2021/06/17
こんにちは、希望(のぞみ)です。
今回は、西九龍文化区にある戯曲中心での広東オペラ初体験レポートです。
広東語のオペラ(中国では戯曲といいます)は300年の歴史を有し、2009年にユネスコ無形文化遺産に登録されています。その広東オペラに代表される戯曲芸術を継承、発展させるための専門施設が戯曲中心です。
戯曲中心は2019年1月にオープンしました。
とてもユニークな建築ですが、中国の伝統的なランタンをイメージしており、入り口部分は、舞台の幕が開く様子を表しているそうです。
建設工事は3、4年かかっていると思います。
近くに住んでいるので毎日工事音がうるさくて、「ショッピングモールだったら便利になるね」なんて友人と話していたのですが、戯曲施設だと知りがっかりしたことを覚えています。わたしの日常生活と戯曲は縁遠かったのです。
オープン当初、さっそく覗きに行きました。戯曲を鑑賞するつもりはなく、併設されているグッズ売り場やレストラン、カフェをチェックするためです。
それから程なくしてデモ、そしてコロナ……。この2年はこの建物に入ることすらありませんでした。
最近になって香港はコロナ感染者数が減り、わたしは今までできなかったことに挑戦したくなりました。そして、戯曲中心が気になり始めたのです。
この2年でわたしの中で、「香港に対する想い」というのが湧いてきた気もします。
実は、香港に来た当初はこの街が好きではありませんでした。でも奇しくも香港生活は5年続き、その中の2年は歴史に刻まれるような激動の年となり、わたしは「もっと香港を知りたい」と思うようになりました。
その一環の広東オペラ体験です。
戯曲中心には、約1000席の大劇場もありますが、戯曲初心者向けの「茶館劇場」も用意されています。茶館劇場では、90分で広東オペラの有名場面の抜粋上演と伝統音楽演奏が鑑賞できます。しかもキュレーターの解説つき。英語と中国語の同時字幕です。演者と演奏者は、この劇場専属「茶館新星劇団」の若き芸術家たちです。
茶館劇場は、約200席のこじんまりとした空間で、20世紀初頭中国の茶館(お茶や点心のお店)をイメージしているそうです。その名の通り、当初はお茶と点心が提供され、それを食しながら広東オペラの世界を楽しむというコンセプトでしたが、今はコロナ対策のために劇場内の飲食禁止で、鑑賞後に飲み物が配られました。
ほぼノー知識での鑑賞でしたが、楽器演奏で、琵琶や笙が使われているのは驚きでした。雅楽とは違った旋律でしたが、「あぁ、やっぱり繋がっているんだ」と思ってしまいました。また、「娯楽昇平(In Celebration of Good Times)」という曲になった時に、隣の年配の男性客が「そうそう、これこれ!」という感じでリズムをとっていたのが印象的でした。
戯曲は、美しい化粧に煌びやかな衣装をまとった演者の美声と舞姿にうっとりしながら、でも字幕にくらいつきながら鑑賞。2階席でも肉眼で演者の表情が観られます。また現代技術を駆使したスクリーンが戯曲背景となり、古代中国へと観客を誘います。
今回の抜粋上演は、「梁山伯と祝英台」、「白龍関」、「月下追賢」でした。どれも有名どころで、映画になったり絵画で描かれていたりするようです。
中でも感動したのは「月下追賢」の演奏でした。独唱で、孤独、望郷、惜別などの深い悲しみを歌っているのに、リズミカルで疾走感があってトランス感があって、心が躍りました。
昔、歌舞伎座で故・中村勘三郎さんが親子三人で演じた「連獅子」を観た時に、「これはロックだ!」と思った感覚を思い出しました。
家に帰ってからYouTubeで検索したのですが、同じ演奏の「月下追賢」は見つけられませんでした。また茶館新星劇団のアレンジで聴きたい!と思いました。
キュレーターが言っていた「人間風景」という言葉も心に残りました。
秘めた恋心、離れた家族への想い、失望、別れ、しがらみ、苦悩……。いつの時代でもある心の風景。歴史上の偉人とも、戯曲作者とも、演者とも、奏者とも共鳴できるものだと思いました。
予想以上に広東オペラに、生の伝統芸能に感動しました。翻っていえば、この2年間(それ以上かも)、思った以上に心が枯渇していたのかもしれません。
今になってこの施設が、ショッピングモールではなく文化芸術の施設で良かったと思ったのでした。
戯曲中心では、「Music after Work」と称して木曜夜にジャズやワールドミュージックを、週末は「Music in the Atrium」と称してさまざまなアンサンブルパフォーマンスを無料で楽しめます。ぜひ、足を運んでみてください。
下の写真は、「赤煉鼓楽団」による「Music in the Atrium」の様子。
戯曲中心
九龍尖沙咀柯士甸道西88号
開放時間:午前10時〜午後10時30分
希望(のぞみ)
神奈川県出身。都内文学館で学芸員として6年勤務。出産後、大連2年、東京2年、香港5年の子育て生活を送る。大連では日本語教師、東京では司書を経験。香港ではライターとして活動中。
Instagram
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