2023/12/17
いよいよ12月。温度も湿度も下がり、穏やかな天気の過ごしやすい日々が続いています。
台風や大雨の影響で折れた木々の枝も元気に復活し、前回の台風『子犬』の話も遠くに感じられるようになった先日。今度は猫のニュースがわたしの目に飛び込んできました。
上海から100キロほど離れた街で、にゃんと1000匹以上もの猫が食用として違法に取引されようとしていたところを取り押さえられたのだとか。* 実は香港でも今年2月に油麻地で犬肉、猫肉を販売した男が逮捕されたばかりです。
近年では中国でも犬食猫食禁止の風潮が高まってきていますが、香港では英国の統治下にあった1950年、既に犬肉も猫肉も流通、販売及び消費が法律で禁止されました。わたし自身は『絶滅危惧種ではなく、飼育や屠殺方法がある程度倫理的で、また食品衛生上安全』という条件を満たしている場合、食べていい動物といけない動物を決めるのはとても難しい問題だと思っています。
一方、文化や宗教、また個人の心情により、特定の動物を食することに関して不快になる人々がいるのも事実。例えば、わたしが香港移住前に住んでいたイギリスなら「日本で馬刺しを食べた」「韓国で犬を食べた」という話題は避けるのが無難でしょう。そしてこの中華圏における猫食の話題も……!
しかし冒頭のニュースからもわかる通り、中華圏では猫肉の食文化が事実としてありました。例えば「食は広州にあり」という文句で知られる広東地方の『龍虎鳳』という料理。これは『龍』が蛇肉を、『虎』が猫肉(またはハクビシン肉)を、『鳳』が鶏肉を表しています。
それでは、今回のテーマ『猫』にまつわる表現の中から、そんな食文化に由来したものをまず見てみましょう。
『食死猫』
死んだ猫を食べる!?
新鮮な肉を好む中華圏の食文化。市場では鶏もカエルも生きたまま売られているのに、猫に限って「死んだ肉を食べる」とはどういうことでしょう。
『死猫』とは理不尽なこと、そして『食死猫』という表現で理不尽な災難が自分の身に降りかかることを意味します。我が家の例で見てみましょう。3人兄弟が仲良く部屋で遊んでいると思ったら、突然次男が「ギャー!」と泣き叫ぶ。何事かと駆けつけたわたしに、三男がすかさず「長男が次男をぶったー!」と。そして横で漫画を読んでいただけの長男がこっぴどく怒られる。本当は三男が次男を引っ掻いたのに……。このこっぴどく怒鳴られた長男の状況がまさに『食死猫』であります。
『為食猫』という、『食死猫』と字面のよく似た表現もあります。
『為食猫』
これは食べることが好きな人、食いしん坊の意です。そのためでしょう、『為食猫』の名前をつけたレストラン等をたまに見かけます。でも意味を知らないと『食猫』という字から「あそこの店では猫肉を提供するのか……。違法ではないのか」と勘違いしてしまいそうですね!
さて我が家で一番の『為食猫』の長男は『食死猫』の憂き目に遭いました。それを見た次男が「可哀想な長男!」と今度は大粒の涙。でもそれはきっと『猫哭老鼠』に違いありません。『猫哭老鼠』? それは『猫がネズミに同情して泣く』わけはない、つまり偽の哀れみを意味します。次男のこの涙は優しさを装った嘘の涙というわけです。
さて、猫を使った表現は他にもあります。
『出猫』
呼ばれて飛び出てにゃにゃにゃにゃーん! と猫が出てくる? いえいえ、これは日本語の『カンニング』を意味します。テストで解答が分からない時に隣の秀才君の答案を盗み見るずるい行為のことですね。ちなみにカンニングペーパーは『猫紙』です。
なぜ『猫』なのでしょう。諸説あるようですが、あのすばしこさと表情から、猫にずるいイメージが結びつき、定着したのかもしれませんね。
そして最後にご紹介するのは『三脚猫功夫(カンフー)』です。
これは、表面的な知識だけはあるけれど、本質を理解していない人を指す言葉だそうです。わたくし流に解説いたしましょう。「猫が片手をあげて三脚でジャンプするとそれなりにカンフーのポーズに見える。しかし彼らがカンフーの極意を理解しているかと言えば決してしていないだろう。つまりこれは、形だけで中身が伴っていないこと、ひいてはそういう人間のことを言い表しているのだ」。
中国語の読み書きができないのに、こんなふうに勝手な解釈をつけて偉そうにしている。もしかするとそんなわたしがまさに『三脚猫カンフー』かもしれません!
さて、今月は師走。『猫も杓子も』クリスマスに浮かれる季節です。また『猫の手も借りたい』ほどお忙しくなる方や、休暇に入り、義理のご両親宅に『猫を被って』ご挨拶に伺う方もいらっしゃるかもしれませんね。
寒くなりますが、皆様お身体にお気をつけてニャンダフルな冬をお過ごしください。
それではまた次回!
* https://www.bbc.com/news/world-asia-china-67225496
小林杏 (Anne Kobayashi)
東京都出身、青山学院大学仏文科卒。ニュージーランド、日本、フランス、英国での就業経験あり。ロンドンでの出産子育てを経て、2020年に来港。今まで住んできた土地のように、香港も愛おしい場所となりつつある今日この頃。趣味は読書、舞台芸術鑑賞とカンフー映画鑑賞。
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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