2021/12/03
感染(第4波)の急激な状況悪化を受け、飲食店の営業が夜10時まで、集団制限が4名から2名に変更された昨年(12月2日~)とは打って変わり、今年の香港の街並みは和やかで明るい雰囲気に包まれています。
你呢排點啊?もうすぐクリスマス。彼方此方にツリーが飾られ、華やかなデコレーションやイルミネーションに心躍る季節がやって来ました。貴方は大切な人々へのプレゼント、何を贈るかもう決まりましたか?
突然ですがHK$40,000。クリスマスより一足お先に、わたしは香港に来て一生モノの高価な買物をしてしまいました。それ、プレゼントいくつ分? 大きなことを成し遂げた自分へのご褒美? キラキラ光る何かをご紹介したいところですが、正解はこれ、奥歯1本分のインプラントのお値段なんです。今日は経済指標でも時事ネタでもなく極めてパーソナルな数字で恐縮ですが、わたしの1年越しのドタバタ劇、歯の治療にまつわるお話にお付き合いいただければと思います。
いつも身に着けてるものの中で一番高いわたしの良き相棒(?)。清水の舞台から飛び降りる覚悟で大枚をはたきました。
―2020年7月―
香港に来てちょうど1年。あれはコロナ第3波が香港を本格的に襲うことになる少し前の出来事でした。香港移住を見据え、悪くなっているところは全て治療してから渡航しようと、日本で過ごした最後の半年は歯医者さんに足繫く通いつめたはずなのに、ある朝、処置歯の根元の歯茎が肉眼で分かるほど腫れていたのです。神経を抜いているのに痛いってどういうこと? しかも鏡でよく見たら、反対側の奥歯には黒い斑点ができているじゃない。コロナが収まっている今のうちに処置してもらわねばと、わたしは「説明が丁寧で納得いく治療が受けられる」と友人2人に聞いてリサーチ済みだった近隣の歯科医院のドアをノックしたのです。
歯全体のレントゲン写真をじっくり眺めたW先生。緊張の面持ちの診察台のわたしをリラックスさせるかのようにポンポンっと肩を叩いて、チャーミングな笑顔ながら、でも非情な宣告を下しました。「こっちの初期虫歯の治療は後回しにしましょう。処置は数ヶ月先でオッケー。だけど、歯茎が腫れてる方は至急案件よ。ぐらついてる歯と歯茎の間から細菌が入って骨に達して、炎症を起こしてるの。処置はやり直しね。神経を専門にやってるわたしの師匠を紹介するから予約してもらえる? 今日のレントゲン写真、彼にシェアしとくわ。それから、心の準備のために前もって伝えておくけれど、治療代、最低HK$17,000はすると思う」 い、いちまんななせんドル? 緊張は激しい衝撃と落胆へと変わり、とりあえず今日のところはと、診察費HK$400とレントゲン代HK$600だけ支払って、歯茎の炎症を抑える抗生物質の入った袋を片手にわたしはガックリ家路についたのでした。
加入している保険でいくらかは戻って来たけれど、インプラントの治療に辿り着くまでの2ヵ月間だけで歯の治療にかなりの金額を費やしました。
―2020年8月―
あれから、紹介してもらったW先生の師匠のL先生のところで診てもらったけれど、「歯茎が処置歯を異物とみなして攻撃してる状態になっているね。今回、歯茎を切開して直しても、数年後にはまた同じ状況が起きるだろうし、都度お金をかけて処置するより、この歯はもう抜き去ってインプラントにすべきだと思う。自分の歯は残したいだろうし、この歳で? って思うかもしれないけれど、土台になる骨がしっかりしてる今、決断して良かったって将来振り返ったときに思うと思うし、自分ならそうするな」と言われ悩みました。治療費HK$17,000から1本HK$40,000のインプラントへの方針変更。HK$40,000あったら、何が買える?いや、この数字、見たことあるわ。4人家族想定、2バスルーム+4ベッドルーム。世界一高いと言われる香港の家賃、月額相当じゃない。
