2025/09/07
香港の老舗の歴史にまつわるお話を香港老舖記錄冊 Hong Kong Historical Shopsさんとのコラボでご紹介したいと思います。香港老舖記錄冊さんは、Facebookなどで香港の歴史的なお店を独自で取材して発信しています。香港文化の象徴として老舗の存在は欠かせない、老舗が存続していくことが香港の文化を盛り立てることだと言います。香港を愛するHong Kong LEI編集部のわたしたちもまた、昔から愛され続けている香港で誕生した商品が、どんな会社によって作られ、どんな背景で誕生したのか、また、どんなところで、どんなふうに作られていたのかなどを垣間見たくなりました。題して「香港オタクのための愛すべき香港老舗の歴史をたどる」です。でも長いのではしょりまして(笑)「香港老舗の歴史をたどる」と命名いたしました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
今回ご紹介するのは、長沙湾で50年以上続く新聞スタンド「林記書報」です。時代とともに減少している新聞スタンドは、香港らしい街頭風景の1つでもあります。街でお店を見かけるものの、よく利用するという日本人は少ないかもしれません。その歴史や実際の営業時間、運営体制などどうなっているのでしょうか。
林記書報 – 長沙湾
創業:1966年
事業内容:新聞スタンド
住所:長沙湾青山道334号 新華茶餐廳前
執筆:Tiffany
撮影:Easy
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1980〜90年代、子どもたちは茶楼に行く前に、必ず親に頼んで茶楼前の新聞スタンドで小冊子を買ってもらい、飲茶の間に読んだものでした。新聞スタンドは香港の街頭文化の一部であり、かつては茶楼やレストランの入口に新聞スタンドがあるのが一般的でした。新華茶餐廳もその一つです。
林記書報の創業者・林盛氏と新華茶餐廳の創業者・柯榮成氏はいずれも潮州出身で、以前から知り合いでした。林盛氏はもともと新聞印刷の活字組版を担当しており、娘の林潔玲氏によれば、幼い頃一家は李鄭屋に住んでおり、家のそばには活字を並べた壁があったといいます。そして1966年、林記書報と新華茶餐廳が同時に開業しました。
林記書報開業後、さらに長沙湾で2つの新聞スタンドを開き、夫妻と長女、従業員を含めて3店舗を10年以上同時に経営しました。その後、工場ビル内の2つのスタンドは1970年代に閉業し、林盛氏自身も引退しました。長男一家が林記書報を引き継ぎ、退職後は林氏姉妹が経営を担っています。
現在の林記書報は、林盛氏の2人の娘・林潔蘭氏と林潔玲氏が共同で経営しています。林潔玲氏は6歳の頃から店を手伝っており、当時は新聞が低い板に並べられ、彼女は小さな椅子に座って販売していたため、まるで地べたで新聞を売っているようだったと振り返ります。兄が店を管理していた時期も彼女は別の新聞スタンドで働いており、この業界から離れたことはなく、転職を考えたこともなかったといいます。
新聞スタンドは1日15時間以上営業しており、通常は一人が開店から午前中を担当し、もう一人が昼間から夜まで担当する流れです。林潔玲氏は10年以上フルタイムで林記書報を経営しており、毎朝4時過ぎに新聞代理店から新聞を受け取り、出勤前の人波をさばいた後、午前9時頃に姉と交代。午後3時に再び戻り、夜8〜9時に閉店します。従業員は姉妹2人のみで、どちらかが休むと店も休業となります。毎年7〜8月は競馬が休みのため3週間休業し、その他の月は月に1日のみ休業します。休業日は競馬開催日に合わせて決まります。
各地域には新聞代理店があり、新聞の種類や部数は代理店が決めます。売れ残りの新聞は回収制度により返品できますが、基本的には代理店の方針に従います。スマートフォン普及の現在でも競馬新聞は根強い人気があり、競馬開催日には数百部売れることもあります。特に年配の客が多く、中には複数の新聞を買って「研究」する人もいます。現在市場には約10種類の競馬新聞があり、林記書報で最も売れるのは『競馬』です。競馬新聞は開催日前日にまとめて購入する客が多く、その影響で通常の新聞の販売数も増えるため、店も遅くまで営業します。
主な客層は地元の常連客であり、新華茶餐廳の利用客は主な顧客ではありませんが、林記書報と新華茶餐廳、そして長沙湾の地域社会は数十年来密接な関係を築いています。新華は毎日朝6時から夜10時まで営業しており、林記はそれより早く開店して夜8〜9時頃に閉店。書籍や雑誌は収納庫へ、煙草は店内へ、その他の商品は倉庫に戻します。新華が監視カメラを設置して以降、盗難は減少しました。新聞スタンド同士やコンビニも互いに助け合い、共同仕入れでコストを下げたり、コンビニが深夜に新聞返品を代行したりしています。
70〜80年代は新聞販売の最盛期で、新聞は40種類以上あり、林記では1日に数百部売れていました。当時は新聞の一面と中身が別々に届き、スタンドで人力で挟み込む必要がありました。今は新聞の種類が大幅に減り、広告も減少したため作業も楽になっています。
また、地域の年齢層によって売れる新聞が異なります。長沙湾は高齢者が多いため『東方日報』がよく売れました。一方『蘋果日報』が存在していた頃は、若い層の多い美孚地区で多く売れていました。かつては漫画雑誌『天下漫畫』が数百冊売れましたが、現在『龍虎門』は20冊程度。今では子ども向けは『爆笑校園』が人気です。日本の付録付き雑誌が人気だった頃は200冊売れたこともありましたが、今は売れ筋でないものは目立たない場所に置かれます。林記では成人雑誌は『火麒麟』のみ残っています。
林潔玲氏は店を引き継いだ後、ティッシュを贈呈するサービスと値引きの戦略を導入しました。どんな書籍や新聞を購入する場合でも、1ドル追加するとティッシュを贈呈し、ティッシュが不要な場合は1ドル値引きします。創業50年以上の歴史を持つ新聞スタンドにとって、温かい挨拶やちょっとした声かけ、ささやかな販売戦略は生き残るための大切な手段なのです。
香港政府は近年、煙草税を繰り返し引き上げています。2009年には小販が売れる副商品を8種類から12種類に拡大し、新聞スタンドの売り場面積も広げて経営改善を図りました。林記では涼果、ライター、ボールペンなども販売しています。新聞1部あたりの利益は2〜3ドルに過ぎず、実際の収入源は煙草とミネラルウォーターです。価格をコンビニより安く設定するため、1日2〜3箱の水が売れることもあります。
煙草はマルボロをはじめ30種類以上扱い、2023年11月には煙草会社が新しい陳列棚を設置しました。しかし煙草税引き上げ後は、購入客は半分に減っています。林潔玲氏は常にコンビニの価格を確認し、それより安く販売しています。
1970年以降、新規の「固定スタンド(新聞)」免許は発行されておらず、食環署発行の新聞スタンド免許は1990年代の2500件から2023年には327件にまで減少しました。新聞スタンドの仕事は難しくはありませんが、長時間労働で体力を要し、新聞雑誌の数と売上の減少、煙草税の増加により経営環境は厳しさを増しています。
競馬シーズンが終わると、林氏姉妹にもようやく夏休みが訪れます。
取材日:2024年6月8日
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