2021/02/19
発酵盆菜:柱侯醬炆蘿蔔
(ファ ハゥ プン チョイ:チュ ハァウ ジョン マン ロ バッァ)
【香港田舎スタイルのおせち料理ベース味:大根の煮物】
わたしが小さかった頃の香港の旧正月では、お祝い料理である「盆菜」(プン チョイ)を良く食べましたが、我が家では一度も出たことがありませんでした。「盆菜」とは元々田舎地方の香港原住民の独自のお祝い料理で、大きめな木製桶に様々な素朴なご馳走を詰めてお祝いの料理として頂く食べ物です。旧正月だけでなく、どんなお祝い行事にもこの大桶料理を食べる習慣があったそうです。
最近では、「盆菜」は商業化されてきて、田舎地方限定だけでなく、だんだん香港の人々にも普及し、お正月になると「盆菜」という香港式おせち料理を食べるようになりました。円卓に囲む食文化に馴染みがある香港人にとっては、この見た目が豪華で、全ての材料が一皿完結系になっている家族団らんの手っ取り早いお料理として人気が高まりました。特に今年コロナ禍でテイクアウトに注目が集まり、テイクアウトや出前ができる香港のおせち料理なら「盆菜」しかないので、今年は爆発的な人気になりました。
日本のおせち同様に準備するのに数日間程度かかります。先ず、大根と豚肉の味噌煮を作ります。味を馴染ませるために事前に作っておく必要があります。この豚肉の味噌煮込みは桶の一番下に敷いて、ベースの味になります。その上に、好きな惣菜を載せます。蒸し鶏、香港チャーシュー、パリパリ皮付き焼き豚、近年は贅沢志向で香港の盆菜に鮑のうま煮も必ずでてくるようになりました。
下敷きとなっている大根と豚肉の味噌煮は「柱侯醬」(チュ ハウ ジャン)か「南乳」(ナㇺ ユ)という発酵中華調味料で味付けしています。柱侯醤は香港版味噌とでも言えるが、大豆の発酵ペーストに塩・砂糖・ニンニク・醤油・胡麻油などの合わせ味噌になります。19世紀初頭、広東省仏山市の梁柱侯シェフが売り出した自家製調味料が人気になり、全国的に広まったものだそうで、シェフの名前が調味料の名前になったようです。
日本には「柱侯醬」はなかなかないですが、最近「東京江戸甘味噌」をベースにして、ねりごまとすり下ろしにんにくを合えたら、意外にも香港の「柱侯醬」の味に似ていました。わたしの趣味は、日本の調味料で香港料理やアジアン料理を再現すること。「柱侯醬」とは、甘味がある合わせ味噌ですから、東京江戸甘味噌に似ているところがあるんですよ。
東京江戸甘味噌は現代に蘇った味噌です。短時間で仕上げるため、大量米麹で仕込んだ江戸地域の贅沢な味噌です。戦時下では米不足であり、たっぷり米麹を使って作られた味噌は贅沢品と見なされ、結局製造中止になりました。最近、東京江戸甘味噌は昭和初期の古い文献中の記述をきっかけに、戦前の様々な文献を紐解き、試作を重ね、現代の東京にその復活を果たしました。
盆菜は日本のおせちのように既に食べられる状態になっているものですが、香港人は冷たいお惣菜を食べる習慣があまりなく、盆菜の容器を直接コンロにのせ、温めながら食べるのが一般的です。
盆菜にのせるお惣菜は買ってくるものが多く、ベース味になる大根と豚の味噌煮を作っておけば、盆菜は簡単に家庭で再現できます。
Tips: 豚のバラ肉は油が多いので、活性酵素が入っている塩麴でしっかり下処理したら、油っぽさを軽減できます。 |
材料 (2人分)
豚のバラ肉………. 300g
大根………………… 600g(正味)
こんにゃく………..200g
揚げボール………..130g
<豚肉の下茹用材料>
青ネギ………………… 10g
生姜の皮…………….. 5g
粒胡椒…………………… ½ 小さじ
紹興酒…………………….. 2 大さじ
水……………………………..適量
<煮込み用調味料>
柱侯醬…………………….. 2 大さじ
醬油………………………… 1.5 大さじ
甘麹………………………… 2 大さじ
(無ければ砂糖1大さじ)
味醂………………………… 1 大さじ
紹興酒…………………….. 1 大さじ
おろしにんにく………… 1 大さじ
青ネギ…………………….. 10g
胡椒………………………… 少々
水……………………………..800cc
<豚肉の下茹で>
1.豚のバラ肉を2㎝の厚さで切っておく。
2.ボウルに肉をギリギリ被せる程度の水と分量外の活性酵素塩麴小さじ1を入れる。1時間以上に入れておく。(血抜きにより、豚肉の臭みを消す。)
3.鍋に綺麗に洗ったバラ肉を沈むぐらいの水を入れ、青ネギ、生姜の皮、粒胡椒、紹興酒をいれ、煮立ったら中火にし、2分ぐらい煮たら、引き上げて肉を綺麗に洗う。
<煮込む>
1.大根を皮を剥いて大き目に乱切りする。
2.こんにゃくも大根のサイズに乱切りする。
3.揚げボールは湯通ししておく。
4.煮込み用調味料を合わせておく。
5.鍋に肉、こんにゃく、揚げボールと4の煮込み用調味料、水を入れて、火にかけ、沸騰してから中火から弱火で20分ぐらい煮る。大根を入れ、更に20分を煮込む。作り立てより、一晩寝かせたほうが味がしみ込んでより美味しくなれます。
もし、市販の柱侯醬が手に入らないと自家製の柱侯醬を簡単に出来ます。
*自家製柱侯醬
東京江戸甘味噌(赤味噌)……………..3大さじ
練りごま…………………………………… 1.5大さじ
おろしにんにく……………………….. 1小さじ
砂糖(赤味噌の場合のみ加える)…… 1小さじ
油…………………………………………….. 1大さじ
材料を合わせたら、鍋に乾煎りして、ペースト状になったら完成です。
雲姐(ワンジェ)
料理研究家。香港に生まれる。幼少期、平日は祖母、週末は料理が趣味だった父の手料理を食べて過ごす。オーストラリアへ移住を経て、結婚を機に日本へ移り20年以上。中国国際薬膳師、発酵食品ソムリエ、発酵ライフアドバイザーの資格を持ち、中華圏および日本の食文化への造詣も深い。現在は、日本の人々に香港料理を伝えるべく東京で活動中。
人在東京 Prime Kitchen Labo
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