2026/03/08
香港中醫醫院の外観 ©︎Hong Kong LEI
香港東部新界地区に位置する将軍澳に2025年12月、新たにオープンした香港中醫醫院。香港ID保持者は政府の公立病院として恩恵を受けられるだけでなく、病院は一般市場価格で迅速に診てもらえるプライベートクリニックとしての機能も持ち、また、中医学の国際的な認知を目指して、香港初の西洋医学との連携をとりながらの診察や治療も可能とのこと。中医学と西洋医学の良いところを合わせた視野の広い医療を受けられる中医総合病院です。
漢方や鍼治療、お灸などは日本人にとっては比較的馴染みがあるものの、香港で街クリニックでの中医師とは、広東語のコミュニケーションとなるところが多く、厚い言葉の壁に頭を悩ませる人も多いはず。そんな人にとっては、国際的な発展を視野に入れた香港中醫醫院は、英語で診察が受けられる中医病院として外国人でも受診しやすそうです。また、中医に馴染みのない外国人にとっても、西洋医学との包括的治療スタイルの元、受診してみようと感じる人も多いのではないでしょうか。
病院から見た外の景色。目の前のガラス張りの大きなビルは、香港の撮影スタジアム、Shaw Film Stadio。奥がロハスパーク(日出康城)のビル群。©︎Hong Kong LEI
この度、2025年12月に、正式にスタートした香港中醫醫院を見学させてもらいましたのでご紹介しましょう。
敷地総面積は42,900平方メートル。東京ドームの面積の約91.5%にも相当する広さです。現在は全てがオープンしているわけではなく、今後徐々に診療内容やサービスを広げていくそう。
香港中醫醫院は、現在開発地域の百勝角のエリアに位置します。MTRは通っていないので、タクシーかバスでの移動がおすすめです。でも将軍澳駅から徒歩で20〜30分程度なので歩けない距離ではありません。将軍澳駅から定期的に運行している緑色のミニバス116Hを利用すると、5分程で、緑豊かな目的地に到着します。ブラウンカラーを基調とした落ち着いた雰囲気の巨大なビルは、大通りからはちょっと奥まった場所にあるので、その全貌は見えません。
将軍澳駅発着のサーキュレーションバスは玄関口に停留場があるので便利。©︎Hong Kong LEI
香港中醫醫院では、純粋な中医学のサービスや、中医学を中心的役割は果たすサービス、そして統合中西医療サービスが受けられます。これらは急性および慢性疾患、複雑な疾患、療養、リハビリテーション、緩和ケア、健康維持、予防医療などの病気カテゴリーをカバーするそう。最初の1年間は外来患者、日帰り患者、臨床サポートサービスが提供され、2年目以降は入院サービスが開始されます。現在のスタッフ数の270名から、2028年までには可能な限り1,000名まで増員する計画だそうです。これにより、2030年末までに、病院は400床を稼働させ、年間40万件の外来診療が受け入れ可能になることを計画しているそうです。
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中医学の専門分野は現時点では6つあり、内部医学、外部医学、婦人科、小児科、整形外科・創傷治療、鍼灸があります。将来的には医療ニーズ、中医学の利点、そして人材状況を判断しながら、他の機関とも相互的な協力関係を築きながら、合計23の特別疾患プログラムが開発されるそうです。
香港中醫醫院では、急救および緊急医療、集中治療、出産(分娩)全身麻酔下の外科手術には対応していませんので、全患者は、事前予約でのみの受付となります。
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さて、建物の中に入ってみると、オープンしたばかりとあって、とても綺麗で広々としています。ロビーのフロアーに描かれた黒い線は、世界第3位の河川で全長6300kmの肥沃な土地を作る「母なる川」長江。中国の漢方の長い歴史をも表しているそうです。病院の特徴として、自然の恩恵を受ける中医学だからでしょうか、館内は有機質な温もりを感じ、あちこちにまるで博物館のように中医学にまつわるアートが設置されています。
病院を訪れる全ての患者はまず一旦は全科問診(一般クリニック)かプライベートクリニックにチェックインしますが、全て完全予約制なので、電話かアプリ、もしくは予約受付窓口で事前予約をしておかないといけません。予約なく訪れても診てもらえない可能性が大きいので注意しましょう。予約や支払いなどにはアプリを入れておくと便利でしょう。2026年3月7日現在、ただ今公開になっている政府助成サービスを受ける場合の予約可能な日程は、全ていっぱいです。今後予約可能な日が公開になるのを待つ必要がありますが、現在のところ、受付開始日が定かでなく、またすぐに定員が満席になってしまい、予約を取るのは至難の業です。今後この辺りが改善されるのを期待しましょう。中医治療に関しては、完治するまでに時間を要する場合が多いため、政府助成サービス内で治療が受けられるとファイナンシャル的に助かる人も多いはずです。しかし、もしどうしても待てない(緊急を要する)場合は、併設されているプライベートクリニックで正規の金額を払って診察をしてもらう選択肢もあります。金額についてはこちらを参照してください。アプリのダウンロードはこちら。
さて、予約が取れた場合の手順をご説明しましょう。
病院に診察に来た患者がたどる順序を説明した図。©︎Hong Kong LEI
到着したら自動支払いKioskにて先に支払いを済ませます。精算方法は、精算所、またはアプリ上でも支払えます。
カードで支払う自動支払機 ©︎Hong Kong LEI
全科問診(一般クリニック)の入口 ©︎Hong Kong LEI
予約日時に訪れた患者全てはまずは全科問診(一般クリニック)またはプライベートクリニックにてチェックインします。ここでの診断によっては、専門的な治療、もしくはリハビリ、薬の処方などがされます。追加の費用が発生する場合もあります。
