2023/02/09

中学3年生のとき初めて付き合った彼とファーストデートで出掛けた地元の映画館。映画が始まる前に「ガム、食べる?」彼からもらったチューイングガム。気恥ずかしくて口から出せず、結局、映画が終わって彼がトイレに立つまでずっと噛み続けていた、今となっては微笑ましい思い出。当時、夫婦だったトム・クルーズとニコール・キッドマンが共演していた『遥かなる大地へ』。スクリーンに広がる雄大なアメリカの大地と臨場感溢れるエンヤの主題歌は覚えているけれど、映画の後半は味のなくなったガムのことが気になってお話に集中できなかった、映画館とわたしと恋の記憶。

香港の映画館(MCL Citygateにて撮影)
日本同様、入口で軽食や飲料の購入が可能です(Premiere Elementsにて撮影)

 

あれから30年。月日は流れ、わたしは香港でまた緊張の映画館体験をすることになりました。日本に一時帰国するのはまだハードルが高かった2022年夏休み。わたしは7歳の長男を連れて子どもと2人で初めて映画を見に行くことにしたのです。選んだのは『ミニオンズ・フィーバー』。長男がNetflixで繰り返し視聴しているお気に入りのミニオンズシリーズの最新作です。香港の映画館では吹き替えなしの英語版と広東語の吹替版、両方が上映されていましたが、子ども向けアニメということもあってか、広東語吹替版が上映されている映画館の数の方が圧倒的に多いようでした。

香港では、日本同様、劇場で直接、当日鑑賞券を購入することも可能ですし、事前に座席指定してネットでチケット購入することも可能です。ただし、大きく異なるのは、その料金システム。日本では、映画を観る人の年齢に応じて鑑賞料金がほぼ全国一律に設定されていますが、香港では、映画館の系列や立地、曜日や上映時間帯によって、同じ映画でも1座席あたりの金額が異なってくるのです。

作品ごとに映画館や上映時間、料金を比較できるサイトHong Kong Movie(https://hkmovie6.com/)。携帯アプリもあり、手軽に検索が可能です。

 

朝の早い時間帯ならHK$50程度、夜になるとHK$100を超え、週末ともなればHK$120~130程度に。設備が新しいほど、中環や尖沙咀など中心部に近ければ近いほど料金も高くなり、数組のカップル用シートしかないシアターの座席だとHK$300近い金額が設定されていたりもします。また、香港で上映される映画には、英語版にも、広東語吹替版にも、大抵、中国語の字幕がついていて、英語も広東語もネイティヴではないわたしにとって、香港の映画館は漢字を拾ってセリフの意味を探ることもできる有り難い環境です。

今回は“初めて”繋がり。英語版が上映されている映画館のなかから、2019年に来港して家族で初めて居を構えた太古のシネマコンプレックスで初めて記念の映画を観ることに決めました。ネット決済手数料を含めてチーン、2人でHK$110也。90分、お行儀良くできるかしら、トイレに行きたくなったりしないかしら、途中でつまらなくなって「もう帰ろうよ」とか言い出さないかしら。前日から幾度もシミュレーションを繰り広げましたが、映画が始まってしまえば、面白いところはここぞとばかりに豪快に笑う香港の人々のリアクションにも助けられ、愉快で一体感に包まれた劇場を長男は大満足で後にしたのでした。

 

映画館の入口になぜか高い確率で設置されているガチャガチャ
緊張して早く到着しすぎた映画館の入口で余計な出費。トホホ
ネット予約・決済したチケットは入口で発券して入場します

2020年以降、香港ではコロナ規制で映画館が休館を余儀なくされる時期が何度か続きました。2021年には経営が立ち行かなくなった大手の映画館が閉鎖されるというニュースもありました。2022年の香港映画館事情。興行収入全体はUS$127,307,985とコロナ前(2019年)の7割方まで回復(注1)。いったいどれほどの方が1年間で映画館へ足を運んだのか、少々乱暴ながら、映画のチケット代を平均HK$100とし、5歳以上の人口で試算してみると、1人あたりの年間鑑賞本数は1.4回という結果に(注2)。

長男と見た『ミニオンズ・フィーバー』の興行成績は2022年興収年間9位にランキング!トップ20圏内にはMIRRORのメンバーが出演する『ママの出来事』(10位)《闔家辣》(13位)《過時·過節》(18位)もランクインしていました(鏡粉、紅磡リンダさんのコラムもあわせてどうぞhttps://hongkonglei.com/rindamirror03/)(注3)

 

2022年末、数年振りに乗った飛行機で長男が選んだ機内映画は『トップガン・マーヴェリック』。香港内年間興行成績第1位に輝き、全世界興行収入US$15億近くに達する2022年の大ヒット作です。映画館で観たら本当に戦闘機に乗ってるみたいだったのにさーと、いつの間にかYoutubeで探し出してきた映画のテーマ曲を未だ鼻歌で歌ってる長男。どこまでストーリーを理解できたのかは分からないけれど、映画館の良さについては、ばっちり理解していた模様! トム・クルーズ(30年前のママと同じように?)大きなスクリーンで見たかったよね。そして、そんな君が、手に汗握りながら、母ではない誰かと映画館での時間を過ごすのは、きっとそう遠くない未来のはず。

記録的に落ち込んだ2020年の香港の映画館1人あたり年間鑑賞本数は0.5回(注4)。定額制の動画配信サービスで映画を観るというライフスタイルの変容がコロナ禍で加速したのかもしれませんが、映像制作という職業を生業にする身としては、劇場の空気感やその日の出来事も記憶へと刻みこまれる“映画館”という特別な場所でのエンターテインメントが、2019年の年間本数2.0回まで盛り返す日も近いといいなと思っています(注5)。

Emi in HK。多謝收睇。下次見!

香港外の状況が気になって調べた諸外国の数字。日本の年間鑑賞本数は1.5回(2019年)→0.8回(2020年)。お隣コンテンツ大国、韓国の年間鑑賞本数は、なんと4.4回(2019年)→1.1回(2020年)。2022年の分析が気になります。(注6)

【出典】

※注1…https://www.boxofficemojo.com/

※注2…人口估計(香港特別行政區政府, 政府統計處)https://www.censtatd.gov.hk/tc/scode150.html
5歳以上人口は2022年年中の値を利用。US$とHK$の為替レートは2022年最終日の値を利用。

※注3…https://www.boxofficemojo.com/

※注4…注2と計算方法は同様。5歳以上人口は2020年年中の値、US$とHK$の為替レートは2020年最終日の値を利用。

※注5…注2と計算方法は同様。5歳以上人口は2019年年中の値、US$とHK$の為替レートは2019年最終日の値を利用。

※注6…一般社団法人コミュニティシネマセンター,映画上映活動年鑑2021,2022年3月,pp.24-29. http://jc3.jp/wp/research-reports/


 

Emi
映像プロダクション会社勤務。大学院修了後、日本・東京商工会議所にて、中小企業の資金調達支援から政策立案時の省庁との折衝まで多岐にわたる業務に従事。
15年半の勤務を経て2019年、夫の仕事の都合により来港。2020年から現職。夢は日本と香港の合作映画の製作に関わること。気分転換は25年振りに再開したピアノ。インター校に通う8歳、5歳、男児2人の母。

Twitter   @emi_m_wang
E-mail  emiinhkg@gmail.com

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