2026/04/01
先日、素晴らしいコンサートを観ました。それは、MIRRORの最年少メンバー、タイガー・ヤウ(邱傲然)のソロコンサート! グループの「末っ子」初のソロステージという事で、会場は彼を応援し続けた「小虎隊」(タイガーのファンの愛称)の熱気に包まれ、それに対峙するタイガーは譜面も、歌詞プロンプターも使用せずという真剣勝負の2時間でした。
ⒸLinda Hung-Hom
気持ちの高まる中、コンサート開始から僅か10分ほどで、突然アクシデントが。一緒に来ていた娘が体調が悪くなり、帰宅したいと言うのです。夜の街をひとりで歩かせるわけにもいかず、一度会場を出ることに。タクシーを捕まえて、乗り込むのを見届けて…‥‥ロスタイムおよそ25分。ここでライブの一部を見逃して「いい母親」ができたのは、ひとえにファンカムの存在のおかげです。
ⒸLinda Hung-Hom
「ファンカム」が意味する範疇は色々ありますが、ここで指すのは、会場にいるファンが撮影しSNSに投稿したコンサート映像のこと。今回は、あとでファンカムを観ればいいやと、わたしは躊躇せずに娘の見送りができたという訳です。もちろん、見逃した楽曲は帰宅後に無事、全曲視聴できました。
香港のポップスのコンサートでは、携帯で録画しながらの視聴はごく一般的。コンサート後のSNSには会場のさまざまな角度から撮影された動画が次々とアップされるので、それを見るのも楽しみの一つです。自席からは見えなかった推しの表情や動きが、他のファンの映像ではしっかりと映っている。そんな発見を提供してくれるのがファンカムなのです。
ⒸLinda Hung-Hom
良い点は他にも。このタイガーのコンサート、MIRRORのメンバー6名が会場に応援に来ていたのですが、一般の観客席に座っていた彼らの姿は、わたしの位置からは見えづらいものでした。でも、近くにいたファンが撮影した動画では彼らがコンサートを楽しむ様子がバッチリ。スタンディングでノリノリに盛り上がるジェレミーとスタンリー、マイペースに腰を下ろして聴き入るイアン。思い思いのスタイルで音楽を楽しむ姿が新鮮でした。こんな棚ボタ映像が楽しめるのも、ファンカムがある香港ならではです。
タイガーを応援に来ていたメンバー。左から:イアン・チャン(陳卓賢)、ジェレミー・リー(李駿傑)、スタンリー・ヤウ(邱士縉)ⒸLinda Hung-Hom
もともと、ファンカムを「コンサートに参加できなかった時の代替手段」としか考えていませんでしたが、最近、このファンカムこそが香港の「推し活」をより豊かにしている重要な要素の一つだと思うようになりました。ファンが各々の視点から推しを撮影し、その中である人は推しの細やかな表情や仕草に、ある人は舞台設計に注目した投稿をし、またある人はトークに感動し、字幕を付けて思いを発信します。このようにアーティストが創り上げた「コンサート」という作品を、ファンが自らの視点や解釈で再構築し、SNSで共有することで、同じ公演を観た人も、異なる角度からその夜をもう一度体感できる――香港ではそんな重層的な楽しみ方がデフォルトなのです。
左から:アルトン・ウォン(王智德)、ロックマン・ヨン(楊樂文)、アンソン・コン(江※生)ⒸLinda Hung-Hom
もちろんコンサートの記録として、アーティスト公式からリリースされる映像には、重要な価値が存在するのは言うまでもありません。それは、アーティスト側が理想とする表現を、プロの撮影隊が最適な位置と緻密なカメラワークで具現化した、いわば公式的な「正典」としての映像です。
その対極が、自分自身が撮影した動画。これはチケット争奪戦の結果、偶然得られた座席から撮られた、一視点の記録にすぎません。位置も最適ではなく、撮影技術も拙い。でも、そこには「自分の目でガッツリ見た推し」のリアルな姿が刻まれており、ゆえに強い愛着のある「個人的な記録」としての意味を持つものです。これも重要。
ⒸLinda Hung-Hom
そして、その二つの間に位置するのが「ファンカム」です。同じ推しに惹かれながらも、異なる解釈を持つほかのファン達の視点に触れることで、わたしたちはますます推しを深く、そして多面的に理解することになります。推しにハマったファン達をさらなる深みに誘い込む、アリジゴク製造システムと言えるかもしれません。
ⒸLinda Hung-Hom
最後になりますが、今回のコンサートで特に胸に残った出来事をご紹介。タイガーのファンクラブの皆さんは、人徳者が多いことで知られています。自分のことは二の次にして、タイガーのために全力で動く「縁の下の力持ち」。なかでも会長は、その謙虚で誠実な人柄から、一目置かれる存在です。今回のコンサートでは、そんな会長にタイガー自らが感謝のハグを贈る瞬間がありました。その光景に、会場中から祝福の歓声が湧き上がったのです——ファンとアーティストの間にある深い絆を感じられる、感動の瞬間でした。
そしてなぜ、それが目撃できたいい場所にわたしがいたのか。実はその少し前、ひとりのファンが突然「自分はもう十分観たから、次はあなたがタイガーを観て」と言って、わたしに最前列の場所を譲ってくれたからなのです。こんなことができる人、いったいどれほどいるでしょう。その思いやりに胸が熱くなり、タイガーのファンのあたたかさを改めて感じました。
ファンカムでファンを深みに沈めるのもファン、現場の感動を作るのもファン。このコラムでは何度も繰り返していますが、改めて感じる、MIRRORの推し活における鏡粉(MIRRORファンの愛称)の重要さよ! 鏡粉がいるからこその、楽しい推し活。
いつもながら……ありがとう、MIRROR、ありがとう、鏡粉たち!
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紅磡リンダ(ほんはむ りんだ)
20年にわたる英国生活、広告代理店勤務、編集者稼業に終止符を打ち、2019年に香港に移住。
移住とともに人生で初めてアイドルに目覚め、MIRROR 沼に沈没。沼から鏡(ミラー)越しに見える、新しい香港を発見する毎日を送る。2025年は66回 MIRRORのコンサートやイベントに参加する程の中毒に。現在、大学院生として香港の歴史(特に映画の歴史)を学んでいるが、そのきっかけがMIRRORだったことは、教授には内緒。
Instagram 紅磡リンダ【星版】hunghom_linda_qedan
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