2023/11/19

先月、10月27日から10月29日にかけて、「第8回アジア家族療法学会」が香港の大館において開催され、わたしも3日間、参加してきました。アメリカ、オーストラリア、イギリス、フランス、日本、シンガポール、韓国、インド、中国等、実に様々な国から家族療法の専門家が集まる、年に一度の学会は、会場の雰囲気と相まって、かなりの迫力がありました。

臨床心理士は、日本の場合、所定の学会や研修会に参加し、5年ごとに資格を更新するための審査を受けます。そのため、頻繁に日本に帰ることのできないわたしにとって、こうした機会は非常に貴重です。また、パンデミック以降、オンライン開催が増えたことで、肌感覚で伝わる雰囲気や繊細な感情の動きは捉えにくくなりました。心理療法もそうですが、物理的な空間と時間を共有し、その場に「共に存在する」ことの意味は大きいものです。

さて、この「家族療法学会」は、家族療法に関する研究や実践を参加者が共有し学び合う場ですが、「家族療法」と言う言葉は聞き慣れない方も多いと思います。これは、その名の通り、「家族」を治療の対象として捉え、介入を行っていく心理療法です。分かりやすく、以下に事例を挙げてみたいと思います。

 

以前、わたしがスクールカウンセラーをしていた際に出会った、ご家族の話です。小学校3年生のAちゃんは、学校に行きたがらず、母親は担任の先生や校長先生と話し合いを重ねましたが、原因は分からず。不登校の期間も長くなってきたところで、学校からの要請と本人がスクールカウンセラーとなら会っても良いとのことで、わたしが家庭訪問に行くことになりました。

学校での勉強の話、お友達との話を聞いても、特段、困っている様子はありません。担任の先生からの話でも、学校では成績も良く、友達も多かったとのこと。不思議に感じながらも、家庭訪問を続ける中で、母親から話を聞く機会もあり、段々と家族の様相が見えてきました。どうやら、Aちゃんの父親は、仕事が忙しく、ほとんど家に帰らない。夫婦間での会話も最低限で、数年前から関係は冷えきっていたようです。たまの週末に家に居ても、Aちゃんと遊ぶようなことは無く、母親はAちゃんに、父親の不満を漏らすことが多いことも分かりました。

年齢が上がるにつれ、徐々に家庭の事情について分かってきた彼女は、母親の愚痴の聞き役になる中で、自分が家族を、母親を守らなければという気持ちが強くなり、母親との共依存関係を深めているように見えました。スクールカウンセラーというわたしの立場では、家庭問題に介入することは適切ではないため、教育相談と家族療法の専門家をご紹介し、何度かご家族で通ったところ、少しずつ、家庭内の状況が改善されるにつれ、Aちゃんは保健室登校や相談室登校が可能となりました。

不登校や引きこもりに限らず、非行や摂食障害など、家族の中で問題が起こった時、当人(Identified Patient: IP)だけを治療すれば問題が解決すると思いがちですが、問題は家族全体にあり、その問題をIPが単に象徴しているだけと言うことが少なからずあります。こうした場合、個人への働きかけだけでなく、家族全体への治療が非常に効果的です。IPに兄弟や姉妹がいる場合や、祖父母が同居している場合は、祖父母と両親の関係の軋轢や兄弟姉妹も含めた家族内の不適切なコミュニケーションパターンの常態化がIPの問題を生みだしている場合もあります。

 

様々な心理的問題を「家族」という視点から扱う家族療法。わたしも、必要と思われる場合には、パートナー同席の面接や親子面接を勧めることがありますが、大抵の場合、「話したいことが話せなくなるのでは」と言う懸念などから、躊躇される方が多いです。しかし、前述したように、家族全体のパワーバランスや不適切なコミュニケーションが根底にある場合、家族療法は非常に効果がある心理療法です。夫や妻と一緒にカウンセリングを受ける、子どもと一緒にカウンセリングを受けるという選択肢もあることを、ぜひ知っておくと良いと思います。



河合 まり絵

臨床心理士。日本ではスクールカウンセラーとして、不登校児童や別室登校児童、発達に偏りのある児童への心理的サポートや、精神科クリニックで、パニック障害、PTSD、うつ病、摂食障害などの個別カウンセリングを実施。リワーク外来では、精神疾患などで休職中の患者に対し集団療法を、また、復職後の企業内フォローアップ・カウンセリングを実施。刑務所内では、グループ矯正教育をするなど、教育、医療、産業、司法の分野で臨床経験を積む。香港に移住してからは、3児の子育てに追われるも、縁あって精神科クリニックに復職。

 

OT & P Healthcare/ Mind WorX Clinic
MindWorXはOT and P Healthcareが運営する精神科専門のクリニックです。
中環駅(セントラル)から徒歩2分の場所に位置しており、簡単な日本語を話せる医師と、日本人の臨床心理士が在籍しておりますので、薬の処方と共にカウンセリングを並行して受けることが可能です。投薬はしたくないけれど、カウンセリングを受けたいという方もご相談下さい。

以下のようなことでお困りの方は、是非、一度、ご相談下さい。
・夜、なかなか眠りにつけない、または、朝、早くに目が覚めてしまいすっきりしない
・不安や心配な気持ちがいつも頭を離れない
・過度に食べ過ぎてしまう、または、食欲がない
・子育てに疲れている
・コロナ禍でストレスが溜まっている
・夫や妻、パートナーや他者との関係に悩んでいる など

初回予約の際に日本語でのサポートが必要な方は、marie.kawai@otandp.comにemail を頂ければ、日本語での対応が可能です。

Mind WorX Clinic
OT&P – Internationally Accredited Medical Clinics in Hong Kong (otandp.com)
6/F Century Square, 1 D’Aguilar Street, Central, HK
中環徳己立街1號世紀廣場6樓
Tel: +852 2468 3577
Fax: +852 2111 3850
Appointment WhatsApp: +852 6339 2639


 

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