2025/04/26
ⒸHong Kong LEI
香港の歌謡曲はお好きですか? ラジオで聞いたり、お店でかかっていたりと、無意識のうちに聴いている方は多いと思いますが、作詞家の名前を気にしてみる方は少ないかもしれません。今回ご紹介する作詞家、シウ・ハック(小克)さんは昨年だけで40本近くの楽曲の作詞を手掛け、しかもそのほとんどがヒットチャートを飾っています。彼の歌を歌うのは「香港で一番影響力のある女性歌手」にも選出されたジョーイ・ヨン(容祖兒)さん、香港の広東語歌謡界の天王と呼ばれるヒンス・チャン(張敬軒)さん、そして香港を代表するボーイズバンドMirror、そしてそのメンバーなどなど、今の香港の音楽業界をリードするスターたちなのです。そんな人気作詞家の彼が、中国映画『鳳凰山下・詞』に出演。第49回香港国際映画祭(HKIFF)に出品されました。作詞家としてだけでなく、イラストレーターとしても活躍する多才な彼の映画との関係、そして歌詞に対する考えなどを伺いました。
小克さん作詞の代表作の一つ、ジャー・ラウ(柳應廷)『人類群星閃耀時』
シウ・ハックさんは作詞家、イラストレーターとして有名ですが、今回は『鳳凰山下・詞』映画に出演されていますね。
わたしは香港人ですが、今は中国の杭州に住んでいます。監督の祝新さんはここの出身で、広東ポップ(香港を中心に広東語で歌われる流行歌のこと)の大ファン。その世界に身を置くわたしが同じ街に住んでいることを知って、連絡をしてくれたんです。その後、意気投合し、飲みに行ったりするようになりました。
映画『鳳凰山下・詞』HKIFF49提供
彼は最初、1980年代の香港の広東ポップについてや、香港の作詞家についてのTVドラマを作る予定だったんです。でも、コロナが始まって、規制のため香港を含め、杭州の外での撮影ができなくなってしまった。そこで彼は宋の時代(960年 ~1279年)の詞「宋詞」についてのドキュメンタリーを作るアイデアを出したんです。それが、この映画です。
宋詞は、音、韻、文字数、声調の規制など、たくさんの制約があるんです。その規則が現代の広東ポップの作詞(填詞)と似ているんですね。宋詞と広東ポップスには深いつながりがあるとわたしは考えています。例えば宋の詞を広東語で音読すると、韻を踏んでいて、リズムがあって、スムーズに流れます。普通語だとそれが消えてしまい、詞として成立しないんです。映画の中でも検証しているので、ご覧いただけたら嬉しいです。
映画には杭州の美しい風景が映し出されます。この映画を観て、杭州に行ってみたいと感じる人も多いと思います。お勧めの場所はありますか?
映画の中心的な役を果たした西湖はやはり美しいので、是非訪れて欲しいです。天竺路という古い寺を巡るウォーキングもいいですね。山水画の中にいるような気分になります。また、Amanfayunという素晴らしいホテルがあります。杭州は古都ということもあり、京都に似た風情が感じられます。夏は暑すぎるという点も、京都と似ています。
映画『鳳凰山下・詞』HKIFF49提供
映画の世界はいかがでしたか?
実は大学を卒業してすぐにウォン・カーワイ(王家衛)監督と仕事をしたことがあるので、映画の仕事は初めてではありません。彼は当初、『2046』をSF映画にしようと考えていて、わたしはそのためのセットや服飾のデザインなど色々提案したんです。最終的には採用されなかったんですけどね(笑)。でも、撮影に同行していました。
彼の映画にちょい役で出演もしているんですよ。『花様年華』のワンシーンで、マギー・チャン(張 曼玉)が映画館でチケットを買うシーンで、彼女の前に並んでいるのがわたしです。今、ちょうど『花様年華』のディレクターズカットが上映中ですので、是非このシーンを探してみてください。
小克さん提供
大学卒業後、いきなりすごい経験をされたんですね。その後、作詞家、イラストレーター、そして映画と様々な分野で活躍される訳ですが、どのようにこの華々しいキャリアを築いたのですか?
プランは全くなかったです。小さい頃から絵を描くことが好きだったので、大学ではデザインを学びました。卒業制作として制作したアニメの短編映画がHKIFFで発表されて、ちょうどその頃、アニメ映画を作りたいという考えていたウォン・カーワイ監督の目に留まったという訳です。
作詞の方は……ある絵のコンペがきっかけでした。審査員の1人が歌手で女優のケイ・ツェ(謝安琪)で、サインをもらったので、お礼に自分の本を2冊彼女に贈呈したんです。そうしたら彼女のご主人である歌手・俳優のルイス・チョン(張繼聰)が面白いって評価してくれて。それを機に親しくなって、彼に歌詞を提供するようになり、その後他の歌手の楽曲にも作詞をするようになりました。
今回の映画も、監督がわたしを探してくれたことから始まりました。計画して今の境遇にいるわけではないというのが、お分かりいただけると思います。
映画『鳳凰山下・詞』HKIFF49提供
シウ・ハックさんが手掛ける詞は内容が哲学的、スピリチュアルなものが多いですよね。なぜそのように、ある意味難解な歌詞を提供するのですか?
自分自身がそういったものに興味があるからです。わたしはニューエイジの本やSFの本をたくさん読みますし、仏教徒でもあります。どの分野でもメッセージは全部同じで、世の中の全ての出来事はただ、LOVEなんだということです。長さ、高さ、幅は3次元ですが、4つ目の次元は「時間」で、さらに先がLOVE。時間というものが何かを正確に知っている人はいないけど、わたしたちは毎日時間を追いかけています。LOVEが何かを知らないけれど、わたしたちはいつも愛と憎しみの間をうろうろしています。ハグしたり、喧嘩したり……そんな事を考えています。
日本で最もよく知られている小克さんの作品はTHE FIRST TAKEで取り上げられた、ジャー・ラウ(柳應廷)さんの、『人類群星閃耀時』だと思われます。日本で次に大きく取り上げられる曲を選べたら、どの作品を選択しますか?
次があるなら、同じくジャー・ラウの『坐看雲起時』を紹介したいです。この曲のMVは、背景が京都に設定されており、伝統的な日本の美学である侘寂や物哀(もののあはれ)を強調しています。曲名は唐代の詩『終南別業』に由来していて、この詩の作者である王維は敬虔な仏教徒でもあります。
ジャー・ラウ『坐看雲起時』
映画『鳳凰山下・詞』は広東ポップスと宋時代の詞という意外とも思えるつながりを含め、知的な驚きを与えてくれる作品。広東ポップス、ウォン・カーワイ監督、宋の詩人、ニューエイジに仏教の教え…..。豊富な話題と深い洞察に引き込まれ、あっという間に時間がすぎてしまいました。今年は「まだ」10曲ほどしか作詞をしていないと語っていたシウ・ハックさん。彼はこれからも広東ポップスに深みと新たな大メンション(次元)を加えてくれそうです。応援したいですね!
取材・文 紅磡リンダ(編集部)
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