2024/04/28

つい先日、わたしが極度の体調不良でぐったりしていた時のことです。母の体調など、そんなことはお構いなしに、「りんご切ってー!」、「エルサの髪してー!」など注文をつける第二子、第三子……「あ゛~いま無理……」と机に突っ伏している母の姿を見て、長女登場。状況を察して、下の二人の要求をさばき、際限なき会話がわたしに向かないよう、彼女たちのお相手をしてくれました。その姿を見た時、我が家では下の子が生まれても、「お姉ちゃんだから」という言葉は使わないようにしてきたものの、「長女だなぁ」としみじみ感じました。

第16回のコラムで、「人間の性格と血液型に関係性は無い」というお話をしましたが、これと同じように良く言われるのが、生まれた順序と性格の関係性。例えば、「長女、長男はしっかり者」、「真ん中の子は要領が良い」、「末っ子は甘えん坊」などといった、生まれた順序による性格傾向の違いは広く信じられています。多くの先行研究からは、出生順序による性格への顕著な影響は認められていません。にも拘わらず、「長女」に関しては、特に「責任感が強い」、「面倒見が良い」、「しっかり者」というイメージが付いて回りますし、実際に第二子以降と比較した時に、こうした要素を弟妹より持ち合わせている場合が多いのも確か。

結果、人から頼りにされ過ぎて、なんでも抱え込み過ぎてしまう、人に適切に甘えることが苦手なため、人間関係で上手く行かない、人からの評価を気にし過ぎてしまい、場に過剰適応して良い子を演じてしまう、などといった生きづらさを抱えることも、「長女」にはよくあるようです。最近では、こうした「長女」ならではの性格傾向に起因した生きづらさに対して、「長女症候群(Eldest Daughter Syndrome)」などという言葉も生まれるほど。

これは、心理学や精神医学における正式な診断名ではありませんが、多くの「長女」が、この「長女症候群」の呪縛から逃れられず、苦しい思いを抱えているようです。なぜ「長女症候群」と表されるほどの生きづらさを抱えてしまうのか。この程、その説明の一助となりそうな論文が発表され、わたし自身も興味深く、「長女」を持つ方やご自身が「長女」である方と共有できたらと思います。

 

今年2月に発表された、カリファルニア州立大学ロサンゼルス校(UCLA)を中心とする精神神経内分泌学の研究チームの論文によると、母親の妊娠期間中の高ストレスや逆境的な環境への曝露が、長女の副腎皮質性思春期兆候に関係しているということが分かったそうです。小難しい単語ですが、これは思春期に起こる身体の変化とは異なり、感情や心理的成長を主とした成長段階であり、最終的には体毛や体臭の発現、骨格や脳の成熟に向けた変化に関与するそうです。平均して女子では5~8歳、男子で7~11歳と、思春期の発現より2年ほど早くに始まります。

今回の研究では、妊娠時における母親のストレスやうつ、不安のレベルを評定、子どもに関しては、副腎皮質や性腺機能発現のタイミング、ホルモンの変化等を記録しました。その結果、母親が妊娠中に高レベルのストレスに晒された場合、副腎皮質性思春期兆候が長男や第二子以降よりも、最年長の女児に最も早く出現したことが分かりました。

つまり、長女は母親のお腹の中に居る時から、母親のストレスレベルを感じ取り、産後、乳幼児期を経て、早めに社会的、認知的に成長することにより、母親的役割を自身が担うことで、母親のストレスレベルを緩和させているというのです。ひいては、長女が母親の手伝いや弟妹の子育てを手伝うことにより、子孫を残す手助けをしていると考えられるそうです。この研究結果を読んだとき、子孫繁栄のための人間の細胞レベルでの環境適応は、妊娠時から既に始まっていることに驚くと共に、一定の条件下ではあるにせよ、長女の宿命のようなものを感じました。

生きづらさと言うものは、人それぞれ、千差万別。どのような原因が寄与しているかも、まちまちだと思います。もし、今、「何となく生きづらいな」とか、「これが本当の自分なのかな」と違和感を感じるのであれば、その原因の一つに、こうした長女ならではの苦しみが関係していないか、ご自身に問いかけてみては如何でしょうか。

その苦しみから解放されるためには、時に家族、特に自身の親に自分の気持ちを伝えることが必要になるかもしれません。しかし、人の意見や考えを変えたり、自分の気持ちを理解してもらうことは容易ではありません。まず、自分で出来ることとして、人に過度に頼られたり、依存されたりする事が無いよう、人との関係性においての境界線をはっきりと持ちましょう。そして、自分の境界線を越えてくる相手には、きちんと主張できる方法を学ぶことも必要です。また、過度な自立心は、必要な時に助けを求める機会を失うことに繋がります。他者に何かをしてあげるだけでなく、時には自分も他者から学び、助けてもらう機会を作りましょう。自分にご褒美を用意したり、労わる時間を増やすことも大切です。必要であれば、カウンセリングで、ご自身の中の違和感の正体や考えをまとめてみることも効果的と言えるでしょう。



河合 まり絵

臨床心理士。日本ではスクールカウンセラーとして、不登校児童や別室登校児童、発達に偏りのある児童への心理的サポートや、精神科クリニックで、パニック障害、PTSD、うつ病、摂食障害などの個別カウンセリングを実施。リワーク外来では、精神疾患などで休職中の患者に対し集団療法を、また、復職後の企業内フォローアップ・カウンセリングを実施。刑務所内では、グループ矯正教育をするなど、教育、医療、産業、司法の分野で臨床経験を積む。香港に移住してからは、3児の子育てに追われるも、縁あって精神科クリニックに復職。

 

OT & P Healthcare/ Mind WorX Clinic
MindWorXはOT and P Healthcareが運営する精神科専門のクリニックです。
中環駅(セントラル)から徒歩2分の場所に位置しており、簡単な日本語を話せる医師と、日本人の臨床心理士が在籍しておりますので、薬の処方と共にカウンセリングを並行して受けることが可能です。投薬はしたくないけれど、カウンセリングを受けたいという方もご相談下さい。

以下のようなことでお困りの方は、是非、一度、ご相談下さい。
・夜、なかなか眠りにつけない、または、朝、早くに目が覚めてしまいすっきりしない
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初回予約の際に日本語でのサポートが必要な方は、marie.kawai@otandp.comにemail を頂ければ、日本語での対応が可能です。

Mind WorX Clinic
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