待合室、子ども用のプレイエリアも完備されています。©︎Hong Kong LEI
中医による脈診の様子©︎香港中醫醫院
中医による問診や橈骨動脈(とうこつどうみゃく)に手を当てる「脈診(みゃくしん)」を受け、体調を診られます。「脈診(みゃくしん)」とは、手首に指3本を当てて脈の状態を確認し、その時の体調を見立てる診断法。これは中医学の基本の診断法である「四診(ししん)」の1つに含まれ、左右の手首にある橈骨動脈(とうこつどうみゃく)の、拍動の速さ、強さ、質、リズムなどを感じ取る方法です。「四診(ししん)」は「望診(視覚)」「聞診(聴覚・嗅覚)」「問診(対話)」と「切診(触覚)」があり、脈診は切診の一部です。
診察室。簡単な処置はここでも治療可能です。体が冷めないように温めながら鍼などを施術できます。©︎Hong Kong LEI
一般クリニックの後、時間がかかる治療が必要な人は、5階のデイケアの病棟に送られます。(現在は入院患者は取っていません。)
広東語と英語の表記で記された案内板。©︎Hong Kong LEI
2026年2月現在6階と7階はまだ使われておらず、今後整い次第、順次オープンしていくそうです。病院内の表記はほぼ全て中英の2ヶ国語で、外国人もウェルカムなのが伺えます。
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デイケアの患者が一旦落ち着く場所がベットが備わった病室。写真は大部屋です。ここは香港かと思えるほどの明るく、素晴らしく見晴らしの良い病室で、心さえも癒されそう。病室の床も木目調で、オーガニックな温もりを感じます。
ここでゆっくりひと時を過ごしながら、時間をかけて治療を受けます。例えば、生薬を使った温める治療法があります。少しご紹介しましょう。
使う生薬は、患者に合った処方でブレンドされます。©︎Hong Kong LEI
中薬浸泡機(写真上段)は症状によりブレンドした生薬のジャクジ風なお風呂です。経路の滞り、気血の調和、解毒、皮膚の痒みや湿気、腫れや痛みなどに対応できるそうです。中薬薫蒸機(写真下段)はブレンドした生薬を茹で、密封された機器の中に入り、蒸気で体を蒸します。首、肩、腰、関節などの痛み、筋肉痛や胃腸痛、体の不調がある場合に使うそうです。
香港の人は日常生活で当たり前のように生薬を使ったスープを作ったり、体調不良の時は、体を冷やす食材は摂らないようにしたり、咳が出ないように特定の食材を食べないようにするなど、家庭レベルでの中医的な食の知識が培われています。そんな基礎的な知識がどこから来るのか、どんなものなのか館内を散策すると伺えるものがありました。
館内は、中医学に関する歴史や考え方などを楽しく学ぶことができるように、中医関連のアートワークが至る所にあります。こちら5階の廊下にも骨董品やアートピースが展示されています。
廊下にずらっと並んだ骨董品や中医関連のアートピース©︎Hong Kong LEI
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薬草をすりつぶした龍型のすり鉢。かつて使われていたすり鉢や、中医学を学ぶ様子を表しだ銅像や、健康に良いとされる太極拳の型を見せてくれる陶製の人形など、他にも中医学にまつわる道具がたくさん展示されていました。
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中医学に関わる者へ心得を記したもの。「功夫(カンフー」とは、単なる武術ではなく、時間と努力をかけて積み上げた心身の修練、あるいはその熟練した「技術・能力」そのものを指します。一般に、気功や太極拳、中医整体においては、気血を整え自然治癒力を高めるための「内なる力(気)」を養う重要な技法と位置づけられてるそうです。香港の公園の朝は、太極拳や気功の練習をするたくさんの人で賑わっています。そういったところも日常に中医学的考えが根付いている証。
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歴史的文献に登場する中医の賢者たちの肖像画も。
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中医の考え方を学ぶのは楽しそうと思わせてくれるインスタレーションです。右下に描かれた「四気五味(しきごみ)」とは、中医学の根幹である「薬食同源」に基づき、食材や生薬の特性を「寒・涼・温・熱」の4つの性質(四気)と、「酸・苦・甘・辛・鹹」の5つの味(五味)で分類したものです。体質や季節に合わせた食材を選ぶことで、体の熱を鎮めたり、温めたりして健康を維持・改善する食事療法の基本です。この考えが香港ママが作る健康スープの元になっていそうです。
また中央に見える陰陽のマーク。ご存知の方も多いと思いますが、中医(中医学)における陰陽(いんよう)の理論は、万物を「静・冷・内・下・暗」の陰と、「動・熱・外・上・明」の陽に分類し、そのバランスが健康を維持するというのが根本的な考えです。身体や自然界の偏りを調和させ、病気のないバランスの取れた「中庸(ちゅうよう)」の状態を目指のが、中医学の基礎的な診断・治療指針なんだそうです。どうです?もっと知りたくなりませんか?
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各階にちょっとしたオアシスも。ここは病院ということをふと忘れてしまいそうです。
記事後編は、リハビリセンターや薬局(西洋医薬、中医薬)、病院へのアクセス情報などをご紹介します。
中医が身近に。西洋医学と連携した新設「香港中醫醫院」(後編)へ
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