2022/03/09

コロナ第5波による閉塞感が漂う香港。平凡な4人一家の何気ない日常生活の中で、疑問に感じて調べた数字からみえてくる今の香港の風景を届けたい。くすっと笑えるエピソードを通じて生き生きとした香港の姿を伝えたいという思いからこの1年書き続けてきたコラム。今、自分の目の前に広がる風景をどう書くべきなのか、コロナの話題は出さない方がいいのか。でも、現実社会から目を背けることも、わたしが届けたかった『数字からみる香港の風景』ではないような気がして、第12回、デビュー1周年を迎えた今回はこの数字をご紹介したいと思います。

近隣郵便局の入口風景。香港域内の数の内訳は、港島:31、九龍:37、新界:50、離島:8(流動郵政局を除いた数)となっています。

香港126、日本20,061(注1、注2)。種明かしは始めにしてしまいますが、2つの数字は、両地域にある郵便局の数なんです。地方の片田舎に住んでいた子どもの頃、町の郵便局は両親に口座を作ってもらい大切に貯めたお年玉を初めて預けに行った場所でした。記念切手が出るたびに切手シートを買いに行きスクラップブックを作っていた母からは、上京して一人暮らしを始める際に大量の切手シートを手渡され、これは手紙を書いて頻繁に近況報告しなさいってことかしらと愛情を感じながらも苦笑いしたことがありました。

社会人になってからは、アンケート調査の返信用封筒の作り方を窓口で教わったり、年末には大量のお得意様用カレンダーを発送したり。全国の郵便局の中枢である東京中央郵便局は2012年、旧局舎敷地にJPタワーが完成し、その低層棟に居を構えることになりましたが、勤務先の東京商工会議所ビルの1階には建替え中の4年間、丸の内分室という代替事務所が開設されていて、わたしにとって郵便局は物理的な意味でも身近な存在でした。

使うのが惜しくなってしまう美味しそうな切手を香港の郵便局にて購入。切手シートは剝き出しの状態ではなく、不要な紙にセロテープを貼って作られたお手製封筒(?)に入れてくれました。

来港してからの郵便局とわたし。香港ならではの絵柄の記念切手を買いに行ったり、息子と両親宛てのエアメールを出しに行ったり。日本の通販サイトでまとめ買いをした書籍や化粧品は海外転送サービスのEMSで郵便局の配達員さんが自宅まで配送してくれるし、夫は車のスピード違反の切符の罰金を郵便局の窓口で支払っていて、やっぱりそれも郵便局なんだって驚いたこともあったっけ。香港の出生証明書を持っていない海外パスポートのみ保有の子どものコロナワクチン接種は、郵便局の窓口が予約手続きの際の窓口ともなっていて、香港に来ても相変わらず日頃の生活に欠かせない身近な存在の郵便局。そして、他国との行き来が容易でない今、わたしは郵便局を通じて日本に住む方と素敵な交流を果たすことができたのです。

香港内の郵便件数(2020-2021年)はおよそ9.8億件。内訳は国内郵便78.43%、国際郵便21.57%。国際郵便の宛先の1位、2位はヨーロッパ圏(40.87%)、アジア・オセアニア圏(39.32%)で、ほぼ同率の数字となっている。(注3)

ある日Twitterで目にした手作りキルトのポーチの画像。ティーカップ型のカップの持ち手部分のスナップを外せば、鞄の持ち手に取り付けることのできるかわいらしくて優秀な小物。こちらはキルト歴35年のmegさんのお母様がアトリエで手作りされている作品で、これまで20年近く教会などのバザー等で手作り品の販売をなさってこられたのだそうです。コロナ禍でイベントの中止が相次ぎ、オンラインで販売を開始したというエピソードは彼女のツイートを見て知っていたのですが、megさんが香港のビーズ街で出会った材料も一部使われているというユニークな柄の組み合わせの作品の数々。今は亡きわたしの祖母もお裁縫が得意で、様々な生地や端切れでワンピースや巾着袋を作ってくれていたなと、世界でたった一つの手作り品の持つ温かい雰囲気が懐かしくて、気付いたらわたしはmegさんにオーダーメイドを依頼するメッセージを送信していました。

