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2025/05/08

香港の老舗の歴史にまつわるお話を香港老舖記錄冊 Hong Kong Historical Shopsさんとのコラボでご紹介したいと思います。香港老舖記錄冊さんは、Facebookなどで香港の歴史的なお店を独自で取材して発信しています。香港文化の象徴として老舗の存在は欠かせない、老舗が存続していくことが香港の文化を盛り立てることだと言います。香港を愛するHong Kong LEI編集部のわたしたちもまた、昔から愛され続けている香港で誕生した商品が、どんな会社によって作られ、どんな背景で誕生したのか、また、どんなところで、どんなふうに作られていたのかなどを垣間見たくなりました。題して「香港オタクのための愛すべき香港老舗の歴史をたどる」です。でも長いのではしょりまして(笑)「香港老舗の歴史をたどる」と命名いたしました。どうぞよろしくお願い申し上げます。


今回ご紹介するのは、老舗茶餐廳「鴻運冰廳餅店」です。この店は、チャウ・シンチー(周星馳)主演の映画『ラッキー・ガイ(原題:行運一條龍)』やルイス・クー(古天樂)主演の『エレクション 死の報復(原題:黒社会 以和為貴)』のロケ地として有名ですが、2024年12月25日に閉店しました。今回の元記事は、閉店直前に書かれたものですが、その後、店は、運営を翠華集団が引き継ぎ、2025年4月18日に同じ場所でリニューアルオープンしています。


鴻運冰廳餅店 – 太子
創業:1970年代
業態:茶餐廳(香港式カフェ)
住所:太子上海街726号 G/F
文:Tiffany(大安茶冰廳)
写真:Joy

鴻運冰廳餅店はまもなく閉店します。通知によると、主な理由は賃貸契約の満了とのことですが、実際には急激な売上減少、経営者の高齢化、そして後継者不在といった複数の要因が背景にあります。現在は創業者である馬氏の長男と長女が店舗を切り盛りしています。長男は厨房を担当し、長女はホールとレジを兼任。2人は父親の創業当初から共に働いており、50年にわたり息の合った兄妹パートナーとして、一度も口論をしたことがありません。妹は早番、兄は夜番で店の締めを担当してきました。

50年近く営業を続けてきましたが、周囲の環境は大きく変わりました。1970年代の上海街は非常に賑やかで、まだ地下鉄は開通しておらず、店の前の道路は双方向通行でした。店舗の種類も今よりずっと多彩で、近くには有名な「劉揚記雲吞麺家」や「冠南華裙褂」などもありました。街にはカラフルな看板が立ち並び、鴻運もかつては緑を基調としたネオンサインを掲げていたそうですが、当時の写真が残っておらず、正確なデザインは不明です。

開業当初、太子エリアは工場が立ち並び、夜も多くの労働者が来店していたため、営業時間は朝6時半から夜11時までと長く、夜の客足にも困ることはありませんでした。しかし、香港の工業衰退とともに多くの工場が中国本土に移転し、人通りが減少。やむを得ず夜の営業をやめることになりました。現在は客足こそ減っていますが、それでも早番・遅番合わせて12人のスタッフが働いています。顧客の多くは常連で、観光客や一見客は少なく、馬氏(妹)はホールで働きながら頻繁にお客さんと会話を交わしています。中には小学生の頃から通っている常連もいます。

店内には、昔から変わらない細かなディテールがいくつか残っています。たとえば、ビニール袋に印刷されたバラのロゴや、伝統的なチェック式のテイクアウト用オーダーシートです。このシートには創業当初のメニューが一覧で載っており、電話注文が入ると該当項目に丸をつけるだけで済むという合理的な仕組みでした。このリストを現在のメニューと比べてみると、すでに提供を終了している飲食物も多数あることがわかります。ゼリー、ホットドッグ、牛肉茶、蓮子蛋、蓮子茶、鮑魚通(アワビ入りマカロニ)、鮑魚米などがその一例です。

実は、創業初期にはアイスクリームやバースデーケーキ(ブラックフォレスト(黑森林)ケーキや生クリームケーキなど)も販売していましたが、売れ行きが悪くなり、何年も前に提供を終了しています。ただし、メニューが減る一方で、新たな料理も加わっています。朝食セットや定食に加え、近年は炒め麺やご飯類など温かい料理も提供するようになりました。例としては、鹹魚雞粒炒飯、白汁焗海鮮飯、時菜肉片湯飯及豉油王炒麵などがあります。

多彩なメニューを支えているのが、厨房で働く3人の料理人たちです。彼らは調理とドリンク両方を担当しており、昔ながらの茶餐廳のスタッフは皆、非常に勤勉です。厨房の奥にはベーカリー部門があり、2人の職人が早番・遅番でパン作りを担っています。早番の趙氏は東莞出身で、すでに40年以上も鴻運で働いています。彼らは手作業でパンやチキンパイ、カップケーキなどを作り上げます。

鴻運のレトロな内装は多くの人の関心を集め、映画のロケ地としてもたびたび使用されました。たとえば映画『行運一條龍』の撮影も行われましたが、その後に火災に遭い、店内はリノベーションをして大きく変わりました。現在、閉店が迫っており、もし買い手が現れなければ、香港で中二階(閣樓)を持つ冰室(香港式カフェ)は、土瓜湾の「寶時」、長沙湾の「新華」、西営盤の「聯華」の3軒だけとなります。なお、美都餐室は冰室や茶餐廳ではなく、上階も中二階ではありません。クリスマス以降、誰かが店を引き継ぐという嬉しいニュースが届くかどうか、注目が集まります。(注:2024.12.23時点の内容です。)

 

※本文にある土瓜湾の「寶時」は、茶餐廳愛好家akiramujinaさんのLEIコラムでも取り上げられていますので、こちらもご覧ください。

茶餐廳愛好家akiramujinaの毎日が茶餐廳 第7回「中二階でもお茶したい~閣樓系茶餐廳~」 – 香港で暮らす編集者が送るカルチャー、イベント情報 HONG KONG LEI

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