2025/02/20
「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港で輝いている人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。
香港はパラダイス! 溢れる想いを刺しゅうで表現
聞き手:大西望
編集:深川美保
〈目次〉
〈見た瞬間、気持ちが明るくなる刺しゅう作品〉
〈創作意欲をかき立てられる香港との出逢い〉
〈香港愛が香港に届いた〉
〈竹岡さんに3つの質問〉
〈見た瞬間、気持ちが明るくなる刺しゅう作品〉
竹岡かつみさんは、刺しゅうで香港をテーマにした作品を制作する刺しゅうクリエイターだ。文化刺しゅうやパンチニードルなど、専用の針で糸を布に刺していく手法で制作している。「香港はパラダイス」という竹岡さんの想いが溢れている作品は、ポップでビビッド。菠蘿包や赤いタクシー、「押」のネオン看板などが、もこもこの糸で立体的に作られていて見た瞬間に「かわいい!」と目が釘付けになる。気持ちが一気に明るくなる刺しゅう作品だ。見る人の心を鷲掴みにする細部へのこだわりと遊び心たっぷりの香港モチーフで、香港迷ならずともファンは多い。
「個展に来てくださった方が作品を見て、『わー!』って声を出して喜んでくれたり、『元気をもらいました』と言ってくださったりするのがすごく嬉しいです」と声を弾ませて語る竹岡さん。
2023年には香港の国際的アートフェア「アートセントラル」で香港政府観光局が設置した「アーツ in 香港 カフェ」の招待作家に選ばれ、香港の老舗陶磁器工房「粤東磁廠」とのコラボ作品「躍動香港メリーゴーランド」を出展。念願だった香港での作品発表が実現した。
竹岡さんと粤東磁廠とのコラボ作品「躍動香港メリーゴーランド」(画像提供:香港政府観光局)
出身地の大阪を中心に、コンスタントに個展や出展をする作家活動は25年以上にも及ぶが、8年前まで、新卒で入社した会社の企業内デザイナーでもあったという。長年に渡る会社員生活と作家活動の両立は、理解ある会社と夫の全面的なサポートのおかげだと竹岡さんは言うが、ご本人のバイタリティと創作への情熱がなければ成し得ないことだ。
〈創作意欲をかき立てられる香港との出逢い〉
大学でグラフィックアートを学んだ後、就職した企業はベビー寝具メーカー。竹岡さんはタオルケットやふとんなどにプリントするキャラクターの制作や総合的なデザインを担当した。会社から求められる、売れるデザイン――誰が見てもかわいく、数年先を見据えた新しさがあるものを提案し、他の部署との段取りや納期を考えながら、確実に売れる商品を世に送り出す仕事だ。
「会社では、眉間に皺をよせてものを作ってはいけない、楽しいわと思いながらやればそれが伝わるという、もの作りにおいて大切なことを学びました。売れないといけないというプレッシャーは大変でしたが、会社勤めあってこその今だと思います」
デザイナーの仕事に励みながらも、新たな挑戦として自分の‶好き″を思い切り表現したいと作家活動を始めた。会社ではデジタルで作業をしていたが、作家としてはひと針ひと針糸を布に刺していくアナログな手法を選んだ。小学生の頃に母親の影響で文化刺しゅうをしたことがあり、刺しゅうを用いて絵を描くように表現すると面白いのではないかと考えたという。
作家活動の初期は「不思議の国のアリス」など、メルヘンチックなモチーフが多かったが、2004年頃から香港をテーマに制作することが増え、作品世界も変わっていった。
糸を通したニードルを布に刺していく
竹岡さんの初来港は1999年。人に誘われた香港旅行で、食べ物のおいしさと地面から突き上げるようなエネルギーが印象的だったという。そして、二回目の香港旅行でその後の作家活動を示唆するような瞬間が訪れた。
「今でも鮮明に覚えています。尖沙咀駅から彌敦道に出た瞬間、信号のテケテケ音が聞こえて、たくさんの人が横断歩道を渡っていて、空気がもわっとして。その匂いを嗅いだ瞬間に『うわー! 香港好き!』って思ったんです。それから香港が大好きになりました」
香港の街中はまるでテーマパークのようだと語る竹岡さん。トラムやフェリーに乗って楽しみ、主張が強い店の看板や商品パッケージ、香港グルメなどから創作意欲をかき立てられる。行く時はウキウキして、帰る時には「また来たいな」と思える香港。いつも新鮮な気持ちと視点を持てる「旅行で行く香港」を大事にしながら、香港で感じたものを作品に詰め込むようになった。
