2024/10/15
蛋白蒸蟹
(ダン バッ ジェン ダン)
中華風卵白蟹茶碗蒸し
ネットフリックスの料理サバイバル番組「白と黒のスプーン~料理階級戦争~」が、非英語作品として2週連続で視聴数世界1位を記録し、大きな話題となっています。
わたしもこの番組に夢中になり、そのドラマティックな展開に引き込まれました。途方もない予算をかけ、細部にまでこだわって作られたこのリアリティ番組は、まさに圧巻のスケールです。
セミファイナルでは「人生を料理せよ」というテーマに挑戦する挑戦者たちの姿が、とても心に残りました。
思えば、誰にでも人生において特別な一皿があるのではないでしょうか。
それは単に料理としておいしさだけでなく、その背後にある思い出や感情と強く結びついている一皿です。
誕生日に母が作ってくれた特別な料理、初めてのデートで味わったロマンチックな食事、仕事で失敗して落ち込んでいるときに先輩が慰めに奢ってくれた一皿。そうした料理が、人生の大切な瞬間を記憶とともに刻んでいくのです。
わたし自身の「人生を料理せよ」のテーマに照らし合わせるのなら、それは「花雕蛋白蒸蟹」(ファ ディウ ダン バック ジェン ハアーイ:老酒の香りが漂う卵白の蟹茶碗蒸し)です。
母方の祖父は腕の良いシェフで、自分の店を持ち、その料理は町中で評判でした。しかし、当時の飲食店経営は厳しく、料理は彼自身の楽しみのためではなく、生活の糧を得るための手段でした。
そんな祖父も次第にストレスを抱え、ついにはタバコやアヘン(麻薬)に手を出すようになり、最後には食道癌を患い、63歳で亡くなりました。
亡くなる直前、祖父は母に「上海蟹が食べたい」と頼み、蟹を食べた翌日に静かに息を引き取りました。
そのとき、食事がただの栄養補給や楽しみではなく、人生を閉じる瞬間においても何かを伝えるものだと感じました。
父もまた蟹が大好きでした。
ストレスを解消のため、父は週末に料理を楽しんでおり、特に「花蟹」(ファ ハアーイ:タイワンガザミ 渡り蟹の一種)を使った卵白の茶碗蒸しをよく作ってくれました。
晩年、父は飲み込むことが難しくなり、柔らかい食事しか口にできなくなりました。それでも、私は毎朝、父のために卵の蒸しプリンを食べさせていました。
そんな日々を過ごす中で、父もまた60代後半で生涯を閉じました。
祖父はお金を稼ぐために料理をしました。
父はストレス解消のため、週末の楽しみとして料理を作っていました。
二人とも60代で命を終えましたが、祖父の最期は「蟹」、父の最期は「蒸しプリン」、二つを合わせて作ったのがこの料理です。
では、わたしはどうでしょうか?
わたしはただ、自分を満たすために料理を作っています。
祖父と父が見せてくれたような「理由」や「使命」はありませんが、料理が持つ意味や力を二人から学んできました。
祖父と父を見て、わたしは思います……
何も大金持ちになる必要はなく、また貧しさに苦しむ必要もありません。自分が心地よいと思えるちょうど良いくらいの生活こそが、一番幸せなのだと。要するに、ストレスフリーな人生を送りたいです。
自分は祖父と父の60代壁を超え、楽しい人生になれば、それが「人生を料理せよ」の一皿になると思います。
人生は料理のように様々な味わいがあり、そのバランスこそが大切だと感じています。
本来の「花雕蛋白蒸蟹」はタイワンガザミを1匹丸ごと殻付きで使いますが、わたしは食べやすいようにずわい蟹を蒸し、その蟹の蒸し汁を卵液に加え、茶碗蒸しを作りました。蒸した蟹の身を解して、トッピングにしました。
Tips: 蟹の蒸し汁は大体海水3%塩分濃度があるので、薄めて使って下さい。
材料(1人分)
ずわい蟹:1杯
卵白 1個
ずわい蟹の蒸し汁 卵白の重量と同じ量
出汁 卵白の重量の1.5倍量
生クリーム 卵白の重量の0.5倍量
紹興酒 小さじ1
生姜汁 小さじ½
トッピング
解した蟹の身
パクチー
とびっこ
ずわい蟹を蒸す:
1.ずわい蟹を洗い、お皿に乗せます。
2.蒸し器に蒸気が立ったら、皿ごと蒸し器に入れ、20〜25分ほど蒸します。
3.蒸しあがったら、蟹汁を取っておき、蟹の身は殻から取り出しておきます。
茶碗蒸しを作る:
(蒸す時間はあくまでも目安です。容器の形によって蒸す時間は変わってきます)
1.卵を卵白と卵黄に分け、卵白のみを使用します。
2.ボウルに卵白、蟹の蒸し汁、出汁、紹興酒、生姜汁を入れてよく混ぜ、卵液を濾します。
3.濾した卵液を容器に入れ、ラップで蓋をし、竹串で空気穴として1箇所穴を開けます。
4.容器を鍋に入れ、卵液の高さまでお湯を注ぎます。鍋に蓋をし、中火にかけてお湯が沸騰したら、極弱火で20分間湯煎蒸します。
5.ラップを外し、解した蟹の身、とびっこ、パクチーを飾って完成です。
雲姐(ワンジェ)
料理研究家。香港に生まれる。幼少期、平日は祖母、週末は料理が趣味だった父の手料理を食べて過ごす。オーストラリアへ移住を経て、結婚を機に日本へ移り20年以上。中国国際薬膳師、発酵食品ソムリエ、発酵ライフアドバイザーの資格を持ち、中華圏および日本の食文化への造詣も深い。現在は、日本の人々に香港料理を伝えるべく東京で活動中。
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