何度も日本円換算をしてはため息をつき、寝ても覚めてもそのことばかり考えてしまう日々。誰かに背中を押して欲しくって、わたしは初期虫歯の治療がてら、もう一度W先生のところに向かうことにしました。W先生によれば、費用を安く済ませるために、治療代の安いタイに通ってインプラントをされる方々もいらっしゃるのだそうです。しかし、このコロナ禍。旅行を兼ねてタイに行くことも、日本に一時帰国することも現実的ではなくて、一つ一つ選択肢を潰していき、ようやくここ香港でインプラントをする腹を括りました。
インプラント専門の歯科医院の待合室には、品の良さそうな老夫婦から最新モノのブランドバッグを無造作にソファに投げ出している若い女性まで、様々な年齢層の(見るからに裕福そうな)人々が自分の順番が来るのを待っていました。
W先生に紹介してもらったインプラントの権威のH先生は、W先生の言葉を借りれば歯科医師の資格に加えて医師の資格も保有する香港に5人しかいない変人(きっと最上級の誉め言葉なんだと思う!)なんだそうです。心細くて当日、診察室まで付いて来てもらった夫には「大丈夫。部屋の中に、H先生、香港大学で10年教鞭とってくれて有難うって感謝状みたいなのかかってるから。腕は確かだと思う」と耳元で励まされました。インプラントの前工程となる抜歯。使用する麻酔についての細かなレクチャーがあり、同意書にサインさせられた上、24時間通話可能だという帰宅後の緊急連絡先まで渡されて臨んだ抜歯だったのでドキドキしましたが、H先生の鮮やかな神業であっさり終了。麻酔の注射の方が痛かったほどでした。歯と一緒に悪くなった歯茎の部分も根こそぎ除去され、長年連れ添った歯と別れる一抹の寂しさを感じながらも、わたしはなんだか爽快な気分になりました。
記念に(?)と持たせてもらった歯は、歯根部分に亀裂が入り、横から大きな穴が開いていました。一旦はインプラントの値段に怯みはしたけれど結論を先延ばしにしなくて良かった、この歯の役目は終わったというL先生の見立ては的確だったとホッと一息(あまりにグロテスクなので画像は自粛)。これから3ヵ月、抜歯した歯の下の部分の骨が再生するのを待ってから、歯を差し込むためのボルトを骨に埋め込む工程へと進むことになりました。
診断を受ける前、処置に移る前。事前に逐一、金額を提示される香港の私立病院のシステムにもだいぶ慣れてきました。口頭で支払いが可能か確認されることが多いのですが、抜歯は高額な処置となるため、このときばかりは詳細なパンフレットと共にしっかり紙ベースの見積書が出てきました。
―2020年11月―
一週間前の診察で骨の再生は順調だというお墨付きをもらって迎えたボルト埋込日当日。「手、握っててほしいでしょ?」と今回も付き添ってくれた夫は、待合室で待つようにと看護師さんに厳しく制止され、「あなたはこれに着替えて。髪はまとめてヘアキャップ。靴の上からはこれを被せてね」と、わたしは手術着一式とシューズ用のキャップを手渡されました。え? 今日って、こういう日なんだっけ? すんなり終わった3ヵ月前の抜歯とは異なる本格的な展開に戸惑いながら、着替えが終わり手招きされた部屋に入ってまたビックリ。そこには医療モノのドラマのお馴染みのワンシーンのように、ビニール手袋の手を上に向けた助手の方々が何人も待ち構えていたのです。手術台に横になりシートをかけられたわたしの手に手際よく計器が挟まれていき、心拍と血圧用のモニターがセットされると、満を持してここでH先生が登場。同じ光景見るの、子どもたちを出産するとき以来だよー。さぁ、どうなるわたし! お話は次回へと続きます。
Emi in HK。多謝收睇。下次見!
Emi
経済団体にて、経済産業省・法務省との折衝から中小企業の事業転換・倒産回避の相談現場まで、多岐にわたる業務に従事。2019年6月、15年間の東京・丸の内オフィス生活に別れを告げ、夫の仕事の都合により香港へ移住。錆びついた英語と、初学者レベルの広東語・中国語を日々勉強中。気分転換は映画・ドラマ鑑賞、25年振りに再開したピアノ、甘い物。小学校、幼稚園、やんちゃ男児2人の母。
Twitter @emi_m_wang
E-mail emiinhkg@gmail.com
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