2026/02/18
先日の記事でも紹介した通り、香港には「賀歳片」と呼ばれる、旧正月の時期に公開される、家族で楽しめる映画のジャンルがあります。今、まさに話題の賀歳片が続々と公開されている中、注目作品のひとつが『金多寶』(英題:The Snowball on a Sunny Day)。今回、Hong Kong LEIでは監督のフィリップ・ユン(翁子光)にインタビューを決行しました!「賀歳片」と「金多寶」について、監督と日本との関わりや、今後のプロジェクトなどについてお伺いしました。
フィリップ・ユン(翁子光)監督
香港出身。映画監督、脚本家、プロデューサー
初監督作 Glamourous Youth(2009)が香港電影金像奨(以下「香港アカデミー賞」)の最優秀新人監督賞にノミネートされ注目を集める。2015年の『九龍猟奇殺人事件』(踏血尋梅)は高い評価を受け、第35回香港アカデミー賞で最優秀脚本賞、第22回香港電影評論学会大奨で最優秀作品賞を受賞。前作『爸爸』(2024年)は第43回香港アカデミー賞で3部門を受賞。現在最も注目される若手香港映画監督の一人。また、プロデューサーとして参加した『正義廻廊』は、2月に日本での上映が決定している。
ⒸLinda Hung-Hom
インタビュー会場に現れた監督はTシャツにデニムジャケットというカジュアルな装い。プロフィール写真から受けたやや厳しい印象とは異なり温厚な印象。新作映画の宣伝のまっさ中のハードスケジュールにも関わらず、笑顔を絶やさず問いに答えてくださいました。
香港のお正月映画、「賀歳片」について
Hong Kong LEI:先日公開されたばかりの監督の最新作『金多寶』は笑いあり、涙ありでとても楽しく鑑賞しました! この映画は「賀歳片」と呼ばれるジャンルですよね。これは、どういうものでしょうか?
ユン監督:「賀歳片」は香港ではもう伝統となっている文化です。昔から広東人はご近所付き合いを重視してきましたが、特に香港では非常に狭い場所に、多くの人がかたまって暮らしているので、必然的に近所づきあいが深くなります。お正月には「恭喜發財!」とあいさつをして回ったり、ご近所さんと一緒に歌を歌ったり……。こういった「ご近所さん文化」を題材にした映画作品が香港の特徴です。
Ⓒ美亞娛樂 Mei Ah Entertainment
中国本土の映画市場にも「賀歳片」は存在するんですが、単に「旧正月に上映される映画」という意味にとどまり、「賀歳片」が映画の一ジャンルとして成立している香港と状況は異なります*。香港では通常、コメディーで、ご近所づきあい、家族、正月の挨拶が出て来て……。あと、キャストが多い点が特徴的な要素です!
*諸説あります
Hong Kong LEI:『金多寶』も豪華キャストですね。主要メンバーのほかに、マイケル・ホイ(許冠文)、シャーリーン・チョイ(蔡卓妍)、ルイス・クー(古天樂)なども出演していました。
ユン監督:『金多寶』では、ゲストのキャストを使って子どもの頃に見た映画への思いを織り込みました。今、低調気味な香港映画業界を励ましたいという思いなんです。あと、香港が失いつつあるもの(価値観・モラル)もです。子どもが転んでしまって、おばあちゃんが「自分で立ち上がりなさい」と諭す、といったエピソードを使って、多くの香港人が抱いている思いも盛り込みました。
Ⓒ美亞娛樂 Mei Ah Entertainment
日本について
ユン監督:逆に他の文化から来たあなたに伺いたいんですけど、映画を観てわかりにくい所はありましたか?
Hong Kong LEI:香港文化の理解がまだまだなので、表面的なレベルかもしれませんが、すごく楽しめました。香港人はもっと一歩深い意味で楽しめていたと思うので、すごく羨ましいです。
ユン監督:ああ、僕も日本の映画やTVドラマからたくさん学んだんです。例えば、僕が観たのは『サインはV!』(青春火花)、『ひとつ屋根の下』(同一屋檐下)などですが、わからない所はたくさんありました。でも後から「日本人ってこうなんだ」と理解、納得したりするんです。ちなみに『金多寶』ポスターも『ひとつ屋根の下』にインスパイアされたんですよ、へへへへ!(笑)。
わたしの言いたいのは、この映画にわからないところがあっても、気にしないでくださいということ。みんなそれぞれの国の映画を見て、徐々にその場所を理解する訳ですから。
左)『ひとつ屋根の下』のDVDジャケットと自作のポスターを並べてくれた監督。
監督の次プロジェクトと香港映画の今後について
Hong Kong LEI:この映画を製作するために自腹を切ったそうですが、そこまでの情熱というのはどこから?
ユン監督:今の香港映画界はあまり奮っていません。わたしができる解決方法は映画を撮ることです。ただ、この映画を作る際、充分な投資が得られなかったので、自分のお金を出したという訳です。……なので、わりと商業的な作品にしました。お金を遣いっぱなしにしたくはないですからね、ハハ(笑)。
Hong Kong LEI:この映画のように、宝くじが当たるといいですね!
ユン監督:ワハハハ!
ⒸLinda Hung-Hom『金多寶』のプレミア上映前の記者会見にて
Hong Kong LEI:監督の、今後のプロジェクトについて教えてください。
ユン監督:次作『紙盒藏迷』の撮影は終わっています。これは前作『九龍猟奇殺人事件』と「お父さん」同様、実際の事件に基づいた作品です。『九龍猟奇殺人事件』は日本でも公開されたんですが、日本の石井岳龍監督に、この映画を見たと言われてびっくりしました。自分たちの映画をまた日本に持っていきたいです。そうそう、僕がプロデューサーとして参加した『正義廻廊』が今月末(2月27日)から日本でも上映されるんですよ。
『金多寳』も日本で上映されて、出演俳優たちを紹介できたらいいなと思います。ジョン・シュッイン(鍾雪瑩)や、イーダン・ルイ(呂爵安)とか。日本の観客も彼らを好きになると思います。
Ⓒ美亞娛樂 Mei Ah Entertainment
Hong Kong LEI:先日、第44回香港アカデミー賞のノミネート作品が発表されました。これについて、そして今後の香港映画についてどう思われますか?
ユン監督:香港映画の本数が足りないのがとても心配ですね。自分たちは、なるべく多くの映画を撮っていきたいです。
同時に、香港映画は外に向かうべきだと思います。新世代の監督たちには、どんどん海外に出て行ってほしい。それから、香港映画のジャンルを増やしたいです。香港ではもうしばらく、ホラー映画とか、SF映画とかが作られていないですよね。コメディーも、ブラックユーモアも足りない! やるべきことはたくさんあります。
Hong Kong LEI:本日は貴重なお話、ありがとうございました。
香港映画の未来を真剣に考えながら、ジャンルにとらわれず多くの作品を撮りたい、そして海外の観客にももっと届けていきたい、と語ったユン監督の言葉には、映画そのものへの深い愛情と、香港映画をさらに前へ進めたいという強い情熱が感じられました。真摯に映画製作と向き合うその姿を、これからも応援していきたいですね!
Ⓒ美亞娛樂 Mei Ah Entertainment
取材・文:紅磡リンダ(編集部)
通訳・翻訳:大澤真木子
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