2025/04/30
フランス印象派の巨匠、ポール・セザンヌとピエール=オーギュスト・ルノワールの作品に特化した香港初の大規模な展覧会「セザンヌとルノワールが世界を見つめる-オランジュリー美術館とオルセー美術館の傑作」展が香港美術館(HKMoA)で開催中です。印象派美術コレクションで世界に名だたるオランジュリー美術館とオルセー美術館からフランスの国宝級の作品52点が展示されています。1月17日の開幕以来、地元住民や観光客を含む13万人以上の来場者を迎えました。そして今回なんと、展示期間を当初のスケジュールより1週間延長することが発表され、5月14日までとなりました!
ポール・セザンヌとオーギュスト・ルノワールは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてフランス絵画の二大巨匠としての地位を確立しました。 ルノワールの作品における光と影の使い方は、印象派の発展に極めて重要な役割を果たしました。一方、セザンヌの芸術理論は、20世紀における様々な芸術スタイルの発展の基礎を築きました。二人はそれぞれ独自の道を歩み続け、異なるスタイルで自己表現を行い、セザンヌは異なる視点から描き出した幾何学的な厳密さを、ルノワールは繊細な調和を追求し、近代芸術の新時代を切り開きました。今回は果物や花を描いた静物画、風景画、肖像画、水浴画など、52点のうち51点が香港で初公開されるまたとない展示会です。
作品「リンゴとビスケット」セザンヌ
主な展示品には、セザンヌの「リンゴとビスケット」(写真上)、「スープチューレンのある静物」(写真下)、「赤い屋根の風景(エスタックの松)」や、ルノワールの「道化師の衣装を着たクロード・ルノワール」、「風景の中のヌード」、「劇場のボックスの花束」が含まれています。また、展示では、スペインのアーティスト、パブロ・ピカソの「大きな静物」と「大きなヌードとドレープ」という二つの貴重な作品も紹介され、二人の印象派の革新が次の世代の偉大な巨匠たちに与えた影響を示しています。
作品「スープチューレンのある静物」セザンヌ
作品「りんごと梨」ルノアール
この静物画は、ルノワールの作品の中でもセザンヌの影響が最も顕著なものの一つです。テーマと非常に複雑な構図の両方において、その影響が見られます。テーブルクロスの配置やしわは巧みに形成されています。ルノワールは、静止した物体ではなく、動きに満ちた構図を表現したいと考えていました。また、色彩自体が絵画に命を吹き込んでいます。白いテーブルクロスとボウルは、緑と茶色の背景から際立ち、果物の温かいトーンに反映されています。ボウルの青い縁は、しわの影と連動しています。
一般にセザンヌは人見知りで人が苦手だったと言われています。ルノアールは風景画よりも人を描くのが好きな画家だったそうです。これらの人物画を見るとルノアールは人物が生き生きと輝いて見えますね。一方セザンの人物画は風景のようでもあり、スキントーンも青味がかっていて、ちょっと不健康そうに見えますね。
さて、以下2枚の絵は、誰が描いた絵かわかりますか?
