週末は土日休みの父が昼食作り担当で、カレーとチャーハンのローテーションだったことを今でも思い出すこととか。

抱きしめてもらった記憶より、夜中も図面を引き、肩パッド入りスーツ姿でママチャリを必死に漕いでる印象の方が勝っていて、建設業界という男社会で戦う母との距離を計りかね、“母親が働くこと”に複雑な思いを抱いていた少女時代。

小学校の給食風景。1985年、スーパーマリオブラザーズが誕生した頃(右上が筆者)

この時代の日本。1985(昭和60)年のいわゆる「М字カーブ」は文字どおりのМ字を描いていました。結婚・出産・育児の重なる世代、30~34歳の女性の労働力率(50.6%)はМ字の底。地方の片田舎の小学校で“鍵っ子”だったわたしは、クラスに数人しかいない少数派。お母さんがマドレーヌをおやつに作って帰宅を待っていてくれる友人を心底羨ましく感じていました。

出所:男女共同参画白書 平成26年版(内閣府)(注1)

あれから38年。日本の「М字カーブ」の底は、非婚化、晩婚化、出産の高齢化……女性の生き方が多様化すると共に、ぐんと浅いものになりました。

スタバのラテ片手に11cmヒールで勤務地の丸の内を闊歩し、商社マンとなった学生時代の友人と旅先のNYで再会。3年の交際期間を経て代官山でハウスウェディング。不器用に思えた母の生き方に反発し、キャリアも女の幸せも軽やかに手に入れたと思ったわたしの20代ですが、30代に入ると人生、ジェットコースター。

前夫の浮気とDV。ストレスで体重は一時40kgを割り、離婚。再婚となる国際結婚。出産・復職後、遅れをとった出世レースに復帰するための激務と無理が祟って体調を崩し、仕事の合間を縫って精密検査の日々。職場から救急搬送され、夫と子どもを残して長期入院。そして離職、海外移住。得たものも失ったものもあるけれど、40代半ばを迎え、経験値だけは随分上がりました。

来港前、友人たちとのひととき。移住後は仕事からはしばらく離れようと考えていたけれど……

現在、わたしの働く香港の映像プロダクション会社。創業60年超の老舗企業で、過去にスーパーマリオブラザーズの香港版テレビCMを制作したご縁もあるんだとか。夫が事業承継した直後に襲ったデモとコロナ禍によるダメージ。日本で倒産回避のための金融相談の現場で働いていたこともあり、会社設立以来の未曽有の事態と厳しい経営をただただ傍観してるのは歯痒くて、ロクに広東語も話せないのに飛び込んだ世界。

機材部の職人たちは男性ばかりですが、制作部やバックオフィスの同僚たちの男女比はおよそ半々です。

社内スタジオでの撮影風景。アフターコロナで少しずつ活気が戻って来ました

お手伝いさん文化の根付く香港は、統計上の労働力率グラフも、浅くなった日本の「М字カーブ」らしき30~40代の落ち込みすらほとんど見られず、台形型。50代を過ぎたあたりでようやくなだらかな下降線を描き始めます。わたしの属する45~49歳の労働力率は69.2%。我が社の女性陣の年齢層もバラバラです。

出所:香港女性統計數字2021(香港特別行政區政府 婦女事務委員會)(注2)

とはいえ、香港にも家庭の事情で仕事を辞める女性がいないわけではありません。

つい最近も深刻化したご両親の介護を理由に女性ベテランプロデューサーが会社を去ったばかり。ハンデを持つお子さんを抱える女性スタッフは、コロナ禍で外国人ヘルパーが香港に入境できない時期、一時、月HK$10,000近くまで相場が急騰したお手伝いさんの給与と自分の賃金を秤にかけ、結局、家庭に入る決断をしたし、わたし自身、ロケ先での撮影の立ち会いを抜けられず、子どもの骨折事故の知らせにすぐ駆け付けられなかったときは、肝心なときに……と悶々と悩む数日を過ごしました。

囚われのお姫様じゃない、新しいピーチ姫を探して。香港島のビル群を背に

分かりやすいロールモデルのいない令和時代のピーチ姫たち。労働力率グラフの曲線には、今現在、働いているかどうかにかかわらず、涙と勇気に満ちた女性たちの決断の積み重ねの結果が表れているのだろうと思います。

不器用、上等!自分の選んだ人生を正解にするため、わたしたちは今日もまた、昨日より難易度高いステージをクリアするための挑戦を続けることにいたしましょうか。

Emi in HK。多謝收睇。下次見!

 


【出典】

※注1…https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h26/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-01.html

※注2…https://www.women.gov.hk/download/research/HK_Women2021_c.pdf



汪 江美子(わん・えみこ)
映像プロダクション会社勤務。慶應義塾大学大学院修了後、日本・東京商工会議所にて、中小企業の資金調達支援や政策立案時の省庁との折衝等に従事。15年半の勤務を経て2019年、夫の仕事の都合により来港。2020年から現職。夢は日本と香港の合作映画の製作に関わること。気分転換は25年振りに再開させたピアノ。インター校に通う8歳、5歳、男児2人の母。

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