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2025/12/14

香港茶葉研製所創設者の一人、Season(李天安)さんを初めて知ったのは、彼が特集された香港電台のドキュメンタリーを見た時で、ストイックに茶人としての人生を模索している姿が印象的でした。それから何年も経ち、南丫島の彼の家を訪ねたお話です。 

緑豊かなコミュニティ  /  窓からの眺め 

お茶室のあるお家へ 

南丫島の埠頭まで迎えに来てくれたSeasonさんと、彼は初対面の茶友を含む四人で朝飲茶。Seasonさんの人柄で、最初からとてもリラックスして会話も弾みました。食後、歩いて彼の家へ向かいました。多くの観光客が向かうビーチ方面とは違い、静かで緑豊かな海沿いの道のりは、すでに彼の世界が始まっているようです。そうして到着した彼の家の前は海の絶景! 聞こえるのは鳥の声に波の音。朝のセントラルの雑踏とは別世界です。 

お邪魔したモダンな作りの部屋には、お茶、茶器、お酒、小物から大物まで、個性的なものが並んでいます。その一つ一つにストーリーがあり、Seasonさんが人との出会いや繋がりを大切にしている人柄が伺えます。 

茶室の掛け軸は友人の書  /  大阪の人からの骨董の茶釜 

日本の茶道も嗜むSeasonさんは、自宅に茶室を設えているということで、見せてもらうのを楽しみにしていました。寝室にあたる部屋に特注した台湾製の井草の畳を敷き、作り付けの棚を床の間に見立て、お茶室になっていました。その茶室は寝室でもあり、夜はそこで休んでいるそうです。 

出会いは東京・合羽橋道具街 

そんな寝ても覚めても茶人のSeasonさんが、「これがわたしの“初心(原点)”です」と愛おしそうに御物袋から取り出したのは、白と黒の急須。彼のお茶人生は、この急須から始まりました。 

始まりの白黒の急須 / Seasonさん作の茶壷 

2012年、アートディレクターとして多忙な日々を過ごしていた彼は、東京旅行の際に合羽橋道具屋街で、この急須に目がとまり、購入しました。当時、彼はお茶に全く関心がなく、嗜むのはお酒とコーヒーでした。その急須も、黒は自宅、白は職場に観賞用として置かれました。仕事の合間に、その急須をじっと眺めていると心が落ち着き、無心になれたといいます。 

そしてある日、ふとその急須でお茶を淹れてみようと思い立ち、煎茶を淹れてみると、全くおいしくありませんでした。その日からSeasonさんのお茶への探究心に火がついたのか、職場で毎日15分、お茶をおいしく淹れる試行錯誤を続けたそうです。 

そんなおいしいお茶を求める日々の中、ある衝撃を受けるおいしさの台湾烏龍茶との出会いを経て、約一年後にはすっかりお茶に魅了されていました。 

体全体でお茶を感じてリラックスしてほしい 

茶芸師、茶療師、評茶師など幾つも資格や肩書きを持ち、2014年から茶館、茶荘だけでなく、寺院、企業、コミュニティセンターなど多様な場で、茶藝や企画、茶人としての活動を展開してきたSeasonさん。コーヒー、お酒とのペアリング、ミュージシャン、ダンサー、マルチメディアとのコラボなど、そのスタイルは幅広く自由です。 

特にお茶が持つ心を癒す力に注目し、2017年からは「人在草木」の名義で「靜觀茶修(マインドフルネス・ティー)」を広める活動を続けています 

お茶の名は尺八の名曲から 

茶人になる以前、音楽イベントの企画やパンクバンドで演奏もしていたSeasonさんですが、今は尺八を吹いているとのこと20年ほど前日本映画の中で魅かれた音色が尺八だったそうで、尺八はわたしの呼吸法の先生でもあるんだよねと吹いてくれました。 

最高ですね / 尺八は80年前のものだそう 

また、定期的に茶の産地や農園を訪ね、お茶農家さんと一緒にお茶の開発にも取り組んでいます焙煎の監修をした台湾烏龍茶は、甘さの戻りと後味が重なり、余韻が長く続きます。その響き合う味わいが、二管の掛け合いで、晩秋の山奥に反響する鹿の鳴き声を表現した尺八の名曲「鹿の遠音」のようだと、「遠音」と名付けたそうです。 

手がけた他のお茶も台湾烏龍「忘憂」雲南生普「雲起」、雲南紅茶「日曜」と、どんな味わいなのか気になる、詩的な名付けです。 

余韻に浸る帰路 

いろいろなお茶に加え、手作りの梅酒までいただき、会話は尽きませんが、また歩いて島の埠頭近くへ戻り、スパニッシュで夕食も一緒にすることに。 

手作りの梅酒もいただきました /  南丫の丫の形の木だ 

帰りのフェリーの中で届いた「まだ一杯飲んでるよ」という写真付きのメッセージを見ながら、Seasonさんの引力のある人柄や、彼のお茶や毎日の生活への向き合い方が心を巡り、友人との楽しい時間を過ごせた温かな気持ちが満ちてきました。それはあの「遠音」の余韻のようでした。 

 SeasonさんのIG:人在草木


Chikako

トロント、NY、シンガポール、今は香港に在住。
各地のライフスタイルや食文化にインスパイアされた器を製作してきた。
香港では中国茶器を楽しくコツコツ製作。

筆者IG : cnycstudio
お茶活IG : sound_and_tea_room

 

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