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2026/02/06

香港在住歴が長い先輩たちからよく、最近の香港バレエは面白くなったねと言われる。もちろん僕が踊っているということをみなさん知っているので、半分はお世辞かもしれないが、一人ではない多くの方々から言われたので、半分は真実だろうと思っている。最近というのは、おそらくセプティム・ウェバーが芸術監督に就任した2018年以降のことを指すのだと思われる。僕は香港バレエに移ってきたのが2021年なので、ウェバー体制しか知らないが、確かにロゴやレパートリーなども変わり、香港バレエは明らかにリブランディングしたと言えるだろう。僕も香港バレエが持つユニークで発信力のある作品に惹かれて入団を決意したので、面白さは確かに上がったのではないだろうか?

さて、面白さはウェバーのカリスマ性によるものなのか、他に理由があるのか検証してみたいと思う。香港バレエは毎年年次報告書を発行しているので、現在のプリンシパルダンサーのシェン・ジェがまだコールドバレエだった2009年(ウェバーの前任者の体制)と最新版の2025年を比較して、その面白さとその理由はどこにあるのかを読み解いていきたい。

2009年の年次報告書表紙

まず2009年と2025年を比べると、バレエ団の予算規模はHK$4765万からHK$1億3803万へと、190%増(2.9倍)になっている。香港の同期間のインフレ率50%を加味しても、大幅な増加である。人件費はHK$2324万からHK$5913万へ、135%増、舞台制作費はHK$1435万からHK$5680万へ、約295%(約4倍)増となっている。つまり、コンテンツ制作にかける金額を大きく上げ、それに伴いコンテンツ制作者への支払いも増やしたということだ。その結果、チケット収入はHK$900万からHK$2263万へと、151%増加している。より多くの観客が香港バレエを観に来ることは、その面白さの証明とも言えるだろう。

2025年の年次報告書表紙

ところで、勘の鋭い読者なら、予算がHK$1億3803万なのに興行成績がHK$2263万では、お金が全く足りていないことに気づいただろう。HK$1億以上も足りていない計算になる。バレエ団運営というのは、チケット収入だけでは全く成り立たないビジネスモデルであり、興行収入以外の収入源が必要となり、その多くは寄付金や政府からの助成金で賄われている。2009年にはHK$3150万、2025年には88%増のHK$5913万の公的資金が注入されている。すなわち、バレエ団の運営は公共性の高い事業であり、香港市民に受け入れられるバレエを作ることが香港バレエの絶対的使命でもあるのだ。数字を見ると、88%の補助金増を効果的に利用し、興行成績が151%にアップしているため、それなりの成果を残しているだろう。

そして残りの予算を補うのが寄付金やスポンサー収入、海外ツアーの興行収入、バレエアカデミー事業とブランドグッズ収入だ。このカテゴリー合計の収入は2009年のHK$253万からHK$5229万となんと2000%近く伸びており、2009年に74%を占めていた公的資金を45%まで押し下げることに貢献した。このことから言えるのは、税金である補助金を効率よく舞台制作と人材に回すことで、香港バレエブランドを拡大し、そのブランド力をレバレッジに寄付金やスポンサー収入を増やし、海外ツアーの興行を行い、さらにはアカデミーを設立し、公共性のあるバレエ事業をより責任のある運営に変えていったと言えるだろう。

そのリブランディングの中心にあるのがウェバーの豪華なセットや衣装を伴うスペクタクルなバレエで、しかも多くが香港のエッセンスを取り入れることで市民に親しみやすく、海外に受けやすい発信力のある作品だ。アカデミー賞を取った衣装デザイナーともコラボしているので、話題性に事欠かない。

香港バレエは2027年から再開発中の西九龍のアートディストリクトに本拠地を移す。M+や香港故宮文化博物館の並びに全く新しい劇場がオープンし、香港バレエはそのレジデンスカンパニーとなる。西九龍はまさに香港が世界に文化を発信する拠点として投資している場所であり、香港バレエもその一端を担っていくはずだ。香港バレエの予算規模は海外のトップレベルのカンパニー、例えばロイヤルバレエやウィーン国立歌劇場、サンフランシスコバレエなどと比べるとまだまだ拡大の余地がある。ロイヤルバレエやウィーン国立歌劇場はオペラと共同運営しているため比較は難しいが、サンフランシスコバレエの制作費(何が含まれているかは団体によって異なるだろうが)はUS$4168万であり、HK$5678万の香港バレエの約6倍の規模だ。アジアのアートハブとしての立地を利用し、引き続きアカデミーの拡大、香港エッセンスを取り入れ、業種を問わず一流アーティストとのコラボレーションを行い、他のトップティアのバレエ団との交流を増やしていくことでブランド価値を高められれば、サンフランシスコバレエの規模になること、いや追い越すことも夢ではないはずだ。

その時は世界中の人に香港バレエ面白くなったねと言われる時であろう。

 


高野陽年

立教大学中退後、2011年にロシアの名門ワガノワバレエアカデミーを卒業し、世界的振付家ナチョドゥアトの指名を受け、外国人初の正団員としてロシア国立ミハイロフスキー劇場に入団。主にドゥアト作品で活躍した後、2014年に世界的バレリーナのニーナアナニアシヴィリに引き抜かれ、グルジア国立トビリシオペラバレエ劇場に移籍。ヨーロッパ、北米、日本を含めさまざまな劇場で主役を務めた。2021年より香港バレエ団に活動の拠点を移し、2024年には香港ダンス連盟より最優秀男性ダンサー賞を授与され、プリンシパルダンサーに昇格。さらに活躍の場を広げている。そして学園生活をとりもどすべく?イギリス公立オープン大学でビジネスマネージメントを専攻中

 

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