作品「道化師の衣装を着たクロード・ルノワール」ルノワール
作品「セザンヌ夫人の肖像」セザンヌ
これを見ると二人が様々な題材を同じように描いたとはいえ、突き詰めていくと、セザンヌは技法を駆使した風景や静止画、ルノアールは陰影とカラーの人物画を極めていくことになったようです。
また、展示は二人の巨匠の作品を味わうことができるだけでなく、印象派展の創立メンバーの二人の友情関係にも焦点をあてています。
1860年代のパリで、二人は相互の賞賛を背景に持続的な友情を築きました。ルノワールは1880年代と1890年代に南フランスのセザンヌのもとに滞在することが何度もありました。二人の巨匠の作品には多くの交差点があります。風景画、静物画、彼らのサークルの肖像、ヌード、そして後の入浴する女性の描写など、これらは二人の画家にとって共通の実験の領域でした。
お互いを電車で行き来したであろうフランスの列車のホームを模した教育コーナーを設け、来場者をタイムトラベル列車に誘い、セザンヌとルノワールの創造的世界に浸ってもらいます。まるで当時の車窓を見るように、彼らの風景画を見ることができます。映像では、セザンヌとルノアールの家族ぐるみの親交の様子などが説明されています。
また、2人の巨匠の会話を模した人間らしい一面を垣間見れるデジタルブックや、足跡マップなども展示されています。家族ぐるみで仲が良かったとされる二人の友情が浮き彫りにされ、来場者は新たな視点からセザンヌとルノワール、そして彼らの芸術を鑑賞することができるでしょう。
このような楽しい学びを得られる特別展について少しご紹介しましょう。
学芸員、セシル・ジラルドさん(Media Preview で情熱的に説明するセシルさん)
美術館の特別展は、優秀な学芸員がそれぞれの知識と視点を駆使して、ハッと驚くような見方でアーティストたちや作品を、アートに馴染みのない一般の入場者でも理解しやすいように、わかりやすく説明して楽しませてくれます。今回の展示「セザンヌとルノワールが世界を見つめる」の学芸員、セシル・ジラルドさんは、パリのオランジュリー美術館で2014年以来所属する学芸員。これまでに彼女は現代美術に関するいくつかの展示を共同キュレーションしており、2017年「東京-パリ:東京・ブリジストン美術館コレクションの傑作」、2018年の「モネ-クレマンソー」、および「ダダ・アフリカ:非西洋の源と影響」、2023年の「アメデオ・モディリアーニ:画家と彼のディーラー」など、たくさんの入場者数を動員した大きな展示会を何度も開催してきました。印象派で有名な美術館から来たセザンヌとルノアールの作品。その素晴らしさを学ぶだけでなく、比べることで見えてくる影響しあった作品のストーリー、またアーティスト同士の人間味あふれるつながりなど、いろんな角度から垣間見ることができる特別展です。5月14日までに時間が許す限り何度でも足を運んでみてくださいね。
さて、展示会の後半は近代絵画へどのような影響を与えたかなどが見て取れます。
左はルノアール。右はピカソ作品「大きなヌードとドレープ」
オランジュリー美術館にたくさんの印象派作品が所蔵されています。それも画商でコレクターのポール・ギヨーム(1891-1934)の存在がありました。彼が2度に分けてフランス政府に寄贈したことで、これらがオランジュリー美術館の核になり、今日、わたしたちがセザンヌとルノワールの作品を見られることができると言われています。写真はギヨームが収集した作品たちです。
ギヨームの肖像画
HKMoAは今回の展示会の番外編として、2人の香港人アーティストを招聘し、2人の巨匠の作品からインスピレーションを得て、独自の新しいアートを創作したコーナーも作りました。
トレヴァー・ヨンはセザンヌの水浴画シリーズにおける裸体描写インスタレーションで探求してしています。彼の作品は、「裸体」と「裸婦」の区別を曖昧にすることを意図しているそうです。
巨匠の静物画や肖像画に触発されたライ・クワンティンのインスタレーション作品「エブリデイ・ウィスパーズ」は、日常生活の一瞬を捉えた伝統的な中国の細密画スタイルで人物画と静物画を創作しています。彼女の作品は、19世紀の西洋の巨匠たちのスタイルを現代の中国の墨絵の視点から再解釈しています。
展示会の詳細はこちら
会期: 2025年5月14日まで。
ミュージアム・パスをお持ちの方は、この展覧会に追加料金なしで何度でもご入場いただけます。詳細はこちら。
場所:HKMoA(10 Salisbury Road, Tsim Sha Tsui, Kowloon)
入場料:通常券がHK$50、団体券(20名以上の団体)がHK$35、全日制の学生、障害者(および付き添い1名)、60歳以上の高齢者、社会保障総合支援受給者がHK$25。ミュージアム・パスをお持ちの方は、この展覧会に無料でご入場いただけます。
営業時間:月曜日~水曜日、金曜日 10:00〜18:00
土曜、日曜、祝日 午前10時~午後9時
クリスマス・イブ、旧暦大晦日:10:00~17:00
木曜日(祝日を除く)および旧正月の最初の2日間は休業。
ボックスオフィスは閉館の30分前が最終です。
オランジェリー美術館のホームページへはこちら
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