2026/08/20

聞き手:小林杏
編集:野津山美久
〈目次〉
<ファッションモデルからアートの世界へ>
<日本、フランスの文化をインターナショナルに>
<黄竹坑のコミュニティを盛り上げていきたい>
<ウィリアムさんに3つの質問>
<ファッションモデルからアートの世界へ>
今年3月、オープンして3年目のWKMギャラリーに大勢の人が集まった。ドキュメンタリー写真集『九龍城探訪 完全版』などで有名なカナダ人写真家、グレッグ・ジラード氏の展示会『HKG – TYO 1974 – 2023』が催され、本人のトークイベントも開かれたのだ。
展示会を大成功へ導いたのは、オーナーの迎ウィリアム・ケイン(Mukai William Kayne)さん。「うちの特色である『街の移り変わり』や『文化の交錯』を感じられる作品群であり、ジラード氏の人柄が伝わる距離で人々との交流もでき、非常に意義深い展示会となりました」と誇らしげに振り返る。
左:写真家のグレッグ・ジラード氏 右:WKMオーナーのウィリアムさん イベント開始前にギャラリーにて。
日仏ミックスであるウィリアムさんは、日本で生まれ、東京国際フランス学園でフランス式教育を受けた。幼い頃、家族でチャップリンを見た楽しい記憶が鮮明に残っているという彼は、中学生になると映画に加え、音楽やファッションといったカルチャーにも興味を持ち始めた。高校にあがると、人目をひく魅力的な風貌ゆえだろう、街でスカウトされ、モデルのアルバイトを始めた。
写真右、小学生の頃のウィリアムさん。姉と旅行先の伊豆で。
大学は、パリへ進学。そこで映画理論を勉強した後、日本に戻ってきた。20代の彼は、日本で若者向けファッション誌のモデルとして引く手あまただったのだ。しかし「長くは続けられない仕事」と、将来についていつも悩み考えていたという。周囲を見渡すと、芸能関係、ファッションデザイナー、また飲食店関係の道に進む者が多くいた。ウィリアムさんはモデルをしながら兼業を始める。そして語学の才能を活かしながら、旅行業や日仏アートプロジェクトの架け橋となるような仕事などを経験する中で、徐々にアートの仕事へと関心が強まっていった。
ティーネイジャーの頃。映画、音楽、ファッションなどにすごく興味があった。
そんなおり、当時付き合っていた彼女で、現在の妻であるひろ子さんに、香港での仕事が決まる。2010年代中頃、遠距離恋愛となったウィリアムさんは、日本と香港を行き来する中で、「世界中から人が集まる香港には、日本にないアートギャラリーがいっぱいあり、世界規模のアートフェア、アート・バーゼルも始まった。香港のアートシーンは熱いな」、と思ったという。
その後、香港を拠点とする国際的なギャラリーで、日本やフランスの美術家を紹介し、香港へ招待するなどの手伝いを始めたウィリアムさん。村上隆など世界的に著名な美術家との仕事にも関わり、大きな規模の舞台裏を垣間見る経験にゾクゾクした。気がつけば、アートへの関心は情熱に変わっていた。
<日本、フランスのアートをインターナショナルに>
仕事をしながら「香港を拠点に、自分のルーツである日本やフランスのアートを世界へ向けて発信する!」と目標がはっきりしてきた。運命の人を追いかけた先に、自分の進むべき道が見えたのだ。
18歳の時に知り合ったひろ子さんと、2019年に入籍した。
経験を積んだウィリアムさんは、2021年、勤めていたギャラリーを離れ、30代後半という若さで独立を決意する。
美術家とのコミュニケーションを円滑に行う自信もあり、気の置けない仲間とビジネスパートナーとして組んだが、それでも「立ち上げはめちゃビビりましたよ」という。何事にも制限が多いコロナ禍で物件を探しだし、ギャラリーのデザインや施工などに2年以上を費やした。2023年にWKMギャラリーのオープニングを迎えることができた時は「感動だった」という。
WKMギャラリーのオープニング。親しい仲間たちと。
