香港の「楽しい」をいっぱい詰め込んだ情報サイト

2026/08/06

香港の老舗の歴史にまつわるお話を香港老舖記錄冊 Hong Kong Historical Shopsさんとのコラボでご紹介したいと思います。香港老舖記錄冊さんは、Facebookなどで香港の歴史的なお店を独自で取材して発信しています。香港文化の象徴として老舗の存在は欠かせない、老舗が存続していくことが香港の文化を盛り立てることだと言います。香港を愛するHong Kong LEI編集部のわたしたちもまた、昔から愛され続けている香港で誕生した商品が、どんな会社によって作られ、どんな背景で誕生したのか、また、どんなところで、どんなふうに作られていたのかなどを垣間見たくなりました。題して「香港オタクのための愛すべき香港老舗の歴史をたどる」です。でも長いのではしょりまして(笑)「香港老舗の歴史をたどる」と命名いたしました。どうぞよろしくお願い申し上げます。


今回ご紹介するのは、中環にある「蛇王芬(Ser Wong Fun)」は半世紀以上愛され続ける広東料理の名店です。元は内陸の漢方薬局として始まり、絶品と謳われる「太史蛇羹(太史流蛇スープ)」の技術を継承。現在は4代目の女性オーナーのもと、滋味深い伝統の蛇スープや自家製臘味(生ハム・ソーセージ)を守り続けています。


創於:1895年
經營:傳統蛇店
地址:中環閣麟街30號地舖
撰文:杳三 @newnone.hk
攝影:A @ansonepic

金漆の看板(黄金の看板)は、誰もが掲げられるものではない。看板の重みに見合うだけの確かな品質はもちろんのこと、時代の洗練と継承を経て初めて、その重みに応えることができるのだ。

中環(セントラル)に半世紀以上佇む「蛇王芬飯店」は、1940年代に機利文新街(Gilman’s Bazaar)の屋台からスタートし、今や各界のセレブが集う会食場として、また観光客の人気スポットとなっている。現在は4代目オーナーの呉卓芝(ジジ・ウー)氏の手により、家族経営の伝統が受け継がれている。蛇王芬は、時代に合わせた斬新なメニューを展開しながら、蛇スープの美味しさと栄養価を未来へと伝え続けている。

蛇王芬の始まりは1895年にさかのぼる。もともとは呉卓芝氏の曾々祖父母が中国本土の南海大瀝鎮で立ち上げた漢方薬局であり、「芬」の字は創業者である呉桂芬氏の名に由来する。創業当初の蛇王芬は、捻挫の外用薬である「蛇膏(蛇の軟膏)」や、陳皮(チンピ)・川貝(センバイ)などの生薬を配合した内服薬など、蛇を使った医薬品を販売していた。

1930年代、呉卓芝氏の祖父にあたる呉翰殷(ウー・ホンヤン)氏は、一家で香港へ移住し新たな生活の場を求めた。しかし間もなく日本軍の香港侵攻により広西へと避難を余儀なくされる。現地でも捕蛇と蛇の販売という本業で生計を立てていたが、そこで絶品と謳われた「太史蛇羹(太史流蛇スープ)」の料理長と運命的に出会い、弟子入りを果たす。こうして「蛇を薬にする」家業は、「蛇をスープにする」という大きな変革を遂げた。

乱世は混乱と同時に新たな機遇をもたらす。戦後、香港に戻った呉翰殷氏は、呉卓芝氏の父である呉永(ウー・ウィン)氏と共に機利文新街で屋台を始め、蛇スープ、薬膳スープ(燉湯)、白飯の販売を開始した。当時は朝に大量の食材を仕込み、夕方の3〜4時に開店するのが一般的だった。1950年代半ば、香港経済の発展とともに「蛇を食べる文化」が全盛期を迎え、彼らは毎日のように十数個もの鉄バケツ分に及ぶ蛇スープを売り上げ、人々の味覚へのこだわりと滋養強壮へのニーズを同時に満たしていった。

歴史が長い分だけ、くぐり抜けてきた波乱や浮き沈みも多い。1967年、蛇王芬は士丹利街(Stanley Street)に実店舗を構えたが、直後に香港全土を揺るがす「六七暴動」が発生し、ビジネスは大打撃を受けた。その後1970年代の「フカヒレご飯(魚翅撈飯)」に象徴される経済的繁栄期には、バブルの華やかな外食文化を間近で目撃した。しかし1989年に現在の閣麟街(Cochrane Street)へ移転した直後には天安門事件(六四事件)が勃発。さらに2003年のSARS流行時には人々の外食が激減し数か月間にわたり大打撃を受けたものの、その後の「自由行(個人旅行解禁)」政策によって訪港旅客という大きなチャンスを掴むこととなった。

2020年、蛇王芬はサブブランドを設立し、沙田(シャティン)に「四季芬芳(Seasoning)」をオープンした。モダンな広東料理や点心を看板メニューにして若い顧客層を引きつけ、中環の本店が持つ「伝統」と「革新」が見事に融合したペアリングを形作った。しかしオープン直後にコロナ禍と集会制限令(限聚令)に見舞われ、「事業の創出」は一転して「伝統の死守」へと変わっていった。

1つのブランドが老舗となるのは決して偶然ではない。蛇王芬のように、長年にわたり幾多の風雨に耐え抜き、今なお揺るぎなく立ち続けているからこそなのだ。

閣麟街の店内には、蔡瀾(チャイ・ラン)や楊貫一(イェン・グワンイー)といった外食界のレジェンドから贈られた書画が誇らしげに掲げられている。そして外には、書家・区建公(オウ・キンコウ)の手による「金漆の看板」が掲げられている。この看板にある「蛇」という文字の虫偏には、劇作家「南海十三郎」こと江譽鏐(カン・ユーラウ)の助言によって「払いが1本追加」されており、非常に独特で風情ある意匠となっている。

この100年余りで香港の食文化は変化し続けてきたが、店内に飾られた様々な伝統の装飾は、蛇王芬の確固たる「業界での地位(江湖地位)」を誇示するためだけのものではない。食文化としての「蛇を食べる伝統」を守り抜くブランドに対する、客からの深い敬意そのものなのである。

コメントをありがとうございます。コメントは承認審査後に閲覧可能になります。少々お待ちください

意見を投稿する

Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。

Translate »