作品を携えて来港し撮影を楽しむ
〈香港愛が香港に届いた〉
いつでも行けると思っていた香港が、コロナ規制の最中には突然遠い存在になった。その時に竹岡さんの中である気づきがあったという。
「今わたしがこれだけ香港が好きって想いを込めて制作しているのはコロナの期間があったからだと思います。香港に無性に行きたくなって。香港に対する自分の想いの深さを知りました」
ちょうどその頃に、ラグやカーペットなどの制作技法であるタフティングを習得。1つの作品の中でパンチニードルとタフティングを組み合わせて制作するという独自の方法を追求し始めた。タフティングのおかげでサイズの大きな作品を作れるようになり、竹岡さんの揺るぎない香港愛はよりダイナミックでインパクトある形で表現された。
作品の細かい部分はパンチニードル、面積の広い部分はタフティングで制作。竹岡さんが持っているのは全長約2m近い巨大ロブスター。
この頃から、先述したように招待作家として香港に呼ばれたり、香港の刺しゅうメーカーから竹岡さんの作品をグッズ生産したいというオファーがあったりと、香港側からラブコールが来るようになった。中でも感動的だったと言うのが、2024年の「アーツ in 香港」広告のアートワーク。竹岡さんが作ったライオンダンスの獅子やパンダの画像が、香港国際空港の巨大スクリーン、ヒルサイドエスカレーター、スターフェリー内など香港各所で見ることができたのだ。「自分の作品が香港の街に溶け込んでいたのがとても嬉しかった」と振り返る竹岡さん。
竹岡さんも参加した「アーツ in 香港」アートワーク。香港国際空港の巨大スクリーンに映された。
今後の一番の目標は、やはり香港で作品展をすること。
「日本の方が作品展を見るために香港に来てくれたらいいなと思います。実際に香港に来て、香港のことをもっと知ってほしいし、香港の方にも作品を見ていただきたい。これからもブレずに‶香港″を作り続けると思います」
竹岡さんの香港愛は必ず香港が受け止めてくれるだろう。
〈竹岡さんに3つの質問〉
Q1 制作時の一番楽しい作業は何ですか?
最初に完成品を頭でイメージしてから計画的に作るのですが、出来上がったものに、香港の深水埗で買い集めたリボンやボタン、アップリケなど、「こんなの付けたら楽しいよな」と思う小さなパーツを置いてみるんです。そうしたら自分が想像した以上に面白くなる瞬間があって、それがすっごく楽しいです。香港には面白いカケラがいっぱいあるので、何に使うか決まってなくても買っちゃいます。そういうパーツを集めた箱が家にあって、それがわたしの宝箱です。竹岡さんの宝箱。「ただただ大好きで集めたものばかりです。すぐ使うものや眺めて楽しむかわいい子も。作品の仕上がりに魔法をかけてくれる愛しいパーツ達です」と竹岡さん。
Q2 趣味はなんですか?
仕事とはまったく違うことをしようと思ってフラダンスを始めました。チームで合わせて踊る群舞は、作品を制作している時と違う脳を使っていると感じますね。フラダンスで出会った方々とは、普段と違ったお話ができるので楽しいし勉強になります。今は少し休んでますが、ジムにも長く通っています。
Q3 好きなことを本職にするために大事なことは何ですか?
例えばわたしの場合、デザイナーも好きな仕事でしたが、自分を表現するのとは違いますよね。でも、就職したら会社の仕事で手一杯になり、やりたいことに時間が割けない。初めは会社について行くために仕事に集中するのは必要です。だからといってその生活のままだと、いざ「あなたの好きなことを表現してみてください」って言われた時にできないんですよ。好きなことがあり、それができるチャンスがあったなら、いつでもスタートしたらいいと思います。その方が長い人生、ハッピーですもんね。
※2025年1月から竹岡かつみさんのコラム「刺しゅうで絵描(えが)くHong Kong Lover」がスタートしました。毎月25日公開です。こちらもお楽しみください!
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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