2022/12/07
你呢排點啊?4年に一度のサッカーの祭典、2022 FIFAワールドカップが開幕しました。日本代表がドイツに勝利した瞬間、職場の同僚の香港人たちから「japan gogogo!!!」「鬥魂! 萬歲!」広東語字幕が付いた『キャプテン翼』の西ドイツ戦エピソード。WhatsAppで多くのメッセージや動画が届き、多くの香港人たちが一緒になって日本を応援してくれていたことに胸が震えました。深夜の観戦で寝不足になる日々はもう少し続きそうですが、今日はサッカー日本代表……ではなく日本産フルーツについてのお話です。
中秋節前のc!ty’super ifc mall店ショーケース
香港に移住する前、我が家では夫の両親が住む香港を年に何度か訪れるのが習わしとなっていました。帰省の時期が旬の季節に重なると決まって夫がお土産にしていたのが某高級フルーツ店の桃。「親父、桃に目がなくてさ。会社の従業員たちにもお裾分けすると思うから……」数箱に分けて梱包してもらった総額数万円の立派な桃の化粧箱を手荷物に、いざ香港行きの飛行機へ。手を引かねばならない幼子たちもいるし、ベビーカーもあるし、傷まないよう気を付けなきゃならない桃じゃなくて、お土産なら和菓子とかいいんじゃない? お義母さんも小豆、好きだし、スーツケースに入るし。これから向かうの南国の香港だよ?果物天国だよ?……モヤモヤした思いを毎回、抱えていたのはここだけの秘密。
数年後、香港で日常生活を送るようになって、わたしはようやくそのときの事情を理解したのです。身がギュッと締まって味が濃くて甘い日本産の果物。他国産のフルーツと比べると目が飛び出るほどの値段が付いているのは納得ながら、ここ香港のスーパーでは日本のスーパーで売られている価格の倍、いえ、数倍の値付けがなされているのです。輸送コストが上乗せされてるから仕方ないよね……頭では分かっていても、日本にいたときと同じような感覚でカートに果物を放り込むことはできず、陳列棚の前でしばらく思案。宮内庁御用達のお店で買った桃をゆっくりじっくり味わっていたあのときの義両親の笑顔。どんぶらこっこ、どんぶらこ。吟味した桃を大切に担いで日本から海を渡ることは、なかなか会うことのできない両親への夫からの精一杯の気持ちだったのだろうと思います。
APiTA 太古城店のフルーツコーナー
AEON STYLE康怡店の日本フェア
MUJIでも日本産の桃が販売されていました(無印良品又一城店にて)
9月の中秋節。塩漬け卵黄の入った伝統的なものからアイスクリームの入った現代風のものまで、趣向の凝らされたパッケージに包まれた月餅に加えて、取引先や知人から頂くのは果物の盛り合わせです。バスケットや箱に美しく盛られたりんごや梨やぶどうやメロン。まさにフルーツの玉手箱。有名ホテルや有名レストランの月餅よろしく、日本産の果物が詰合せのラインナップに入っていると商品としての格も上がるようで、面子を重んじる香港人。中秋節前後は我が家の冷蔵庫に日本産の果物が途切れることはありませんでした。普段は子どもや夫に譲り、自分の口にはあまり入ることのない日本産フルーツ。この時期ばかりは思う存分、わたしも堪能することができたのでした。
ところで、皆さんは日本の果物の2大輸出先が台湾(158.9億円)と香港(129.2億円)であることをご存知でしょうか? 両国は、3位のタイ(9.3億円)を凌駕する圧倒的な存在です。輸出総額こそ台湾が香港を上回っていますが、データを細かく見ると、台湾への輸出はりんご(118.3億円)が同国への輸出総額の大半を占める一方で、香港へは様々な種類の日本産の果物が万遍なく輸出されていることが分かります(注1)。2021年、香港への輸出が多かったフルーツは金額の多い順に、りんご35.0億円、いちご29.4億円、ぶどう21.1億円、桃17.2億円、メロン9.3億円、なし6.6億円、みかん4.4億円、柿2.3億円。なかでも、いちご、桃、メロン、なし、みかん、柿は、世界中で香港が一番のお得意先となっています(注2)。
全てc!ty’super ifc mall店にて撮影
様々な日本産のフルーツが並びます
立ち止まって商品説明を読むお客さんの姿も
さらには“日本産フルーツ”と一括りにされるのではなく、香港ではこれからは産地も着目されるようになる予感もしています。昨年、男性ボーカルグループMIRRORのメンバーEdanが歌う《My Apple Pie》のミュージックビデオの小道具として登場したアップルパイが実はA-1 Bakeryの商品であったことがファンによって特定された際は、同社のアップルパイの人気に火が付き「青森りんごパイ」と印字された箱を持つ人々が街に溢れました。山梨県に本社を置くシャトレーゼがYamanashiシャインマスカット&ピオーネフェアと銘打ちケーキを展開する一方で、美心集團傘下の東海堂Aromeからは長野産シャインマスカットを使用したケーキが販売されるなど、今秋のぶどうの最盛期には各社が日本の産地とタッグを組んで自社商品のこだわりをアピールしようとしました。
A-1 Bakeryの「青森りんごパイ」パッケージ
シャトレーゼのYamanashiShineMuscut & PioneFairで販売されていたケーキ
東海堂Aromeの長野産シャインマスカットケーキ
ミスインターナショナル香港をインフルエンサーとして起用し、香港の消費者に向けて山梨県産シャインマスカットのPRを行う広東語の動画も見付かりました。
「ただいまー。取引先の人が洋梨くれたから、冷蔵庫、入れとくよ」どうやら今日も夫が果物を携えて帰宅したようです。中秋節は過ぎてしまいましたが、日常的に果物を贈り合う習慣のある香港の人々。大切にしたい相手への気持ちとして果物を贈り、贈られるシーンで、とりわけ日本の果物が支持されていることは、同じ日本人としてとても嬉しく、日本で頑張っている生産者さんたちに香港の熱きサポーターたちの風景を届けることができるといいなと考えています。
Emi in HK。多謝收睇。下次見!
【出典】
※注1…農林水産物輸出入概況 2021年(令和3年) 農林水産省輸出・国際局国際経済課(令和4年12月5日)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/pdf/gaikyo_2021_k.pdf
※注2…文中のぶどう、桃、みかんの金額は、統計データ上の「ぶどう(生鮮)」、「桃(ネクタリン含む)」、「うんしゅうみかん等」の数値を参照。
Emi
映像プロダクション会社勤務。大学院修了後、日本・東京商工会議所にて、中小企業の資金調達支援から政策立案時の省庁との折衝まで多岐にわたる業務に従事。15年半の勤務を経て2019年、夫の仕事の都合により来港。2020年から現職。夢は日本と香港の合作映画の製作に関わること。気分転換は25年振りに再開したピアノ。インター校に通う7歳、4歳、男児2人の母。
Twitter @emi_m_wang
E-mail emiinhkg@gmail.com
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