2021/09/11


ライターの杏さんは、2020年家族とともに英国から香港に越してきたばかり。街を歩くたび、目に飛び込む広東語(中国語)に驚きを隠せないといいます。次々と繰り出される杏さんの「妄想解釈」のあれこれを、連載でご紹介します!

さて皆さま、今回はまず頭の中に大山のぶ代さんの声を準備してください。

準備はよろしいでしょうか? それでは、ドラえもん、四次元ポケットからとっておきのひみつ道具を出しますよ!

『電動あわあわ槍〜!!』

「ん? 槍なの? どうみても水鉄砲のシャボン玉版、バブルガンに見えるけれど、槍? ヤリ?」という声が聞こえてきそうです。そうです、広東語では、『槍』と書いて英語でいうところの『Gun』、日本語でいうところの『銃』となります。『泡泡』はシャボン玉ですね。

さて、よぉくおもちゃの宣伝文句を見てみますと、紫色の丸の中に、水色の文字で『吹出す、大あわあわ!』と書いてあります。落ち着かない感、満載です。しかも、『意想不到』……? これわたしの『勝手にほんやくコンニャク』を使うと、「全然、自分の意図しないところでじゃんじゃんバリバリ泡泡大放出になってしまってアワアワしちゃうこと」となるのですが……。それじゃ焦ったのび太くんが涙と鼻水垂らしながら、『ドラえも〜ん、助けて〜!』って走り寄ってくる姿を想像しちゃいます……。怖くて使えないな、このバブルガン。

さて冗談はさておき、当然ですが、広東語でシャボン玉を意味する『泡泡』は“あわあわ”とは読みません。『泡泡』と書いて『パオパオ』です。一番高い声調を使うのでパオパオ! と高めの声で元気に発音すると通じやすいかと思います。

外でサンドイッチ等を食べていると、大量の雀やら鳩やらが寄ってくるように、外でシャボン玉遊びをすると、大量の子供たちがどこからともなく出現、シャボン玉と戯れ始めます(経験済みのお父さんお母さんも多いかと思います)。そんな時は、バブルガンを振り回しながら笑顔で『パオパオー!』と言ってあげると、場が盛り上がること間違いなし!

さて、話をドラえもんの『泡泡槍』に戻しましょう。いつものように、Myほんやくコンニャクの答え合わせをすべく、広東語の先生に『意想不到』の意味を聞いてみました。答えはズバリ、“Unexpected”。予期せぬ、意外な、ということですね。ドラえもんバブルガンからのシャボン玉の出具合は全く予想内の範囲だったことはさて置き、今までのところわたしのほんやくコンニャクはかなりいい仕事をしていると言えそうです。ただ、先生に言わせるとこの四字熟語は書き言葉であり、広東語話者同士での会話であれば『估唔到』と言う方が自然、とのことでした。日本人から見ると、『意想不到』の方が断然わかりやすいですね!

少し話がずれますが、上記の例のように、先生に「これは書き言葉であり、実際に会話の場では広東語ではこう言います」という説明を受けることがしばしばあります。そして先生は「広東語はDialect (方言)ですから」ともよくおっしゃいます。日本語では広東『語』と表記しますが、実際に香港を含む中国語圏の人々は『中国語の中に、広東弁がある』という感覚のようです。今回の話し言葉、書き言葉、というものを日本語で例えるならば、関西の人は会話で「おおきに」と言いますが、標準日本語では「ありがとう」と表記する。そんな感覚でしょうか。
ちなみに日本語にも様々な方言がありますが、中国語にも広東語以外の方言が数多くあります。ただ、広東語は、特別行政区かつ国際都市である香港によって『公用語』の地位を与えられていることや、香港映画が世界に名だたる俳優や監督を数多く輩出してきたことによって、中国語圏外においてその知名度が他の中国語方言より高いのではないか、とわたしは推測します。

はてさて、今回の脇役はドラえもんでしたが、子供時代のわたしは、毎年春休みにドラえもん映画に連れて行ってもらえるのを楽しみにしていました。あれからウン十年、今年初めて香港で迎えた春休みにもドラえもん映画が上映されていて、ちょっと嬉しくなりました。

このドラえもん、わたしたちと同世代の香港の方々には『叮噹(デインドン)』との呼び名で知られていたようですが、近年は、よりオリジナルに近い音を、ということで、『多啦A夢(ドラAモン)』という呼び名で親しまれている、ということをお知らせして今回は終わりたいと思います。飲み会や子供会など、相手の年齢に合わせて上手に呼び名を使い分けてくださいね! それでも通じない時は、大山のぶ代声で何かポケットから出す仕草をしながら『隨意門〜!!!(チョイ イ ムン)』と叫んでみてください。
もしハズしたら、そのままその四次元ポケットから出したどこでもドアで退場しましょう。

それでは皆様また次回!


小林杏 (Anne Kobayashi)


東京都出身、青山学院大学仏文科卒。ニュージーランド、日本、フランス、英国での就業経験あり。ロンドンでの出産子育てを経て、2020年に来港。今まで住んできた土地のように、香港も愛おしい場所となりつつある今日この頃。趣味は読書、舞台芸術鑑賞とカンフー映画鑑賞。

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