もちろん当時も今も、ストレスは常にあるという。展示のための美術作品輸送には神経を使い、作品の売れ行きが気にかかる。先方からの突然のキャンセルに慌てたこともある。でも、「数年後に振り返って『こんなことが辛かったのか』って笑ってますよ、きっと。悪い経験もいい経験になる。数年経てば、問題にも答えが出ている。やってみるしかないですよね」そう、腰を据えている。
彼のギャラリーに行くと、個々の作品について「過去の偉大なオールドマスターとの関係」、「遠近法の効果」や「どのように構図が計算されている」などはもちろん、作家や、彼等の作品への思いなども詳しく解説をしてくれる。美術鑑賞は、作品にまつわるストーリーを知ることでより一層楽しくなることを、ウィリアムさんが実感させてくれる。
オーナーとして、自身の眼で「よい」作品を見極めるウィリアムさん。顧客の信頼を得ているその「眼」はどうやって培ってきたのかと問うと、モデルという被写体であった経験や映画を勉強したことも役立ってはいるが、「やはり実際の作品を目の前で数多く見てきたことによって養われる部分は大きいと思います」と教えてくれた。
自身のギャラリーで、展示されている絵について話をするウィリアムさん。
<黄竹坑のコミュニティを盛り上げていきたい>
ウィリアムさんは、自身のギャラリーはコミュニティづくりを何よりも大切にしているという。
「それぞれの美術家はアートを通して人々に何かを訴えます。僕の仕事は、その美術家やアートを媒介として人々のコミュニティを作ること。ギャラリーはみんなが集まれる場所として作ったので、例えば、入口はみんなで話がしやすいようにデザインされていて、中にはゆったり座れるベンチがあるんです。画面ばかりにかじりついて人間関係が希薄になっている時代ですが、人と人とを結ぶ空間や仕事は絶対に残るし、大切なものだと意識してやっています」
パリでエッフェル塔を背景に、お母様と。
現在、WKMのある黄竹坑は25以上のギャラリーが集まる。賃料の高いセントラルより広い空間を確保できることもあり、これからも多くのギャラリーが進出して賑わいを見せていくことが予想されている。
「マジで黄竹坑、今、冴えてる」というウィリアムさんは、作家と収集家、加えて香港コミュニティをより近くに繋いでいく新しい試みを始めている。そして今後について「ギャラリーもそうですが、レストランやみんなで音楽を聴けるバーとか、人と人とのコミュニケーションの場がもっと黄竹坑に増えてくれたら嬉しいし、一緒に盛り上げていきたいな」と話してくれた。
香港・黄竹坑を拠点に、アートで日本、フランス、そして世界を繋ぐコミュニティを盛り上げていくギャラリーオーナー、ウィリアムさん。これからもWKM、そして黄竹坑から、目が離せそうにない。
<ウィリアムさんに3つの質問>
Q1 好きな映画ベスト3を教えてください
まずは『ゴッドファザー』(1972年・米)。1も2も両方大好き!あとジム・ジャームッシュ監督の『デッドマン』(1995年・米)。最後はちょっと格好つけてスタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』(1975年・英・米)にします。室内をキャンドルの光で撮影しているんですけど、すごくきれいなんですよ。
Q2 ご自身は子ども達にとってどんな『パパ』だと思いますか?
ママが甘いので、僕が厳しくしないといけない、と思うんだけど、でも…出張帰ってきてすぐ怒るパパとか嫌でしょう?休日はビーチに連れて行ったりしてめちゃくちゃ遊ぶので、楽しいパパだと思います。
Q3 ご自身がアーティストになるとしたら何になりますか
映画にも魅かれるけど、料理人かな。料理も一つのアートだと思っています。料理作るの好きなんですよ。
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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