2025/09/21
Hong Kong LEIライターのリンダと杏が、ぴーちくぱーちくお喋り感覚で最新の香港映画をご紹介するコラム《リンダと杏の香港映画ぴーちくぱーちく》。
まだまだ勉強中だけれど、香港映画に対する愛と情熱は超強火! と言うリンダと、気になる映画に関しては、とことん知り尽くしたくなる杏。そんな二人が、香港在住者の視点で、映画の背景となる香港の文化的事情やその歴史、そして知ると楽しいトリビア等を楽しく語り合い、読者の皆様にご紹介します。これを読めば香港映画が、そして香港が、もっともっと楽しめるようになること請け合いです!
Photo: Courtesy of Golden Scene Cinema
連載第5回目は、『毛家』(英題:Paws Land/102分/2025年)をご紹介します。監督は第43回香港電影金像奨(香港アカデミー賞)最優秀作品賞及び監督賞ノミネート作品『爸爸』(邦題:お父さん)の共同監督を務めたアウ・チョックマン(區焯文)。『Four Trails』で世界の注目を集めた香港のドキュメンタリー。この注目度をさらに高められるのでは? と期待が寄せられている作品です。
あらすじ
香港の動物保護団体「毛守救援」のボランティアたちが野良犬や捨て犬猫を確保し、保護、里親探しまで行う姿を4年の歳月をかけて撮影したドキュメンタリーです。この団体が扱うのは重傷を負って容姿が醜くなってしまった犬、虐待を受け攻撃的になってしまった犬など、もっとも里親が見つかりにくい犬猫たちがほとんど。4年で4匹しか引き取られないというのが現実です。苦労も報われず、危険や疲労に耐え、最善を尽くすボランティアたち。彼らのため息、涙、葛藤など、きれいごとだけでないリアルな姿が描き出されます。動物が粗末に扱われる現状に「動物が悪いのではなく、人間が悪い、さらに言えば社会の制度が悪い」と語る監督。動物たちを通して人間について、社会について問いを投げかけます。
【YouTube】キャス・ウォン(黃妍)– 無家(《毛家》主題曲)
Homeless (Theme Song of Documentary “Paws Land”) | Official Music Video
動物保護活動のリアル
杏:まずは、なかなか光の当たらない動物レスキューの活動を地道に追い、ドキュメンタリー映画として人々に伝えたアウ・チョックマン監督と、実際に日々、救助・保護活動をしている人々に最大限の敬意を払いたい。わたしも以前、保護犬のフォスターをして、LEIでも特集記事を組んだので色々調べたけれど、保護動物たちを取り巻く現実は本当に厳しい。
リンダ:ボランティアたちの献身的な姿には本当に頭が下がるね。で、映画としては「感動ドラマ」を押し付けない、淡々としたつくり。大袈裟な演出がない分、自分なりに考える余白があるから、見る人によっていろんな見方や解釈ができる作品だと思う。
Photo: Courtesy of Golden Scene Cinema
杏:すでに保護されている動物の面倒を見るのも大変だけれど、野良犬を救助捕獲する場面は衝撃的だったな。傷を負って虫がわいている犬とか、凶暴化して噛み付いてきたりする犬とかいて。それでもボランティアの人々は、「大切な命」として1匹ずつを扱い、愛情を持って保護する。「動物が好き」なんて生やさしい気持ちだけでは、とてもあそこまではできない。彼らには本当に頭が下がる思いがしたよ。
Photo: Courtesy of Golden Scene Cinema
リンダ:この映画、ヒューマンドラマとしても秀逸だよね(ドラマと言っても実話だけど!)。困難な状況に遭遇して、思い悩みつつ前進するボランティアさんの心の葛藤には涙を禁じ得なかった。監督がじっくり時間を掛けてボランティアさんとの信頼関係を築いて、深い理解を示したからこそ引き出せた、迫力あるリアルな言葉の数々は珠玉。まさにこの映画の宝。
犬、人間、社会
杏:香港も他の大都市と同様、ペット産業の需要も供給もあって、犬を散歩する人もよく見かけるし、動物病院、ペット用品店やペットサロンもある。そうすると、悲しいかな、悪徳ブリーダーによる虐待や、飼い主が飼いきれなくて捨ててしまうという問題も起きてしまう。でもこういった問題は法の整備や教育によって改善していけるものなんだよね。
Photo: Courtesy of Golden Scene Cinema
リンダ:この映画に出てくる犬、救助された後の話も色々だったね。ネタバレになるから控えるけど、ハッピーになるのと、そうでもないのと。犬の幸せを決めるのは人間。人間のありかたを考えさせられたよ。そうそう、映画の中で新界の自宅から立ち退きを命じられた人たちが、団体に頼んで飼い犬を保護してもらいにきていたじゃない? 「北部都會區 (Northern Metropolis)」っていう都市開発の影響で犬が捨てられるのか!ってハッと気づいた。
参考:洪水橋エリアにあるこの村は「北部都會區」開発で消失してしまう。Photo: Linda Hung-Hom 2024
リンダ:この開発は超大型で、香港の約3分の1に当たるエリア、約25万人に影響があるんだって。昔からの村がいくつも丸ごと消滅しちゃうらしい。で、住人は長年住み慣れた庭付き戸建てから、政府からあてがわれた住居へお引越し、という流れ。
Photo: Courtesy of Golden Scene Cinema
杏:住み慣れた家や村から立ち退くってそれだけでも辛いことなのに、その上、移動先の物件はペット不可のことが多くて、ペットとも別れなければいけないなんて辛いね。
無から有へ
リンダ:ちなみにこの映画の主題歌は若手シンガー、キャス・ウォンで、タイトルは「無家」。映画の内容を端的に表しているだけでなく、映画のタイトルの「毛家」と発音が同じ。ボランティアの心情に寄り添い、心の強さを称えたという感動的な歌詞を、彼女の美声でしっとりと聴かせる名曲です。
杏:また、この映画の興行収入は、経費を差し引いた後、全額が動物愛護団体に寄付されます。ぜひ、多くの人に映画を観てもらい、より多くの「無家」な保護動物達が、「有家」になりますよう……!
杏・リンダ:いやーやっぱり香港映画っていいですね! ではまた次回!
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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