2024/08/15
鮮蝦雲呑
(シン ハ ワンタン)
香港の海老雲呑
父はいつも食事の選択において妥協を許しませんでした。それもあってか、我が家ではあまり外食をしませんでした。
ある日、貴重な外食の機会に、わたしはマクドナルドのビッグマックとミルクシェイクをどうしても食べたかったのですが、父はどうしても雲呑麺を食べたいと、一歩も譲りませんでした。
香港の九龍、尖沙咀の加連威老道と加拿分道の交差点には右にマクドナルド、左に雲呑麺屋がありました。 我が家では子ども優先という選択肢は存在しなかったので、 父は左側の雲呑麺屋の方へ向かいました。しかし本当に本当に、どうしてもマクドナルドが食べたかったわたしは、右へ進みました。
けれども、わたしの進行は母によって阻まれてしまい、結局わたしがマクドナルドでビッグマックを食べてから雲呑麺の店に向かうことになりました。父はマクドナルドでは何も食べずにただ座っているだけでした。一方で雲呑麺の店では、わたしが麺に手を付けることはありませんでした。
このようにして、わたしたち家族の食事の選択は、いつも父の頑固さとわたしのわがままの間で揺れ動き、母はその間に挟まれて困っていました。 振り返ってみると、わたしは父の性格にそっくりなのかもしれないかと思いました。互いに食べ物に対して一歩も妥協しない頑固さが、わたしたちをさらに似たもの同士にしていたのかもしれないです。
数十年後、当時の父の年齢になった自分、あの時のわがままさが少し丸くなり、自分の子どもたちのために柔軟に対応できるようになりました。 長女はお寿司が大好きで、週に何度も回転寿司に行きたいとねだります。わたしは、たとえスシローが特に好きではなくても、長女に合わせることを覚えたのです。父と比べると、自分には少しばかりの柔軟性があるではないかと、ひっそり思っています。
それでもマクドナルドを食べるたびに、あの日の雲呑麺のことを思い出します。ふと思い立ち、日本で手に入る材料を使って、父が食べたかった雲呑麺のスープと雲呑を作ることにしました。 台所でスープを煮込み、雲呑を包んでいくと、子どものころは自分が雲呑麺を作るなんて夢にも思いませんでした。
父が譲らない理由も分かりました。シンプルに雲呑麺は美味しいからです。 雲呑麺のスープは深い旨味が詰まった透明な琥珀色で、一口飲むと海の幸の旨味が口の中に広がり、奥深い味わいがします。雲呑は薄い皮に包まれたプリプリの海老やジューシーな豚肉が入っており、スープとの相性は抜群です。麺は硬めの食感、日本にない、香港ならではの味です。
そして今、もしマクドナルドのビッグマックと雲呑麺のどちらかを選ぶとしたら、わたしは間違いなく雲呑麺を選ぶでしょう。
写真には麺が入ってないですが、好みで中華の細麺を茹で入れて、香港雲呑麺を楽しんで下さい。
Tips: 市販のシュウマイの皮を麺棒で少し伸ばして薄くすると、香港の雲吞にそっくりになります。
香港の雲呑麺スープは、炙った大地魚(ダイデイユ:干しヒラメ)と干し海老でダシを取っていますが、日本では干しヒラメが手に入りにくいため、鰹節といぶりがっこで代用し、似たような味を再現しました。これは香港雲呑スープの代用品ですが、味は本物に近く、美味しく仕上がります。
材料(20個分)
シュウマイの皮 20枚
ブラックタイガー海老 150g
豚バラ粗みじん切り 50g
塩 2g
きび砂糖 5g
胡椒 少々
卵白 5g
胡麻油 5g
片栗粉 5g
海老掃除用:塩、砂糖、片栗粉 各適量
【雲呑スープ】
干し海老 50g
海老の殻 適量
鰹節 10g
いぶりがっこ 50g
にんにく 5g
生姜の皮 10g
黒胡椒(ホール) 1大さじ
ナンプラー 1大さじ
塩 適量(味見ながら加減して下さい)
胡椒 少々
水 1000cc
黄韮 適量
(小口切り)
下処理
1. 海老の下ごしらえ:
ブラックタイガー海老の殻をむき、背ワタを取り除きます。殻は空炒りしてからスープに使います。
海老をボウルに入れ、塩、砂糖、片栗粉(各適量)を加えて軽くもみ洗いします。その後、水でよく洗い流し、水気をしっかりと切ります。
2. 雲呑の餡を作る:
準備した海老を包丁で粗く叩き、豚バラ粗みじん切り、塩、きび砂糖、胡椒、卵白、胡麻油、片栗粉を加えて粘りが出るようによく混ぜ合わせます。
3. 包む:
シュウマイの皮を麺棒で少し伸ばします。雲呑の餡をのせ、中央に集めるように包みます。
〈作り方〉
1. ダシを取る:
鍋に干し海老、空炒りした海老の殻、鰹節、いぶりがっこ、にんにく、生姜の皮、黒胡椒(ホール)を入れ、水を加えて火にかけます。
沸騰したら弱火にし、約20分煮出します。
スープをこし器でこし、ダシが取れたら、スープの準備が完了です。
盛り付け
1. 雲呑を茹でる:
たっぷりのお湯で雲呑を茹でます。雲呑が浮かんできたら出来上がりです。
2. 仕上げ:
器に黄韮を入れ、茹で上がった雲呑を盛り、熱々の雲呑スープを注ぎます。
雲姐(ワンジェ)
料理研究家。香港に生まれる。幼少期、平日は祖母、週末は料理が趣味だった父の手料理を食べて過ごす。オーストラリアへ移住を経て、結婚を機に日本へ移り20年以上。中国国際薬膳師、発酵食品ソムリエ、発酵ライフアドバイザーの資格を持ち、中華圏および日本の食文化への造詣も深い。現在は、日本の人々に香港料理を伝えるべく東京で活動中。
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