2026/09/17

「M+ at Night」をご存知ですか? 西九龍文化地区にあるアジア初のヴィジュアル・カルチャー美術館「M+」が営業を終えた後に行われる話題のイベントです。ライブミュージックやお酒、タトゥー体験や識者トーク、サイレントディスコなど、まるでクラブにいるかのような体験や、知的なワークショップが楽しめるんです。
夜のM+はスタイリッシュかつエキサイティング!©️Linda Hung Hom
2026年秋の『M+ at Night』は、9月・11月・12月の計3回開催されます。この度、Hong Kong LEIは9月4日の『M+ at Night』のライブに出演した香港の注目ラッパー、ノヴェル・ファーガス(Novel Fergas)にショートインタビューを敢行しました!
サミー・チェン (鄭秀文) やMCチョン・ティンフー(張天賦)など大物歌手との共演歴をもち、近年じわじわと活動の幅を広げているノヴェル。彼は香港映画や文学、仏教思想からインスピレーションを受けたリリックで、下町の生々しい日常やアンダーグラウンドな世界を語りかけ、若い香港人たちからの絶大な支持を得ています。今回のインタビューでは、彼の音楽に対するアプローチなどについてお伺いしました。
©️Linda Hung Hom
初めまして、どうぞよろしくお願いします。
まず、日本の多くの人にとって、広東語ラップはまだ未知の領域です。あなたは広東語ラップを通して何を表現しようとしていますか?
表現したいことはテーマや内容も多岐にわたってたくさんあるんです。例えば、香港のローカル文化、あるいは香港映画、自分が育ったこの土地のこと、そしてここで何が起こったか、といったことです。それを表現するにあたって、ラップやヒップホップはストリートのもので、僕もまたストリート出身。そういう流れで(ラップに)辿り着きました。そうでなければ、どこかのメジャーレーベルと契約して、流行歌を歌うことになると思うんですが、自分にはこのスタイルが合うと思っています。広東語も同じで、広東語にこだわるのは、他人の模倣じゃない、自分のやりたいことをやりたかったからです。僕が英語で歌ったとしても、アメリカ人には到底かなわないから。
©️Linda Hung Hom
ラッパーになる前は、建設現場や厨房で働き、タトゥーアーティストとしても活動されていました。多様な仕事を経験する中で、最終的にどのようにラップミュージシャンの道へたどり着いたのでしょうか?
(ラッパーになる前)最後にした仕事はタトゥーアーティストですが、決まった作業の繰り返しで、それじゃ自分が発揮できないと感じました。でも、音楽はすべて自分の思うようにコントロールできて、表現ができます。それが(ラップミュージシャンとなった)理由ですね。多様な仕事を経験したことは今の創作活動に活かされています。その時のできごとがインスピレーションになったりもしていますね。それと、さまざまな世界に実際に触れたことで、オーディエンスの共感が得られているんだと思います。自分だけの閉じた世界観だけで創作すると、必ずしも共感は抱いてもらえないんじゃないかなと。「違うんだよなー」って思われちゃいますよね。
©️Linda Hung Hom
あなたのリリックには、中国古典詩や仏教用語、香港映画のセリフなどが取り入れられてますね。こうしたアプローチを取り入れる理由を教えてください。
僕は「仏教徒」ではないですが、仏教用語をリリックに取り入れます。もし自分が信仰の対象として選ぶとすれば、それは仏教だろうと思っているからです。他の宗教や思想に比べて、仏教の「自己を内省し修練する」という教えが自分に合っていると感じるんですよね。仏教に関心を持ったのは……自分がもっと良くなりたい、とか、自分の望む生活や生き方を考えるとき、それはすべて自己修練とか、自分の内面を考えることにつながりますよね。だから、仏教の「自分で考えて、自分に疑問を投げかける」ところに共感するんです。
香港では道教が一般的ですよね
いや、香港では、お金が最も信じられてますけどね(笑)。
©️Linda Hung Hom
あなたの楽曲には、香港の労働者階級の街である深水埗のダークな日常が描かれています。この街を知らない日本のリスナーがあなたの音楽を聴いたとき、どのような香港の風景や感情を感じ取ってほしいですか?
