2023/01/10
前回のコラムで、わたしがなぜ香港に移住してきたのか書きましたが、
今回は香港ワーママとは切っても切れないヘルパーさんの事について書きたいと思います。
香港で仕事をしようと決めた時にわたしが最初にしたのは、保育園を探す事でした。
そこで気づきます。
…ん? 保育園情報出てこないぞ?
そうです。香港には、日本の保育園のような夜遅くまで子どもを預かってくれる制度はなく、共働きであっても、未就学児は幼稚園に通っているのです。何なら半日保育もザラなので午前中に帰宅する子も多いです。
どうしてそれが成り立つのかというと、家族や親戚の協力が日本より大きいという事もありますが、一番日本と違いを感じるのは、ヘルパーさん文化が根付いているという点です。
ヘルパーさんの多くは、フィリピンやインドネシアなど近隣諸国から仕事の為に訪れていて、住み込みで家事、育児、介護などの手伝いをしてくれます。
香港キッズたちは彼女たちの事を親しみを込め「アンティ」(日本語に訳すとおばちゃま)と呼びます。
我が家にも、フィリピン出身の、真面目で穏やかな、笑顔の優しいヘルパーさんがいて、息子も彼女の事を「アンティ」と呼び、とても懐いています。
彼女との出会いはエージェントさんを通じた面接でした。
ちなみに、日本語でやりとりができ、日本人が求めている事を理解してくれるところが良かったので、日本人経営のこちらのエージェントさんでお願いしました。
彼女との面接で印象的だったのは、「わたし、料理が上手じゃないのですが大丈夫ですか?」と、とても控えめだった事です。
(後に彼女とわたしのお料理特訓大作戦が始まるのですが、それはまた別の機会にお話ししますね)
わたしが一番大事にしていたのは息子を大事にしてくれるかどうかだったので、第一印象でビビッときた彼女に即決しました。
わたしの勘は見事当たり、彼女は息子の事をとても大切にしてくれ、息子も彼女の事が大好きで、とても良い関係を築いています。
印象に残るエピソードがあるのですが、
彼女を雇用してまだ日が浅かった頃のお話です。
その日の息子。オッターと名付けたぬいぐるみだけが友達でした。
息子もまだ香港生活に慣れておらず寂しげだったため、何とかテンションを上げようと、
ある日、わたしと息子はおもちゃ屋さんに寄って帰宅しました。
わたしは息子に「シャワー浴びてからおもちゃ開けようね」と言いました。
しかし、息子は当然買ったばかりのおもちゃで遊びたいので「やだ!今開ける!」と。
おもちゃを開けてしまうと長くなりそうなので、わたしとしては今ササっとシャワーを済ませてほしいのです。それに5分で済むのに!
しかし、息子も頑なです。
埒が開かなくなったので、わたしは息子の手からおもちゃを取り上げました。
「あーとーで!」
息子号泣。叱るというよりもはや喧嘩です。
ぁあ、息子のためにおもちゃ屋さんに行ったはずなのになぜこんな事に……。泣
そこで息子はどうしたかというと、ヘルパーさんの元に走り泣きつきました。
彼女はとても優しい顔で息子の頭を撫で、落ち着いた声で
「ママがあなたの事愛してるの知ってるよね? 何買ってもらったの? シャワーを浴びた後アンティにも見せて」と、なんとも優しく語りかけていました。
当然英語なので当時の息子には何を言っているのか分からなかったと思いますが、愛情のこもった語りかけは、時に言語の壁を超えるんですね。
息子は段々落ち着いてきて、彼女の言葉に頷き、「シャワー浴びる」と呟きました。
わたしとアンティは「なんて偉い子なのー!!」と2人で大袈裟なほど盛り上げ、息子も笑顔になり、シャワーから上がってきた頃には「ママ、おもちゃ開けよう〜!」と気持ちを切り替えていました。
今までは、わたしが息子を叱ったら息子には逃げ場がなかったのですが、今はアンティという別の居場所がある。彼女の存在の大きさに気付いた日でした。
息子のボタン掛けを辛抱強く見守るアンティ。
前回のコラムで、「わたしと息子の二人三脚の香港生活」と書きましたが、彼女の登場によって、「アンティとわたしの二人三脚で息子を育てる」事ができるようになりました。
これはわたしにとってかなり大きな前進です。
彼女が我が家に来てからもうすぐ1年。
子どもの吸収力はすごいもので、今、息子は彼女と英語を使ってコミュニケーションを取っています。彼の英語についてのお話はまたの機会に(書きたい事が多すぎる〜)。
彼女と一緒に塗り絵で遊ぶことであっという間に色の英語を覚えた息子。
実は一度、彼女と腹を割って話した事があります。
わたしがなぜ香港にやってきたのか、彼女がなぜ香港にやってきたのか。
人それぞれドラマがありますよね。
2人で涙しながら話したあの夜、わたしと彼女の中で、確かに絆のような物が芽生えました。
子どもと一緒に住めているわたしが、子どもと離れて働く彼女の気持ちを分かるなんて到底言えませんが、彼女の「母の覚悟」のようなものは想像できます。
こうして強力なパートナーを得たわたしは、仕事に邁進していくようになります。
息子とヘルパーさんが今日も一日笑顔でいられたらいいなと職場で働きながら心の底から願う毎日です。
それでは今回も読んでいただきありがとうございました。
毎月10日に連載しておりますので、また次回もお待ちしております!
筆者プロフィール
大坪沙季(Saki Otsubo)
東京の大手料理教室で講師を5年程務め、
その後独立。妊娠出産を機に湘南へ移住し、
レシピ開発やフードコーディネーターとして活動。
2022年香港に移住。
某日系F&B Companyにメニュー開発者として所属。
趣味は料理、金継ぎ、ゴロゴロする事。
息子とヘルパーさんと3人で暮らしながら仕事をするワーキングマザー。
instagram https://www.instagram.com/_sakioo_
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