2022/07/08
你呢排點啊?7月に入り、香港に本格的な夏と台風シーズンが到来しました。香港天文台の警報チェックと折り畳み傘の欠かせない毎日。香港で迎える我が家の夏も今年で4度目です。
さて、ここ香港の街中では、わたしが日本人とわかると片言の(時に流暢な)日本語で話しかけて来られる香港の方々が少なくありません。ローカルスーパーの顔馴染みのレジの店員さんとの会話のきっかけも、なんと日本語。大阪に長期滞在したことがあるという彼女とは、レジの会計中、英語交じりの日本語で互いの近況報告をし合うのが習慣となりました。
国際都市香港。様々な国籍の人々が行き交います。(注1)
ある日のこと。 “香港の地元高校生と日本語で交流しませんか?”ボランティアを募集する1通のメールが舞い込んできました。選択科目の語学の時間、週1日3時間、学校で日本語を学んでいるという高校生たち。我が家の息子たちよりだいぶ上の学年のお子さん方ですが、香港の子どもたちがどうして日本語を勉強しようと思い至ったのか知りたくて、わたしはボランティアに参加することに決めました。
当日は、あいにくの黄色暴雨警告。土砂降りの土曜の午後だったにもかかわらず、会場には30人近い生徒さんたちが集まりました。「Hello,大家好。Emiって呼んでください。MIRRORが大好きで、推しはAKです」彼らがどのくらい日本語を解せるのか分からず、日本語と広東語と英語、ごちゃませでしたわたしの自己紹介に笑い声が起こります。エンターテインメントって最強の共通言語だな(MIRRORありがとう!)。マイク片手に、広東語/日本語単語帳を握りしめていたわたしの緊張は一気にほぐれました。
会場となった元朗のコミュニティセンター。真剣に耳を傾ける生徒たち。
主催者の進行により、先ずは会場スクリーンに映し出された日本語の質問に答える一問一答タイム。「日本に旅行したことがある人は?」4分の1を超える生徒たちから手が挙がり、「東京」「沖縄」「奈良」「名古屋」、口々に旅先の都市名が上がります。
「好きな日本食は?」香港内の進出店舗数に比例するかのように「寿司」と「ラーメン」が会場の人気を二分しました。「生姜焼きです。さっきお昼に作って食べてきたところです。わたしは料理をするのも好きなんです」完璧なイントネーションで答えてくれた生徒さんは、会場で唯一の日本語能力試験(N2)保持者(日本語能力試験にはN1~N5の5つのレベルがあり、最も易しいレベルがN5、最も難しいレベルがN1(注2))。日本語を習い始めてまだ9ヵ月だという彼女の語学の上達ぶりに舌を巻きました。
昨年12月、日本で劇場公開された『劇場版 呪術廻戦0』は動員980万人、興行収入137.5億円を突破し、歴代興収ランキング14位となりましたが(注3)、ここ香港でも大ヒット上映中(2022年7月現在)。MTR構内の広告パネルと街中に溢れるキャラクターグッズ。
その後は少人数のグループに分かれての懇談タイム。わたしは女の子2人と男の子1人のグループを受け持つことになりました。彼らの通う学校は1学年100人ほどで、4クラス編成。規模としては香港では大きい方の部類に入る学校なのだそうです。「香港の学校って宿題多いって聞くけど、本当?」尋ねてみると、「わたしたちの学校は宿題は少ないですが、テストが多いです」苦笑いする彼ら。そんな彼らの気分転換は日本のアニメを見たり漫画を読んだりする時間。『呪術廻戦』や『東京リベンジャース』などのタイトルを挙げてくれました。よく聞く日本のシンガーはYOASOBI。将来の夢は漫画家やゲームクリエイター、そして日本に行ってみること。はじめは恥ずかしそうにしていた彼らも、大好きな日本のコンテンツの話ともなると言い淀むことなくポンポンと日本語が出てきます。
2021年の人口センサスによれば、香港に居住する日本人はおよそ1万人。一方で、日常会話レベル以上の日本語が話せる人口は15万人を超えているのだそうです(注4)。学校の授業に加え、趣味の世界でも日本語に囲まれる彼らがこの数字の仲間入りを果たす日も、そう遠い日のことではなさそうです。
2021年6月から8月にかけて実施された人口普査(センサス)。香港では10年おきに調査が実施され、中間年にも中期人口統計が実施されます。教育~労働~住環境まで幅広い調査内容。まさに“数字からみる香港”。日本語話者の対人口比は右肩上がりの数字を示しています(注5)。
帰りがけ、今日の記念にと名刺を差し出すと「Wang」というわたしの名字にきょとんとする生徒たち。「夫は香港の人なの。彼はアメリカの高校から日本の大学に進学して、わたしたちはそこで出会って恋をして。結婚して香港に戻って来て、今は映画を作る会社で一緒に働いているのよ」今更ながらカミングアウトすると、興味津々で身を乗り出して来た彼ら。そっか!先に、この話していたらもっと打ち解けて話をすることができたよね、ごめんね。
終わってみればあっという間の2時間。「じゃ、お疲れさまでしたー」どこで覚えてきたのか分からないこなれた日本語の挨拶で手を振り、会場を去る生徒たち。15~17歳の彼らに、将来、日本との関わりがどのような形で訪れることになるのかは分かりませんが、現在、香港と日本の合作映画の企画の仕事で奔走中のわたし。倍以上、歳は離れているけれど、この先の道のどこかで、日本に関心を持つ彼ら世代とエンターテインメントの世界で同じ夢を追いかけられたら楽しいだろうな。生き生きとした子どもたちの眼差しを思い出しながら、わたしはようやく雨の上がった夏の匂いがする帰り道の夜空を見上げたのでした。
明日、天気になぁれ。Emi in HK。多謝收睇。下次見!
同じグループになった高校生たちとパチリ、記念撮影。
【出典】
※注1…「2021人口普査―簡要報告」(香港特別行政區 政府統計處)https://www.censtatd.gov.hk/en/data/stat_report/product/B1120106/att/B11201062021XXXXB01.pdf
※注2…日本語能力試験とは(N1~N5:認定の目安)https://www.jlpt.jp/about/index.html
※注3…ORICON NEWS「映画『呪術廻戦』興収137.5億円突破で終映 歴代興収『ラスト・サムライ』抜き14位」 (2022-05-30)https://www.oricon.co.jp/news/2236470/full/
※注4…注1に同じ。日本人人口は永久居民の日本人数も取り込むためNationalityではなくEthnicityの値を参照。
※注5…注1に同じ。5歳以上の人口7,184,076人に2.1%を乗じると150,866人。
Emi
映像プロダクション会社勤務。大学院修了後、日本・東京商工会議所にて、中小企業の資金調達支援から政策立案時の省庁との折衝まで多岐にわたる業務に従事。15年半の勤務を経て2019年、夫の仕事の都合により来港。2020年から現職。夢は日本と香港の合作映画の製作に関わること。気分転換は25年振りに再開したピアノ。インター校に通う7歳、4歳、男児2人の母。
Twitter @emi_m_wang
E-mail emiinhkg@gmail.com
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