正直、こういうものを感じてもらおう、と意図してはいないんですよね。感じてもらうために、わざわざ何かを込めている訳ではないです。例えば僕は日本語はわからないんですけど、日本の作品に触れた時に「ああ熱血だ」、とか「すごく整ってるな」とか感じます。そんな風に曲を聴いたり、見たりしてもらって、結果、香港をどう感じるかは、日本のリスナーのみなさんのそれぞれの感性に任せたいですね。
©️Linda Hung Hom
日本文化から影響を受けた部分はありますか?
それは絶対にあります。日本文化の輸出の影響はすごいと思います。1980〜90年代の香港では、ポップスの多くが日本のカバー曲だったほどですから。自分も広東語版の日本の曲を聴いていました。日本といえば、今回のアルバム『花燈(FADON)』では日本のラッパー、MaddySomaとコラボしています。
日本のリスナーが初めてあなたの名前や音楽に触れるとしたら、最初にどの一曲を聴いてほしいですか?その理由も教えてください。
『江湖』※ですね。それは、観光客は到底見ることのない世界だからです。
※補足情報:『江湖』について
タイトルの「江湖」は、裏社会やストリートの掟、生き様を指す言葉。歌詞には、下町の路地裏、闇金融、ストリートのタトゥー、香港映画でおなじみの三合会(黒社会)の伝統的な誓いの儀式や歴史背景(「反清復明」の名残)まで、リアルな香港の陰影が描かれています。単なる過激な表現ではなく、何世代にもわたる人々の葛藤.や時代の哀しみを歴史・文学的アプローチで描写している、彼の真骨頂とも言える作品。リリックを通して、華やかな観光都市・香港の裏側にある「もう一つのリアル」を垣間見ることができる1曲です。
自らが立ち上げた音楽レーベル『Yack Studio』の所属アーティストと共に。©️Linda Hung Hom
今年は映画主題歌の制作や炭酸飲料の広告キャンペーンへの出演など、活動の幅を広げています。今後の計画やビジョンについて教えてください。
これからの計画としては、東南アジア、中国、台湾、そして日本やタイでもツアーができないか画策しています。
最後にHong Kong LEIの読者へのメッセージをお願いします。
広東語はとてもエキサイティングで、その内側には無限の要素が詰まっています。もし少しでも興味を持ってもらえたなら、映画でも音楽でも何でもいいので、ぜひ広東語の作品に触れてみてほしい。彼らがそこで何を表現しようとしているのかを、その目で、耳で感じてみてください。
ありがとうございました!
インタビューが行われたのは、彼のライブ直前でした。言葉を選びながら語る静かな青年…… そんな印象を抱いたまま迎えた数十分後、爆音のような歓声と熱狂に包まれた観衆を前に、情熱的にリリックを畳み掛けるステージ上のノヴェルにただただ圧倒されました。
まるで別人のようだと思ったものの、後に取材の録音を聞き返したとき、スッキリ納得できました。インタビュー時の落ち着いた声の端々にも、ステージを熱狂させたものとまったく同じパワーが込められていたのを感じたからです。広東語という母語にのせて、今の香港を泥臭く歌う彼が、なぜ香港の若者の絶大な支持を受けるのか……。その答えを、彼自身の「声」が教えてくれた気がします。今後の活躍をHong Kong LEIも応援したいと思います。
次回の『M+ at Night』は2026年11月6日(金)。香港の人気バンド『RubberBand』、インディー・バンド『Goodnight Lillie』、そしてゴミ埋立地の廃材から作られた楽器で演奏する、パラグアイのオーケストラで、本公演が香港初公演となる『The Recycled Orchestra of Cateura』が登場します。さらに広東ポップディスコの「節拍星期五」(Beat Friday)もやってきます!見逃せません!
2026年の最終回は12月4日(金)。注目の女性ポップシンガー、クラウド・ワン(雲浩影)、香港アンダーグラウンド界の最高峰レーベル『Wildstyle Records』所属のラッパーマット・フォース(Matt Force)などのライブが企画されています。
M+ at Night
会場:M+博物館(M+ Museum)
住所:West Kowloon Cultural District, 38 Museum Drive, Kowloon, Hong Kong
開催日:2026年11月6日(金)、 2026年12月4日(金)
料金: 通常価格はHK$320ですが、10月11日まではアーリーバード割引が適応され、HK$HK$240に。フルタイムの学生チケットはHK$160。(数量限定)
詳細はM+公式ウェブサイトをご確認ください。
取材・文:紅磡リンダ(編集部)
通訳・翻訳:大澤真木子
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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