2022/11/06

ある日、日本人の友達が結婚旅行について話してくれました。彼女は確か今年67歳になる親切な女性で、香港が大好きだそうです。

彼女の話によると、1980年代の香港は夜景が素晴らしいだけでなく、中華料理や外国料理も食べられて、結婚旅行にふさわしいアジア都市でした。

驚いたことに、彼女の一番記憶に残ったところはピークではなく、タイガーバームガーデンです。

タイガーバームガーデンは実業家の胡文虎と兄弟の胡文豹によって建てられた別荘で、1935年建設完成しました。胡氏兄弟は今でも有名な薬ブランド軟膏の虎標萬金油(タイガーバーム)の元社長でした。1950年代から2000年にかけて、市民向けの観光地として公開されていました。

1961年、三島由紀夫が香港を訪れました。文豪が庭園を見学して、「美に逆らふもの」と言う記事が雑誌「新潮」の1961年4月号に掲載されました。その時から、タイガーバームガーデンが日本人の間に爆発的な人気になったのも、三島由紀夫のおかげかもしれません(その文は最後にあります)。

わたしも中学生時代に行ったことがあります。あまり記憶がないですが、庭園中のコンクリート造りの7層パゴダ(仏塔)と周囲のデコレーションは怖かったです。仏教か儒教か道教かわからないですが、ジオラマの地獄や極楽の風景を明確に表し、人間に反省させる効果ができると言われています。

文化財とはいえ、2000年に閉鎖されて以来、忘れられつつあるタイガーバームガーデンの土地は少しずつ住宅用になりました。今は高そうに見える高層マンションになりました。

 

三島由紀夫に嘔吐を催させるくらいだった地獄極楽風景はなくなりましたが、昔立ち入り禁止の胡氏豪邸は入れるようになりました。

実は、タイガーバームガーデンは文化財として、ある音楽学校の校庭になりました。虎豹樂圃(Haw Par Music)は香港政府と契約を締結しました。校庭を借りる代わりに、無料見学ツアーを観光客に提供します。

入り口は虎の人形が立っています。

虎標萬金油(タイガーバーム)の椅子も写真スポットです。

わたしは2回見学ツアーに参加しました。教室として使われている部屋は毎回違うので、参観路線は曜日によって変わります。

和洋折衷建築は日本でよく見られますが、胡宅は漢洋折衷のスタイルでデザインされています。

注目されるリビングの丸くて大きいガラスドアはイタリア製のグラスで、職人の手作りです。

近くに立って見たら、100年前の職人のサインが残されています。

部屋のデザインは基本的に洋室になっています。でも、細かいところは中国の伝統が見られます。

コウモリ(蝙蝠)=福
花瓶=平安 *瓶/平 広東語で同じ発音

浴室に入って見たら、戦前ならではの豪華な設備が胡氏家族の栄光を語っているようです。

 

Mother Burmania はどちらの女神か分からないですが、旗は虎標萬金油(タイガーバーム)ですね。

ベランダから鴟尾(しび)がたくさん見られます。不思議な動物ですが、風水に詳しい胡氏兄弟が選んだ鴟尾も風水に関係していると、わたしは信じています。

もし、あなたも虎標萬金油(タイガーバーム)を持っていたら、ぜひこの別荘に参観に行ってくださいね。

虎豹樂圃無料見学ツアーの申し込みはリンクまで

https://www.hawparmusic.org/tc/

ちなみに、香港で虎標萬金油(タイガーバーム)以外の軟膏といえば、オロナインH軟膏 (娥羅納英H軟膏)が有名です。

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付録:

この庭には実に嘔吐を催させるやうなものがあるが、それが奇妙に子供らしいファンタジイと残酷なリアリズムの結合に依ることは、訪れる客が誰しも気がつくことであらう。中国伝来の色彩感覚は実になまぐさく健康で、一かけらの衰弱もうかがはれず、見るかぎり原色がせめぎ合つてゐる。こんなにあからさまに誇示された色彩と形態の卑俗さは、実務家の生活のよろこびの極致にあらはれたものだつた。胡氏は不羈奔放を装ひながらも、この国伝来の悪趣味の集大成を成就したのである。
中国人の永い土俗的な空想と、世にもプラクティカルな精神との結合が、これほど大胆に、美といふ美に泥を引つかけるやうな庭を実現したのは、想像も及ばない出来事である。いたるところで、コンクリートの造り物は、細部にいたるまで精妙に美に逆らつてゐる。幻想が素朴なリアリズムの足枷をはめられたままで思ふままにのさばると、かくも美に背馳したものが生れるといふ好例である。

— 三島由紀夫「美に逆らふもの」


キリ
日本語教師で旅行作家。唎酒師と観光ガイド資格。特に日本が大好きで年に10回以上は訪れる。著書に『Kiri的東瀛文化觀察手帳』(2017)、『日本一人旅』(2019)、『爐峰櫻語』(2022)がある。香港の誠品商務三聯などの書店で購入可能。
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2 件の意見

  • Nozomi より:

    コメントをいただきありがとうございます!41年前にタイガーバームガーデンにいらっしゃったんですね。ぜひまたご家族で香港そしてタイガーバームガーデンに遊びにいらしてください!(編集部より)

  • 佐藤 直子 より:

    はじめまして。
    41年前、香港へ旅行に行き その時 タイガーバームガーデンを訪れました。とにかく奇抜な色使いの置物や造形物は 今でも忘れられません。お庭だけの見学だったと思いますが 奇抜だったけれど とても綺麗だったなぁと思い出します。懐かしい思い出です。
    …というのも 甥っ子が来年、香港へ旅行に行く という話が出て そこから 「タイガーバームガーデン」へ行ったわ!という事を思い出し 「タイガーバームガーデンって今でも あるのかな?」「タイガーバーム(軟膏)…昔、流行ったよね〜」なんて 家族で話が大盛りあがりでした。
    初めての外国旅行、香港…。 今でも懐かしく 大切な思い出です。また 行ってみたいという思いで胸がいっぱいになりました。

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