2023/09/01

先日日本に帰国した際、宝塚ファンの友人と推し活について語り合っていた時のこと。彼女から激しく勧められたのがオペラグラス。そういえば持っていなかったと即座に買い求めましたが、香港に戻って気づきました。Mirrorのコンサート鑑賞にオペラグラスは必要ないどころか、邪魔になることに。

 

日本の友人には驚かれるのですが、Mirrorのコンサートでは大型カメラでの長時間にわたる撮影こそ禁止されていますが、携帯を使った個人で楽しむ範囲の撮影はかなり寛大にお目こぼしされています(注:許容のレベルは会場によって濃淡アリ)。これらの写真やショート動画は翌日、ファン達の思い出の記録としてSNSを飾ります。こうして考えると、推しの応援方法には香港独自の流儀がありそうです。では、8月末に行われたEdan(呂爵安)のコンサートを例に検証してみましょう。

Mirrorメンバーの一員、Edan のソロコンサートポスター。公演前には期待と共に、後には思い出と共に、何度も眺めて日々のエネルギーを補給します。

 

まず、愛しの推しのプレシャス・モーメントが録画できるということで、抜かりなく準備したいのが充電用スペアバッテリー。コンサートの準備はスペアバッテリーの充電から始まります。ちなみに、この携帯用の充電池の呼び名は【尿袋】。ユーモアのセンスに溢れた鏡粉の用語かと思いきや、なんと広東語の一般用語らしいのが驚きです。コンサートに尿袋は必須とは言っても、コンサート会場のトイレの混雑とは無関係なのです。

一度のコンサートで複数の「尿袋」が必要。この写真はコンサートの前日、3個の尿袋を充電する様子。(写真提供: 爵屎G.M.)

 

ともかく、香港でのコンサート鑑賞時には2本しかない手のうち1本をオペラグラスで塞ぐなんてもったいないことはできません。利き手の務めが撮影ならば、もう1本の任務はペンライトを握ること。そう、香港のコンサートではペンライト【手燈】が大活躍します。もともとは韓国で始まったと言われるペンライト文化は香港でも花開き、コンサートでは必須のアイテムです。Mirrorのコンサートではグループ公式ペンライト、さらにメンバー個人のライトが販売されるので、どちらを使用するべきかという贅沢な悩みも発生します。「ペン」ライトとは言いますが、ソフトクリームより一回り大きいサイズで、おしゃれな懐中電灯といった外観。懐中電灯を持っていない我が家、非常時にはペンライトが大活躍しそうです。個々のライトは会場の席の位置と紐づけられ、Bluetooth で制御されています。コンサートの曲に同調して自動的に色が変わり、観客席がコンサートの舞台演出の一部となる仕組み。コンサート会場は、推しの曲と共にチームラボ気分が味わえる極楽と化すのです。

(右)M字を模したMirrorの公式ペンライト。(左)Edan のEがデザインされたソロ用のペンライト。どちらもBluetoothで制御されています。(写真提供: 爵屎T.C.)

 

コンサートのもう一つの楽しみに「応援区」なるものの存在があります。コンサート会場付近の別会場でファンが推しを応援するための特別エリアで、いうなれば「東京モーターショー」の様な展示会の推しバージョン。サッカー場程度の大きさの会場に、キラキラ輝く新車の代わりに推しが主役の展示ブースが軒を並べる、といったところです。各ブースでは、推しのための応援グッズやノベルティーが無料配布されます。推しの事務所が用意するのはカラの会場のみ。これらの展示会ブースのデザイン・設計、製作業者の選択・委託、当日の運営・撤去、チラシおよびノベルティー制作・・・全てファンが自腹を切って、自発的に行います。事務所の干渉を最小限に、ファンが思いに任せて推しへの愛をあますことなく表現できる応援区は、いわば推しとファンの「愛の巣」なのです。

(上)広大なサイズのオープン前の応援区。(下)オープン後はファンでひしめき合います。
展示ブースの例。写真は応援区の入場時間前に撮影。オープン後、各ブースは自撮りを楽しむファンで混雑します。写真提供:(上)EDAN LUI FAN CLUB JAPAN (IG: edanlui_jpfansclub)(下)呂團E.D.

 

食事に例えるとコンサートはメインコース、応援区は前菜といったところ。だとするとデザートはコンサート後の帰宅手段でしょうか。香港のコンサートの終了時間は午後11時から11時半頃と、かなり遅め。そこで登場するのが会場から香港主要エリア各地への特別バスです。このバスが支持されるのはお得な価格の交通手段だからというだけはありません。バス会社ができるだけ推しのラッピングバスをこのサービスに振り分けてくれるという粋な配慮をしてくれるのです。バスを利用しなくても、コンサート会場付近で待機している推しのラッピングバスの数々を眺めるだけでもう胸いっぱい。甘いデザートが食事を締めくくってくれるように、スイートな気持ちで楽しかった一日を締めくくることができるのです。

コンサート客のためにバス会社が配置してくれたEdanのラッピングバスの一例。片面はコンサート用ポスター、もう片面は新曲の宣伝となっています。

 

こうして考えると、Mirrorのコンサートは音楽を聴きに行くという受動的な楽しみに加え、ファンが自発的に楽しみを作りに行っている点が印象的です。Mirrorが自由度の高い、ファン参加型のエンタテーメントを提供してくれることが、Mirror応援を単なる「娯楽」から「ファンのライフスタイルの一部」に昇華させているのではないかと感じます。
ファンの自主性を尊重してくれてありがとう、Mirror!


紅磡リンダ(ほんはむ りんだ)
20年にわたる英国生活、広告代理店勤務、編集者稼業に終止符を打ち、2019年に香港に移住。
移住とともに人生初めてアイドルに目覚め、Mirror 沼に沈没。沼から鏡(ミラー)越しに見える、新しい香港を発見する毎日を送る。

Instagram 紅磡リンダ【星版】hunghom_linda_qedan


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