2021年4月まで香港に住んでいたmegさん。コロナ第1波~第4波のあの不安な時期、香港という異国の地で、同じ空の下、わたしと同じように子育てに奮闘しながら毎日を送っていたであろう彼女。声を聴いたこともないし、顔も歳も、本名すら分からないのに、同志として繋がっているような気がして、オーダーを巡るやり取りは親しい友人と長電話をしているかのような、終わってしまうのが惜しい不思議な感覚でした。注文して2週間ちょっと。旧正月をはさんで郵便局から届けられたその品にはmegさんの手書きのお手紙も添えられていて、製作と海外発送に費やした彼女とお母様の時間を思い、わたしに割いてくれた時間を思い、胸がじんとしました。

わたしと生地違いのkazumiさんのポーチ。なんとポーチをつけようとしていた鞄までわたしと色違いのお揃いでした。こちらの“香港友の会”ティーカップは日本国内の郵便局間を移動。(kazumiさん撮影)

そして、物語はそれだけでは終わらなかったのです。その後、megさんのツイートを見ていたら、あれ?私の購入したポーチと色違いのポーチ。さらにその3日後「届きました」というkazumiさんからのツイート。kazumiさんはかつての勤務先である丸の内界隈のお店の画像をTwitterによく上げてくださっていて親近感を覚えていたのですが、“香港”というキーワードでもわたしたち3人は繋がっていたのです。降り立ったときの香港の空港の空気感と信号の音が大好きだというkazumiさん。当時お付き合いされていた方が住んでいらしたこともあり、コロナ以前は香港を度々旅していたそうです。遠く離れていても“香港”でつながった“絆”を実感させてくれるモノが自分の心を強く穏やかにしてくれる。日本の20,061分の1の郵便局から送り主の元を巣立ったカップが、海を越えて香港の126分の1の郵便局に届き、前を向く勇気を運んでくれたと、わたしは久し振りに明るい気持ちになったのでした。

因みに日本の国際郵便物の最新の数字(2020年)は通常郵便:1,336万件、小包:246万件、EMS:720万件となっています。(注4)

2022年3月現在、香港の郵便局は、ほぼ毎日、どこかしらで局員のコロナ陽性が発覚し、一時休業を余儀なくされています。辛うじて開局している郵便局も営業時間が短縮されるなどの未曽有の事態に直面しています。年間国民一人あたりの郵便物数(国内郵便物数)が日本(129通)に次いで世界で12番目に多い香港(115通)(注4)。人々の日常生活を支えている郵便局に訪れたマンパワー不足という厳しい事態。“香港が好き!”で繋がって、今の状況に心を痛め、香港に思いを馳せてくれている日本の友人たち(って、呼んでもいいよね?)といつの日か本当に出会える日まで、この先の香港での日々をなんとか踏ん張っていきたいと考えています。

 

Emi in HK。多謝收睇。下次見!

 

【出典】

※注1…郵政指南 郵政局一覽表(2021年11月現在)(香港特別行政區政府 香港郵政)

https://www.hongkongpost.hk/filemanager/common/poguide/tc/1.4.pdf

※注2…日本郵政グループ   統合報告書・ディスクロージャー誌(2021年)データ集(日本郵便株式会社の概要)

https://www.japanpost.jp/ir/library/disclosure/2021/pdf/data_01.pdf

※注3…二○二○/二○二一年報 部門概況(香港特別行政區政府 香港郵政)

https://www.hongkongpost.hk/tc/about_us/corp_info/publications/annual/2020_21/index.html

※注4…日本郵政グループ   統合報告書・ディスクロージャー誌(2021年)データ集(日本郵便株式会社の業績)

https://www.japanpost.jp/ir/library/disclosure/2021/pdf/data_02.pdf


Emi
映像プロダクション会社勤務。大学院修了後、日本・東京商工会議所にて、中小企業の資金調達支援から政策立案時の省庁との折衝まで多岐にわたる業務に従事。
15年半の勤務を経て2019年、夫の仕事の都合により来港。2020年から現職。夢は日本と香港の合作映画の製作に関わること。気分転換は25年振りに再開したピアノ。インター校に通う7歳、4歳、男児2人の母。

Twitter   @emi_m_wang
E-mail  emiinhkg@gmail.com

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