2025/08/14
香港には、かつてお茶が栽培されていた歴史があり、そしてその再興に取り組む人たちがいます。その活動をぜひ知りたいと思い、彼らが主催するお茶会に参加してきました。
鳳凰山の茶樹 / 觀音山の茶樹(HKTPIウェブサイトより)
香港四大名茶と「蓮花嘜雲霧茶」
香港の茶栽培の歴史は、宋時代にまで遡ります。戦乱を逃れて南下した移住者が茶樹を植えはじめ、杭州のお茶文化も伝わり、山間部での栽培が広がりました。明〜清代には、杯渡山や鳳凰山などで栽培された「香港四大名茶」と称される、香り高い、薬効があるとされたお茶も誕生しました。
イギリス領香港の成立(1842年)以降、急速な農地の都市開発、貿易産業都市に伴う経済構造の変化、輸入茶の台頭などにより、商業的に不利となった茶栽培は急速に衰退していきました。
1948年、弱者支援に熱心だったイギリス人の政治家 Bernacchi 氏が、ランタオ島に「昂坪茶園」を創設しました。台湾から茶職人を招聘し、烏龍、紅茶、緑茶などは、「蓮花嘜雲霧茶」ブランドとして展開され、アメリカやインドへも輸出されました。雇用創出や市民の自立支援、インフラ整備にも貢献したこの茶園は、その後観光地化と売却縮小を経て、氏の逝去後は職人の高齢化や後継者不足などもあり衰退・荒廃していきました。
こうして、香港でお茶が育てられていたことは、人々の記憶から忘れられていきました。
嘉道理農場暨植物園(Kadoorie Farm & Botanic Garden)と茶樹再興プロジェクト
嘉道理農場は、1959年、新界・大帽山エリアに、主に客家農民の自立支援団体としてKadoorie一族が設立しました。現在はNPO法人として、自然保護と環境教育の推進拠点となっています。1997年より茶の植樹が開始され、土壌や水の保全を目的に、今では約2000本の茶樹が植えられています。2007年ごろに初めての収穫が実現したそうですが、製茶の技術者不足などにより、最初の緑茶は苦味が強く、試行錯誤が続きました。
お茶会があったGreen Hub / ベジタリアンカフェもあります
香港茶葉研製所(HKTPI)のお茶会「香港茶譜」
嘉道理農場での製茶や「蓮花嘜雲霧茶」の研究プロジェクトに香港中文大学も参加するようになり、 さらに香港茶葉研製所(HKTPI)もその活動に加わりました。
HKTPIは、2017年に、茶藝、企画、製茶、研究という専門性を持つ3人の若い茶人、Season(李天安)さん、Maggie(李姸)さん、陳梓霆さんにより「香港茶は今も生きている文化」という信念のもと、設立されました。
今回のお茶は全て紅茶 / HKPTI創設者のMaggieさんとSeasonさん
茶会があったのは、大浦にある綠匯學苑(Green Hub)。歴史的建築「旧大埔警察署」を活用した、環境教育と持続可能な暮らしを推進する施設で、嘉道理農場の管轄下にあります。
そんな自然を近くに感じる施設の一室で、日本語が流暢なメンバーが、日本語の資料や通訳まで準備して、みなさんで温かく歓迎してくれました。香港で日本の文化に興味のある人は、日本語までマスターしてしまう人が多く、いつもその努力と探究心に感心してしまいます。
それぞれの茶樹のお茶をいただきました
この日用意されたのは、香港の5つのエリアの茶樹からの紅茶6種。嘉道理農場や昂坪茶園の他に見つかった茶樹は、客家村やその廃村跡にありました。客家人は農業に従事していた人が多く、自家用にも茶木を植えていました。廃村になったあと、そのまま野生化したものもあります。
HKTPIのメンバーたちは客家の人たちと活動を通して出会い、交流を深め、一緒にプロジェクトを進めてきました。そんなそれぞれのお茶が持つエピソードを聞きながら、その香り、味を楽しみました。少し薬草のような、人参の香り、フルーティーなもの、野生的なもの、それぞれ個性があり、どれもおいしい紅茶でした。同席していたプーアール茶の老師の、それぞれの味わいの違いや、参加者の方が、和紅茶のべにふうきと似ている、という感想に納得したり、レクチャー、テイスティングともにとても興味深く、学びが大きいものでした。
HKPTI編著 「香港茶的故事(香港のお茶の話)」 / 製茶の様子
埋もれていた香港のお茶の歴史と文化を丁寧に掘り起こしながら、彼らは新たなアプローチで、香港の土地と人々を再び結びつける活動をしています。今後も白茶、緑茶、客家の擂茶を体験できるイベントや、国内外の人にも気軽に参加できるツアーなどを企画しているそうです。お茶の歴史、文化、そしてそれを伝えようとしている彼らの活動を、わたしもぜひたくさんの人に知ってもらいたいと思いました。
*現時点では、この香港のお茶は、まだ販売されていませんが、嘉道理農場では緑茶が飲めるそうです。
〈「茶聚客家味」ー客家のお茶と文化に触れるイベントがあります〉
9/28(日)15:00-17:00
香港客家会館(彌敦道568A僑建大廈10F)
客家釜炒り緑茶三種試飲&客家のスナック
その他、詳細情報はInstagramでご確認ください。
Chikako
トロント、NY、シンガポール、今は香港に在住。
各地のライフスタイルや食文化にインスパイアされた器を製作してきた。
香港では中国茶器を楽しくコツコツ製作。
お茶のワークショップも不定期に活動中。
IG : cnycstudio
お茶のワークショップIG : sound_and_tea_room
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