2023/03/13

中二階:中二階(ちゅうにかい)またはメザニン(mezzanine)は、建築物の主要な階層の中間にある床であり、通常は階数に数えない。中二階では天井が低く、バルコニーのような形状をしていることが多い(Wikipedia「中二階」の項より)。

 

近代的な高層ビルが立ち並ぶ香港ですが、香港島や九龍の古くからある街には、「唐樓」と呼ばれるエレベーター無し、階段だけの建物がまだたくさん残っています。こうした建物によくあるのが「閣樓」。ロフトとも、中二階とも言える閣樓は、天井がちょっと低く、大抵一階にあるお店やオフィスとセットで使われています。中には閣樓を取っ払って、高い天井を生かして倉庫や車の修理スペースにしていることも。

茶餐廳もまた、唐樓に店を構えていることが多い業種です。特に歴史ある、昔からある茶餐廳でその傾向は強く、よく言えば味のある、悪く言うとちょっとボロい建物と庶民的な茶餐廳との相性はバッチリ。そして閣樓、中二階に座席を設けている茶餐廳は、その空間が醸し出す雰囲気とゆったりした時間の流れとが素晴らしく、わたしのお気に入りでもあります。どの店も「閣樓雅座」という表示を出して、お客さんを中二階にいざなっているのも、絵になる茶餐廳の光景と言えましょう。

閣樓のある茶餐廳(わたしは勝手に「閣樓系茶餐廳」と呼んでいます)で有名だったのが、旺角・廣東道にあった「中國冰室」。映画や雑誌でも取り上げられたここの閣樓からの眺めは、ドアを開けて入ってくる人、店員さん、そして店内にいるお客さんとの間でいつドラマが始まってもおかしくない抜群な光景でした。床に敷かれた豆タイルと、目線の下にあるシーリングファン、さらにショーケースの上に置かれた雑多な食器たちまで、目に映る全てが絵になるレジェンダリーなこの眺めは、2020年の中國冰室閉店で過去のものとなってしまいました。

中國冰室以外にも、昨年秋に閉店した堅尼地城の「祥香茶餐廳」のように少しずつその数を減らしている閣樓系茶餐廳ですが、まだまだ現役のお店もたくさんあります。最近駅ができて行きやすくなった土瓜灣にある「寶時茶餐廳」は、茶餐廳愛好家のわたしも驚く広々とした閣樓のスペースが魅力的。

ここは吹き抜けにはなっていないのですが、窓際まで広がる閣樓の座席からは街ゆく人を眺めつつ奶茶を啜ることができるし、何より今は使われていない閣樓の収銀台(会計をする番台)がいい! いつかマークシックス(数億円も夢じゃない香港のロトくじ)が当たったらこの店を買い取って、朝から晩まで日がなこの収銀台に座ってお客さんの動きに目を光らせていたい、そんな夢をわたしに見させてくれる閣樓系茶餐廳です。

九龍から閣樓系茶餐廳をもうひとつ。旺角・上海街にある「鴻運餅店冰廳」も閣樓からの眺めが素晴らしい茶餐廳です。クッキー生地のエッグタルトが美味しいこのお店は、赤や茶色、オレンジの彩り豊かな昭和チックな雰囲気の店内がとても素敵。常に使われているわけではないようのですが、おじさまたちの楽園となっている一階席が混んでいる時に限って、閣樓が開放されています。

少し狭い閣樓の座席中央付近に腰掛けると、低い天井と床との間に詰め込まれたおじさま達が繰り広げる絵になる世界が目前に迫ってきます。ただサンドイッチを食べているだけなのに、なぜか鬼気迫るものを感じられるこの座席、閣樓系茶餐廳の醍醐味です。

そして鴻運の吹き抜けに面した席に陣取った者だけが目にすることができる眺めは、まさに壮観。

シャンデリア風の照明が吊り下がっているかと思えば、なぜか道教の神様たちが階段を見つめている謎が気になる独特のセンスは、ビシッとキマった今風のおしゃれなカフェには到底真似できません。店員さんがタルトやケーキが並んだショーケースをひっきりなしに開け閉めしたり、忙しなくお会計しているのを上から拝見するこの眺めは、ビクトリアピークからの百万ドルの夜景に勝るとも劣らない、茶餐廳四十ドルの絶景!美味しいミルクティーとともに眺めまで付いてくるだなんて、茶餐廳って素晴らしいと思いませんか?

階段を登るだけで何かが始まりそうな気分になれる、そしてただ座っているだけで、なんだか劇場の特等席からドタバタ劇を鑑賞しているかのような気持ちにさせてくれる「閣樓雅座」。食事に、お茶に、ドラマチックな店内鑑賞に。「閣樓雅座」を楽しむために、中二階のある茶餐廳へ行ってみませんか?


akiramujina

九龍を拠点に「茶餐廳愛好家」を勝手に名乗り、ほぼ毎日茶餐廳や冰室に足を運んでいる在港日本人。
趣味は旅行と茶餐廳めぐり。コロナ禍で旅行ができない今は年100店以上の茶餐廳訪問と、年300杯以上の港式奶茶を目標にしています。
どこへでも行くフットワークの軽さが自慢ですが、どこへでも食べてばかりいるせいで自身の重さが悩み。
TwitterとInstagramでも食べ物の話ばかりしています。

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