2025/07/14
深圳からとは珍しいと思い、インスタでフォローしたギャラリーショップがありました。WeChatで詳しく見ていると、見覚えのある器の写真が。なんとそれはわたしが作ったお皿だったのです。
Lisaさんとの出会い
香港に来てすぐに陶芸スタジオを見つけたわたしは、翌年の2018年、そのスタジオ主催のクリスマスマーケットに出店しました。香港の陶芸界隈の人をはじめ、日本や各国からの作家も参加した、心に残る出会いの多いイベントでした。
その中で、一つ一つ器を手に取りじっくり見ていた女性が、わたしのお皿のセットを購入してくれました。名刺には深圳の「茶室・ギャラリー」とあり、オーナーのLisaさんでした。当時わたしはまだ本土へ行ったことがなく、深圳の土地勘もありませんでしたが、ぜひ近いうちに行ってみたいと思い、名刺を大切に残していました。(名刺の住所は今と違い、ギャラリー名もなかったのでインスタで気が付かなかったのです。)
その半年後、香港での社会情勢が急変し、そのままコロナ期を迎え、気がつけば7年近くが経っていました。様々な思いが巡る中、Lisaさんにメッセージを送ってみると、彼女も覚えていてくれて「ぜひ会いましょう、お茶を用意して待っています」と嬉しいお返事。早速ギャラリーを訪ねることにしました。
深圳では古い20年ほどのビルの中に / 気候が良ければ屋上のテーブルでお茶も
お茶は祖母との思い出
その引声艺廊(yinsheng gallery)の場所は、新しい街深圳では「古い」築20年以上のビルの最上階。手仕事の作品が並ぶ白を基調とした、屋上の緑と光が差し込む空間は、外に見える高層ビル群とは対照的な別世界。英語、広東語も堪能で、静かで柔らかい物腰のLisaさんが、優しい笑顔でお茶の用意とともに迎えてくれました。
幼少期に一緒に暮らしていたおばあさまがお茶が大好きで、よく一緒に飲んでいて、その温かい思い出があるから、お茶は特別なものなのというLisaさん。ギャラリーで扱うお茶は、台湾人の長年の友人農家が栽培する台湾烏龍茶。杉林渓、阿里山、貴妃、とある中、同じ凍頂烏龍の茶葉を「清香」と「重焙」という、発酵と焙煎の強度が異なる二種のお茶を頂きました。
無/軽焙煎、軽発酵の「清香」は、水色も淡く、フローラルで爽やかな香り。お茶本来の香りと味わいを楽しめる、フレッシュなうちに味わうのがこのタイプ。
焙煎、発酵ともに強めの「重焙」は、しっかりとしたボディがあり、ドライフルーツのような芳醇な香り、コクがある味わいです。伝統的な製法スタイルで、保存性が高く、熟成によって味わいに深みが増すのがこちらのタイプです。そんなお茶とともに、約7年ぶりの再会で改めてLisaさんのお話を聞いてみました。
この王さんの蓋碗、欲しかったな / 恵州の作家による紫砂壺
作品と心が繋がる瞬間が喜び
湖南出身のLisaさんは、夫の故郷が陶磁器の名産地、景徳鎮だったことがきっかけで、陶芸について調べているうちに、とても興味が湧き夢中になったのだそうです。それまでの日系企業での仕事を辞め、12年前にギャラリーを始めることにしたLisaさん。WeChatやSNSもない当時、一人で0からの情報収集はとても大変で、連絡も容易ではなく、また直接作家の工房に足を運ぶということは、珍しかったとか。特に香港の作家は、本土からそうしたコンタクトを受けることはほとんどなかったようで、とても驚かれたそうです。
景徳鎮の作家の蓋碗 / 杭州にある陶芸スタジオの薪窯作品など
展示、販売だけでなく、陶芸そのものの理解をより深めたいという思いから、同時に作陶もはじめたLisaさん。無煙薪窯を考案、普及した日下部正和氏が広東省を訪れた際に、手捻りを学び、さらに広島での国際薪窯ワークショップにも参加。益子の陶器市では、陶芸家の家に滞在して交流も深めているそうです。また香港と深圳の陶芸家に、ろくろの技術も学んだそうで、2年ほど彼女が通っていたという香港のスタジオには、わたしも数年通っていたのでまたびっくり。
バックオフィスの電器窯 / タイやヨーロッパからの作品も
「実験的なことが大好き、この化粧土は*磁州窯からなのよ」と自作で焼成待ちのお皿を見せてくれました。バックオフィスには電気窯とろくろがあり、作家による陶芸ワークショップも行われ、その作品もここで焼成されます。
*磁州窯=河北省磁県を中心につくられた製品の総称で、中国の華北で最大の窯場といわれる民窯、化粧土を使った掻落としは代表的技法
経済状況が厳しい昨今、ギャラリー運営は大変だけれど、自分の審美眼が磨かれ、作品と心が繋がる瞬間を感じる大きな喜びがあるというLisaさん。誠実に、作品に込められた物語を伝え、深い理解を育む場所としてありたいという彼女のギャラリーは、とてもフレンドリーでオープンな雰囲気で、ゆっくりお茶を楽しみながら作品を鑑賞できる、とても居心地の良い空間でした。
不思議な人との縁とお茶
7年という時を経て一緒にお茶を飲みながら、こんなお話ができる機会があるとは、 葉老師が詠んでくれた詩の通りのことでした。この日の記憶は、凍頂烏龍の香りです。
本土の若い作家2名による引声艺廊での7−8月の展示
引声艺廊:深圳市福田区八卦岭工业区515标栋610室
水―日13:30−18:30 要予約
インスタ:@yinshenggallery
Chikako
トロント、NY、シンガポール、今は香港に在住。
各地のライフスタイルや食文化にインスパイアされた器を製作してきた。
香港では中国茶器を楽しくコツコツ製作。
お茶のワークショップも不定期に活動中。
IG : cnycstudio
お茶のワークショップIG : sound_and_tea_room
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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